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我輩は猫である

僕はこう見えて高校時代はラグビー部に所属していた。

その旨を言うと大体驚かれる。それくらいラグビーが似合わない体格だし、人格だと自分でも思っている。

昨日は高校ラグビー部のキャプテンと呑んだ。

ラグビー部のキャプテンは通称「もりも」という。おそらくこの時点で勘のいい読者は彼の姓をあてるだろう。一文字くらい省略せずに言えといいたい。

彼は高校1年生の時に自分のことを「もりも」ってよんでくれといっていた。自分でニックネームを指定してくるほど残念なことはない。

そう、彼は間違いなくいい奴なんだけど、間違いなく残念な奴なんだ。

そんなもりもを含めたラグビー部の同期は9人いて毎年1月1日に全員集まって飲むことを慣例にしている。

ただ、僕ともりもは僕の家ともりもの職場が近いこともありよく二人で飲む仲だ。

ラグビー部の中ではおとなしい部類の僕だが、もりもと二人だったら好き勝手なことを話せる。昨日もそうだ。

だいたい1軒目はどこかの立ち飲み屋で「1時間だけな。軽く飲もう」というが、その後、名残惜しいのかコンビニで缶ビールを買いつづけ、ほぼ終電で彼は帰ることになる。

お互いの仕事のこと。仕事の悩み。人間関係の悩み。家族のこと。両親のこと。将来の夢。高校時代の話。

「ほんとよく俺、啓におこられたわ。」

もりもはそう言った。

「あぁ、試合中な。」

「大学で助っ人で試合に来てもらった時もおこられたもんな」

「あぁ、居酒屋で試合の反省会したな。」

そう、何度も言うが、僕はラグビー部で普段はおとなしい地味なキャラクターだ。ただ、試合の時は冷静に吼えるタイプだった。

そんなこんなでコンビニの前でビールを6本くらい飲んでいたらただでさえ滑舌の悪い彼はますます何言っているかわからない状態になっていた。

そして、

「ベトナムからよく帰ってきてくれた。ほんとうに嬉しい」

と僕の肩をたたいて大げさに言った。

「なんで?仕事が終わったら帰ってくるよ」

僕は不思議になって聞いた。

「みんな心配してたんや」

「そうなん?」

「ほんま、どっかいってまいそうやもん。勝手にいくなよ。」呂律のまわらない状態で彼は何度も「よかった。よかった」と言った。

「わかったよ。」そんな彼の様子を見て僕はそういうしかなかった。

「なぁ、僕ってもりものなかでどんな人間なん?そんな風に思われるってどういう人間なん」

僕はふと気になって彼に聞いてみた。

彼は一瞬止まり、そしてにやりと笑った。その気持ち悪いこと・・・・。

「我が強い。強すぎる」そう言って爆笑した。

あまりにも突拍子のないことを言われて僕も爆笑した。

そう言われたことは40年近く生きていて今までなかった。

なるほど、僕は我が強いのか。自分のことをおとなしい人間だと思っていたけど、周りはそう思ってなかったんだ。

「いっちゃん、きついで。ガ。確かにうちのメンバーみんな我は強いけど、とびぬけて強いで」

そう言ってもりもは笑い続けた。

そして、ふいに笑うのを辞めて

「だから、どっか勝手に行くなよ」

そう、寂しそうに言った。

「ネコか・・・・」

僕はそうつぶやいて煙草に火をつけた。


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もりももそう言うけど、予感はあるんだ。

いつか僕はみんな捨ててどっかいっちゃんうんだろうなって。

でも、実は僕以上に周りのみんなの方がわかっているのかもしれない。

「まぁ、あいつらしいな」

「しかたないよな」

そう思われているのなら幸せだ。

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吐き出す煙とは裏腹に言葉は飲み込んだ


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