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居酒屋バイト。 〜板挟みの僕を救ってくれたのは〜

昔、アルバイトしていた居酒屋があった。その居酒屋には、芸人の給料だけでは食べて行けない若手たちが沢山働いていて、僕もそこに流れ着いた1人だった。思い返せば楽しかったが、居酒屋の仕事はもう絶対しないと思う。酒の入った客を相手にするのは辛すぎる。なので居酒屋で一生懸命働いている人を見ると僕は心からその人を尊敬する。

僕が店に入って日も浅かったとき、社会人の団体が入って来て接客をすることになった。

その団体は店に入って来た時に既に出来上がっていてかなりご陽気な様子。奥の座敷に案内すると早速注文をするため僕を呼ぶ。

僕が慌てて、その団体を仕切っているであろう男の前で中腰になり、注文を聞く体勢に入ると耳を疑う注文をしてきた。

「え〜っと飲み放題+食べ放題のコースで!このまま注文ね!生ビール99杯。焼きそば99個。あとたこ焼きも99個で!」

店側に挑戦状を突きつける道場破りのような注文。

僕は申し訳ない顔を必死に作って客に言った。

「99杯はちょっとお客様で飲むのは難しいと思います。。焼きそばとたこ焼きも足りなかったら後から注文も出来ますので。」

するとその男は改めて僕の正面に立ち、「注文聞こえなかったのかよ?全部99だって!」と言うではないか。

「しかし、、99は流石に。。」

僕がもう一度全力で困った顔を作り言った。すると、「お前舐めてんの?99ぐらい楽勝だから!」と言うので、僕は渋々注文を通したのだ。

すると厨房から直ぐに「まじか?!!」という反応が聞こえてくる。伝票に全て99と書いてあるのだから当たり前だろう。

僕が厨房の方へ帰ってくると、早速注意された。

「お前注文の数字何かの間違いで99になってるぞ!」

僕がまだ見たことも無い人だった。聞くと、なんと今日は偉い社員が現場を観察に来る日であり、その上司が厨房の中でみんなの仕事ぶりに目を光らせていたのだ。早速、ミスだと思われ僕は怒られた。しかしこれはミスではなく何度も確認した注文。僕がもう一度上司に言う。

「いえ、本当に99です。」

社員の顔が歪む。明らかに機嫌が悪くなった。「本当だろうな?!もう一回確認して来い!!」

社員に言われれば仕方がない。僕はもう一度先ほどの団体の客のところへ行き本当に99で良いのか確認する。

「だから!99だっつったろ!!早く通せバカ!」

それを伝えに厨房に行く。

「嘘つけ!99なわけないだろう!」

あぁ。かなりしんどい。。本当に99なんだもの。僕は必死に99が本気のオーダーだと伝えた。社員も渋々受け入れた様子で、厨房にゲキを飛ばす。

「99入ったぞ!ほかのメニュー遅れんなよ!」

厨房は厨房でやばすぎる。罪人たちを集めて厨房で働かさせてるとでも思っているのだろうか。今の時代罪を犯した人だってもっと手厚くもてなされるであろう。

続々とメニューがお膳に並べられていく。その前に生ビールを99杯持って行かなければ。お盆に乗るだけ乗せてビールを持って行く。僕の後ろにも生ビールをピッチャーに入れてアルバイト達が続く。

僕が「ビールお待ちしました。」と伝え、お盆を一度床に置き、一つ一つビールを渡して行った。最初はビールが来て盛り上がっていた客も、その後ろに続くビールのピッチャー達に驚いている。

「誰?こんなにビール頼んだ人?!」

すると先ほど注文した男がまた立ち上がり全員に聞こえる声で言う。

「えっ?びっくりした?!ビール99杯頼んじゃいました!」

一同が盛り上がる。

「もう、じゃあここに残りのビール置いといて下さい笑」と女性が笑いながら言ったので、そこにピッチャーたちを全て置いていく。

すると後ろからたこ焼き99個の布陣がやってきた。

立ち上がった男がまた言う。

「たこ焼きも99個です!あと焼きそばも因みに99来ますー!!」

一同大爆笑。はい。もう嫌い。こんなお粗末な笑いの取り方で凄い盛り上がりだもの。ちゃんと滑って貰わないと。どうか翌日からの売上成績落ち込みますようにと心の中で願っていたら、1人の女性がまた大きな声で喋っている。

「流石に99は無理だって笑 全部キャンセルで!」

注文した男は「流石に99は無理?!笑」と笑っている。そしてひとしきり笑いを取った後に僕に言うのだ。

「たこ焼きこれ以上は作らないで。あと焼きそばは全部キャンセルで。」

最初からこうなる事ぐらい分かっていたのに。思った通りの展開なのに。防げる事だったのに。悔しさを噛み殺しながら厨房に伝えに戻る。

厨房で待っていたのは客のキャンセルに対する社員の怒りだった。

「あん?!もう無理に決まってんだろ!焼きそばも作り始めてるんだぞ!今作ったたこ焼きも客のとこ持ってけ!」

社員も社員で無茶苦茶な人間だった。おそらく客側に回れば同じような事をやる人間。終わった。仕方なしに客のところへたこ焼きを持っていく。あと焼きそばも作った分は持ってくると伝えると、今度は当たり前だが男が僕に怒ってくる。

「いや、もういらねぇって!見ろよ!どこにたこ焼きも焼きそばも置けるんだよ!」

確かにテーブルを見たら、たこ焼きとビールでパンパンになっていた(どんなテーブルやねん)

それを仕方なしにまた厨房に伝えに行く。

「はぁ?もう作り始めてんだよ!無理って言って来い!!」

客のところへ行く。

「はぁ?!どうせ嘘だろーが!全部キャンセルだ!」

厨房へ戻る。すると焼きそばが10皿ほど出来上がっていた。

「嘘じゃねーんだよ!焼きそばとりあえず持ってけ!まだ出るからな!」

もう客の声が大きくて厨房まで聞こえてくるらしい。そしたら2人でやってくれ。お盆に10皿の焼きそばを乗せて客のところへ持って行く。

「なんで焼きそば出てくんだよ!!キャンセルって言ってんの分かんねぇのかよ!」

厨房へ戻る。

焼きそばがさらに5皿出来上がっている。

「何持って帰って来てんだよ!受け取らねーぞ!この5皿も一緒にもってけ!!」

お盆に限界まで乗せて、無理な皿は腕のスペースに乗せて客のところへ持って行く。もう僕は中国雑技団のような感じになっている。この超人的なバランス感覚で焼きそば15皿は成り立っているのだ。ちょっとこの凄さを見て欲しくて客の所は行く。もちろん関係なく客はブチ切れる。

「何で増えてんだよ!!キャンセルって言ったのかなり前だぞ!ぜってぇ今も作ってんじゃねーか!!」

とりあえずまた15皿持って厨房に帰らされる。駄目だ。このままだと最後には焼きそばを床に落として終わりのパターンだ。床に放り出された焼きそばを僕が掃除する最悪の結末。

僕はまだこの店に入って数回しかたっていない。こんな時どうすればいいのか?厨房の奥にいた店長の方をチラッと見る。店長は社員が怖いのかさっきから黙々と奥の冷蔵庫に入ってるエビを数えている。3袋しかないはずのエビを15分も数えている。もう店長もあてにならない。どうすればいい。

すると厨房の奥から1人の男が社員に物申したのだ。

「いや!もう無理でしょ!結局食べれへんなら廃棄になるじゃないですか!もうキャンセル扱いにしましょう!」

相席スタートの山添だった。そう。ここには芸だけでは食べて行けない芸人が沢山働いている。山添も当時ここの居酒屋で働いていたのだ。山添は僕よりも前にこの居酒屋に入り、店のことも大体分かってきた時期だった。そして山添が言った言葉は、僕が言って欲しくて堪らない言葉だった。

まさかバイトからそんな事を言われると思っていなかった社員も、そこから少し冷静になり、最終的には山添の意見を聞き入れてキャンセル扱いにしたのだった。

本当に山添がいてくれて助かった。あいつは正真正銘のいい男である。芸人が流れ着く居酒屋。他にも沢山の芸人が在籍していたが、その日はダイタクの大も働いていた。大はと言うと、ずっと厨房の奥からこっちを見てみるフリをして大根をおろし続けていたのだった。   【おわり。】


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もう一回言って下さい!もう一回!
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田畑藤本というコンビでお笑いをやっている田畑の方です。普段は相方の『東大』という肩書きが光過ぎていて全く輝けておりません。学歴社会の構図を日本一食らってる男としても有名です。ここに来たあなた。よく僕の方を見つけたね。
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