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リフレ派の「夢」と「現実」

黒田日銀が行ってきた「質的・量的緩和」の背景にはリフレ派がいました。※1
日銀審議委員の多数派を占めた彼らは金融市場にマネーを大量に供給することで景気を刺激し、長く日本経済を覆ったデフレを払拭させようと試みたのです。※2

そもそも彼らは何をしようとしたのか。ご存じですか?
どんな「夢」を思い描いていたのか。知っていますか?

【プランA】
①日銀が金融機関から国債を大量に買い入れる。(=金融機関が日銀当座預金に預けている預金と国債を交換する。※3)
②金融機関にマネーが大量に流れる。
③国債の大量購入によって金利が下がり、銀行の金利も下がる。
④企業も国民もお金が借りやすくなる。
⑤デフレから脱却し、緩やかなインフレ(年2%)に向かう。

【プランB】
①政策金利をゼロ、または一部をマイナスにする。※4
②企業も国民もお金が借りやすくなる。
③デフレから脱却し、緩やかなインフレ(年2%)に向かう。

つまり、【プランA】も【プランB】も「お金を借りやすくして、消費を増やし、デフレからゆるやかなインフレに誘導する」ことを目的にしています。

ここでなんでわざわざ「インフレ」を起こそうとするのか。

「国民からすると物の値段が上がると困るぞ❗️」

という声が聞こえてきそうですね。
実はこのくらいの物価上昇は「ほどよい好景気」なんですよ。「バブル」にもならず、「不景気」にもならない。企業も「売上増」につながるので、「賃金増」にもなる。おまけに「物価が上がる」と「税収も上がる」ので財政の健全化にもつながるんです。みんなが心地よく成長できるインフレ、それが大体年率2%のインフレだと言われています。

リフレ派の皆さんは「市場にお金をじゃぶじゃぶ」することで、「お金を借りやすくして、みんなが消費したくなるようにしよう」としたわけです。そうすれば年2%の「ゆるやかなインフレ」も達成できるんじゃないかなぁ。

まあ、こう考えて、黒田日銀は10年も「お金をじゃぶじゃぶ」にしてきたわけです。
その結果はみなさんご存知の通り。
はい。
もちろんうまくいきませんでした。

「はあ、そうですか…」

そんな生返事が返ってきそうですね。
そうです、企業からしても、国民からしても、こんなの「机上の空論」ですよね。

では、それぞれの視点で考えてみましょう。
まずは企業の視点から。

【企業の視点】
①そもそも不景気で物が売れず、それどころかデフレで物の値段が下がったまま。わざわざ借金して設備投資したって損するだけだ。
②そもそも設備投資するにしても自分でお金(内部留保)貯めてきたから、銀行から借りなくてもいい。バブル崩壊のときに銀行の「貸し剥がし」「貸し渋り」でえらい目(倒産危機)にあった。銀行からなんて怖くて借りられない。
③そもそも資金調達は「社債」を発行すればいいから、銀行からお金なんて借りない。「お金じゃぶじゃぶ」効果のおかげで円安にもなってるし、アメリカで調達したドルを円安のタイミングで円に変えれば為替差益で利益も出るし。もう一回社債発行すれば、借り換えだってできるしね。(大企業限定)

ほら、もう企業はそもそも銀行からお金借りるつもりなんてないんです。

じゃあ、国民の視点はどうでしょうか。

【国民の視点】
①そもそも賃金が上がってないのに、わざわざ銀行からお金借りて利子を払いながら買い物なんてしません。
②年金が不安だから、わざわざ銀行からお金を借りて無駄遣いなんてできません。余剰資金は貯蓄か投資に回します。

はい。その通りです。
普通の人なら
そう考えますよね。

「お金を借りやすくした=みんなお金を借りてくれる」という前提は、やはりムリがあります。

「経済学の理論」が「浮世離れ」しているというのはよくいわれていますが、今回はまさにその典型例だったと言えます。

先日(2024年8月15日)、個人消費も設備投資も堅調で、4月-6月のGDP 実質の伸び率 年率+3.1% 2期ぶりのプラスとなり、名目GDPは1年間の金額に換算して初めて600兆円(607兆9037億円)を超えました。

このニュースを聞いて、「ようやくリフレ政策の効果が出た!」というリフレ派の人たちがいるようですが、それは違います。

今回の要因は

①ウクライナ戦争やガザ紛争により、物資の不足が全世界的に起こり、「外的要因」により、日本でもインフレが起きた。
②超円安により、海外からの輸入品の価格が跳ね上がり、「外的要因」により、日本でもインフレが起きた。
③発展途上国の経済成長により、そもそも世界中の物価が上昇しているため、日本でもインフレが起きた。
④政府の強い後押しにより、賃金の引き上げが起こり、消費が伸びたことによるインフレが起きた。
⑤利上げ予測により、利上げ前の設備投資や住宅需要が伸びたことによるインフレが起きた。

つまり、①②③は海外の事情で日本も物価が上がらざるを得ない状況によるコストプッシュ型インフレ。日本の経済成長によるものではありません。
そして、④⑤は待ちに待った国内要因。「賃金上昇」で消費の拡大と「利上げ」による需要の喚起。

あれ? 結局、リフレ派のやっていたことって何なの?
②はリフレ派による副産物かもしれないけれど、①③④⑤ってまったく関係ないよね。

そうなんです。
結局、国民は「賃金」が上がらなければ、余分に消費なんてしません。
企業も「金利」がないなら、いつでも借りられると慌ててお金なんて借りません。
けれど「金利上がるかも!」って思ったら、「その前に借りよう!」って思いますよね。

結局、「ゼロ金利」も「マイナス金利」も人々の心を動かせませんでした。
大事なのは、「お金を借りやすくする環境」ではなくて、「手元にあるお金が増えたと言う事実」(賃金上昇)と「物の値段が上がるかもしれないという危機感」(利上げ)だったということです。

でも、日本の好循環はまだまだスタートを切ったばかり、次に何をすればいいか。
それは政府の「財政出動」でしょう。

日本国民の将来に対する「悲観的マインド」を一気に変える、将来への大規模投資。実は「金融緩和」は「財政出動」とセットでなければ効果がないのです。

特に「人口減少不安」は著しいです。
だからと言って効果のない「子育て支援」にばかりお金を使わないでください。

「人口減少でも大丈夫」な社会を実現するビジョンを示し、そこに「じゃぶじゃぶ」とお金を投入してほしいです。

「日本人でよかった!」と国民が『愛と所属の欲求』を満たし、心理学的な意味での『自己実現の欲求』に向かえるような「夢」のあるプランに「じゃぶじゃぶ」とお金を使って欲しいです。

財源はどうするの?
そんなものどこにあるの?


ありますよ。
忘れちゃいましたか?


「円買いドル売りで得た巨額な利益」と「日銀が持つ日本株ETFの莫大な配当金」です。

景気をよくするためには、
「財政出動」が大前提。
「金融政策」はおまけ。
これが現実です。

10年にもわたる壮大な黒田日銀の「大いなる実験」で、もう証明済み。

さあ、今ならまだ間に合います。

国会議員のみなさん。
今こそ党派を超えて、

「2100年の日本」のための投資を。
「人口6,000万人に減少した日本」のための対策を。

ぜひ。


※1  デフレを脱却し、まだインフレにはならない程度の状態のこと。
英語表記「reflation」の日本語読みで、「通貨再膨張」と訳されます。リフレーションになるように金融政策や財政政策を行うことをリフレ政策といいます。日本の場合、残念ながら財政政策はほとんど行われず、円安と株高を引き起こしただけでインフレにはつながりませんでした。そして、こうした政策を推進しようとする人々をリフレ派と言っています。

植田日銀では審議委員の入れ替えで「少数派」になり、「日銀による国債買い入れ」政策は縮小し、「YCC(イールドカーブコントロール=大量に国債買い入れをすることで、長期国債の金利を下げる)」政策は終了しました。

※2  「デフレ」とは「デフレーション」(deflation)の略語。消費者物価などの一般物価が持続的に下落し続ける現象のことです。

※3  実は金融機関は市場から買った国債にちょっと高い値段で日銀に引き取ってもらっていました。これを「日銀トレード」といいます。金融機関は確実に儲かります。黒田日銀は年間に80兆円分の国債を買い入れると言っていましたが、実際には金融機関はそれほど売らなかったみたいです。なぜなら国債は「年金機構」や「生命保険」のALM(Asset Liability Management)需要があったからです。例えば、年金や保険契約の支払い予定に対して、適切な資産運用戦略を立てることができます。年2回利金収入がもらえるし、元本も保証されるので、長期的な安定性や収益性を確保することができます。国債にはそんな役割もあるんです。

※4 「マイナス金利政策」は、黒田日銀が金融緩和策をより強化するため、日銀の歴史上、初めて導入しました。 金融機関から預かる日銀当座預金の一部にマイナス0.1%の金利をつけることで、預金が積み上がると損をする環境を生み出し、金融機関が世の中にお金を回すよう促す狙いがありました。つまり、民間にお金を貸さないと、民間銀行が日銀に利子を払わなければいけない状況を作ったのです。
例えば、住宅金利は低いので「今こそ家を買おう」、「マンションを買おう」という人にとっては有利のように見えますが、実際は円安や万博などの国内事情、戦争や新興国の経済発展などの国外事情のせいで「資材価格」や「燃料価格」が高騰したり、働き方改革と少子高齢化のせいで建設業・運送業の「賃金」が上昇したりで、あまりメリットはなかったかもしれません。

「どこかを押せば、どこかがはみ出る。」こんなの当たり前のことです。

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