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げじげじさん。

我が家のげじげじさんがトイレで一人さみしく亡くなっていた。

それは突然の出会いだった。

僕がシャワーを浴びて太陽の匂いをたっぷり吸いこんだふかふかのタオルで体を気持ちよく拭いている時だった。

すね当たりがムズムズすると思って目をやると、小指の爪ほどの大きさのげじげじが僕の足を登ってきていたのだ。

僕は、何かしらの物語の主人公が親友やら家族やらの命を理不尽に奪い取られ怒りでリミッターが外れた時ぐらいの「うわぁぁぁぁぁぁーー!!!!!」をあげ、無我夢中で足を動かし、げじげじくんを足から振り落としたのだ。

げじげじくんは僕の足からついにはポーンっと弾き飛ばされ、床に落ちた。

そしてげじげじくんは何事も無かったように、またどこかに目的地があるわけでもないのに、途方もない歩みをすぐに始めていた。

僕はそれを見て、とても申し訳ない気持ちになったのだ。

げじげじくんは僕に危害をあたえようなんてさらさら思ってなかったはずなのに、僕は見た目が気持ち悪いからって100%でげじげじくんを拒絶し、力の限りそれを体で表現して、そしてげじげじくんを足から振り落とした。

でも見ろ。げじげじくんはそれにへこたれることもなく、そして何の感情になるわけでもなく、また既に新しく前に進んでいるではないか。

あぁ。げじげじくん。僕は本当に情けない。

一人暮らしをして約10か月。ようやくこの寂しさになれるかと思えば、全く慣れやしない。むしろどんどん12年間やっていた芸人同士のルームシェアが良かったなぁなんて思ってしまっている。

でもげじげじくん。あなた様はおそらく自分と同じ仲間に会ったこともないであろう。そしてこの先同じ仲間と出会えるかも分からない。宇宙空間に一人投げ出された感覚。誰もいないその空間で、何も分からないその空間で、それでもげじげじくんあなた様は前を向いて歩いていらっしゃる。この広い1Kの中で。

僕なら歩くのをやめてしまうかもしれない。僕なら止まってしまうかもしれない。でもげじげじくん。あなた様は。

僕はその日からげじげじさんと呼ぶようにした。時々トイレの端っこや、壁の隅、時にはカーペットのところからひょっこりと、げじげじさんは姿を現してくれる。まだ元気に生きていると教えてくれる。

しかし、6日前トイレでげじげじさんがマットの上で仰向けになり、足をずっと動かしているのを発見した。僕は急いでげじげじさんを起こし、歩けるようにしてその場を去った。でも確実に弱っていた。僕にはそれが見てとれた。けれど何をしてあげたらよいか分からず、その場でげじげじさんを起こし、またいつものように元気に歩いてくれると願うしかなかった。転んでいただけだったんだよ。と自分を騙して。そして次の日の朝。

げじげじさんが止まっていた。げじげじさんは転んでいた場所から数センチ動いたところで止まっていた。僕の昨日の勘は間違えてはいなかった。やはりげじげじさんは限界だったのだ。げじげじさん。あなたはそれでも最後までどこかに行こうとしてらっしゃったのですね。その先に何があるかも分からないのに。げじげじさんは天涯孤独だった。でもそんな環境にげじげじさんはどのような感情に変化することもなかった。ただ前に進み続けるだけだった。死んでしまったげじげじさんに適した言葉か分からないが、げじげじさんは無敵だったのだ。

僕はティッシュを持ってきて、げじげじさんを優しく包み、そのままトイレの水へと流した。

あれから新たなげじげじさんは出てこない。それはそうだ。僕が部屋を掃除して、絶対虫などが湧かないように徹底しているから。げじげじさんをとてもとても尊敬していたけれど、新しく虫が出てくるのは絶対に違うのである。

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田畑藤本というコンビでお笑いをやっている田畑の方です。普段は相方の『東大』という肩書きが光過ぎていて全く輝けておりません。学歴社会の構図を日本一食らってる男としても有名です。ここに来たあなた。よく僕の方を見つけたね。
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