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【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第30話

ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで     ダンス劇小説を毎日連載!
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で
熊谷が60分の1人小説ダンス劇として上演致します。

第30話「それぞれな男」作.熊谷拓明

かかとから強くブーツを押しあてて、足の裏を丁寧に置き、腰に力を込める、つま先から抜く時にすでに反対のかかとを強く押し当てている。

東京では珍しく雪が降ると、テレビでは雪道の歩き方を真面目な顔でキャスターが伝える。
北海道では見られない光景であるが、東京に来た北海道人がほんの少し優越感を持てる数少ない時間である。

渋谷は雪に包まれ、着慣れないスーツを着せられた私みたいな顔をしている。
JRの西口改札を出て、待ち合わせしたモヤイ像に向かうが、なぜこの雪の日にわざわざモヤイ像なのか、昨日札幌から東京へ来たばかりの男に、ハチ公前で待ち合わせしようかと伝えると、そんな人を馬鹿にしたような所をなぜ待ち合わせ場所にするのかと怒り出し、彼が指定したのがモヤイ像前。
ハチ公もモヤイ像もたいして変らないが、私も含めたこの世代が抱く東京への嫉妬心はこじらせると少々面倒なので、彼に従ってモヤイ像に向かう。

普段はそばにある喫煙所からの煙に包まれるモヤイ像だが、さすがに東京の雪の下、喫煙所で肩をすぼめて、やっと着いた火を大切に体で覆っている喫煙者は数える程しかいなく、
煙も雪に吸い込まれ、浮遊せずに地面に落ちる。

雪でも傘をさすようになった自分を少し恥じながら、雪の質が違うから、傘は必要なんだと自分に言い訳をしながら、雪に積もられたモヤイ像を横目で眺めて5分が過ぎた頃、おそらくハチ公口からわざわざ回り込んで来た方向から、彼が傘をさしてやって来た。

「雪ふるんだな東京。」

「シーズンに2.3回は降るかな。」

「そんな日に来ちゃったんだな俺。」

「たまたまな。昨日着いたんだろ?」

「そう。昨日着いたの夜遅かったから、羽田に泊まってさ、さっきやっとマンションの引き渡し終わって、今だな。」

「羽田なんて泊まったこと事ないな。」

「そうなんだ。」

「うん。しかしバタバタだな今日も。」

「まぁ、すぐに忙しくなる事でもなあしな。」

「そか。何処いく?」

「任せるよ。」

「そか。どこでも何処でもいいだろ?」

「おう。」

「とりあえず歩道橋渡ろう。」

「東京の雪ってべちゃべちゃしてるよな。」

「だろ?傘ささないとグッチャグチャになるよ。」

「うん。みんな傘さしてるから、さっきキヨスクで買っちゃったよ。」

「正解。」

「なんで。わざわざ東京で雪降るかね。」

「だよな。東京のくせに。」

「札幌ではこんなにイベントにならないものな、雪」

「雪の度に騒いでたら大変だもな。」

「昨日も千歳空港凄い雪だったもんな。」

「なんかいいな。札幌の雪。」

「べちゃべちゃしてないもんな。」

「べちゃべちゃだけなんかな。」

「匂いも違う気がするな。」

「たまに札幌帰るとわかるよ、札幌の匂い。」

「いいよなー。札幌の冬。」

「東京の方が寒いからな。体感は。」

「たしかに今日寒いな。」

「せっかくこんなに雪が降ってもさ、いつまでも外が明るいともったいないよ。」

「札幌も、いつまでも明るくなったけど、10分も歩けば明かりが途切れるしな。」

「きっと東京にもあるんだよ。明かり途切れてる所が。」

「まぁ、そだろな。」

「きっと、それを東京に求めてないのかもな。
そんな場所じゃなくていいんだよ、俺にとってはさ。」

「そか。」

「うん。居心地は求めてないかな。居心地いいんだよなー
札幌は。っていいながら、東京でそれなりに楽しい。ってのがちょうどいいのかな。」

「あー。卑怯なパターンな。」

「卑怯でいいよ。みんな卑怯に、勝手に過ごしてんだから。」

「そだな。どうやって東京と付き合ってこうかな。」

「どうだろな。意外と東京がベストになるかもな。」

「この、べちゃべちゃな雪がベストになるかね。」

「まだ、2日だろ。」

「まぁな。今はまだ札幌優勢。」

「それでいい。」

「店まだ?」

「ごめん、考えてなかった。」

空から落ちる雪はおそらく、札幌の雪とかわらない表情をしていた。
それを、受け止める街と人が違うのか、違わないのか。

雪が静かにふる事には変わりなく、それをしんしんと降ると言い表した人達は、静かに雪を受け入れたのだろうか。

変わったと嘆くのも自由で、かわらない良さをうれしむのも自由で、そんな自由がうごめく雪の渋谷を男が2人。

そんな2人をすぐに飲み込みそうで、吐き出しそうで。

いつでも自分達の解釈で今を、未来を一喜一憂してきた我々はどんな雪が覆うのか。

やはり雪がしんしんと降る夜に。

おわり。

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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。

期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。

必ず劇場でお会いしましょう!

踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明

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■新作ダンス劇
「舐める、床。」
2020年12月10日〜13日@あうるすぽっと
詳細後日発表

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