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メリークリスマスは戦場 だった


この時期になると思い出す。あぁ~昔は怒涛のクリスマスだったなと。

もう15年以上は前になるのかな?個人経営のケーキ屋で働いたことがあった。バイト?パート?年齢的にはパートだろうな。笑

オーナー兼マスターと職人さん、パティシエ見習いが1人か2人。そこにバイトとパートが2人ほどシフトで入るって感じの地域の小さな店。

商店街に隣接してることもあって、買い物帰りのおばさまたちが立ち寄ってくれたりもするので、小洒落た店というよりは「万承ります」と思われている節の多々ある店だった。そうなったのもマスターが無理難題な個別注文をほぼ断らないというのが一番大きな理由だろうな・・・。


クリスマスは、ケーキ屋にとって一年で一番の書き入れ時。だいたい12月頭ぐらいから予約商戦が始まる。ということは遅くても秋口までには、今年のクリスマスケーキのバリエーションと予約特典を考えないといけない。チラシ見本やサンプルなんかが厨房内のあちこちで見られ、「どう思う?」と全員に意見を聞いてくるオーナー。たかがパートの分際で?と普通なるところ、ま、地域密着型の店舗だからね。おばちゃんの意見も必要なんだろう。ワクワクしてそれに応えられるのは、最初の年だけ。2年目ぐらいになると、手間が増えるとか数が多いと値段が覚えられないとか、自分たちの都合が優先されてきたりもする。店頭にしか立たない人間と厨房の補助もする人間では、当然意見も違ってくるし、作る身にもなれよ!なんて職人さんとぼやいたり。笑

だいたい20日ぐらいから職人勢は泊まり込み覚悟での作業。パートやバイトも通常業務に準備作業がプラスされる。

延々と焼かれるスポンジの土台は、プレーンにチョコに…サイズも3~8号と様々。ホールケーキ以外の小さなケーキも全部クリスマス仕様になるので、それの仕込みも加わる。悍ましいほどの数。

当日は、パート・バイトともに入り時間は「来れるだけ早く」という。笑

だいたい7時半には店に行ってた。で、帰るのは終わり次第ってことで、学生や子供が小さい子の若い子順になるから、おばちゃん勢はだいたい夜の8時半は過ぎる。ホント何時間労働だよ!って感じ。

開店後、午前中はだいたいのんびりムードで、夕方ぐらいから8畳程の店頭にあふれかえるお客さん。当然、自動ドアなんて閉まる間もない。そんななか注文が通らないとか順番を抜かされたとかで後ろの方で揉めてるお客さんも居たりして・・・笑 一番困るのが取り置きを依頼してくる人。事前予約以外の当日取り置きなんて無理!いつもはやってくれるのに…なんて状況を見て言ってくださいよ…って感じ。たぶん、クリスマスの一時間で売れていくケーキの数は平日の一日分に当たるんじゃないだろか…。「いらっしゃいませ~♪」なんて店頭で笑ってる人が、「〇〇と△△早く作って!!」なんて鬼の形相で厨房に向かって叫んだりしてるし。まさに戦場。


閉店ギリギリで駆け込んでくるスーツの若い男の子がショーケースを眺めて「これだけしかないんですね…」と寂しそうに呟いてる姿を目撃したりして、口では「すいません。」と言いながら心の中で「彼女か奥さんが待ってるの?何が要るの?言ってごらん?作って貰ってあげるから」なんておばちゃんは思ってたりする。たまに言っちゃうこともあるけど。笑

朝一で小さな子供がお使いで「スポンジ下さい」なんて来たこともあった。「ごめんね。今日だけはスポンジだけって売ってあげられないの」と断らないといけない。一個ぐらいって思ったけど、その一個が後々口コミで広がったりすると・・・ってことだそうだ。こっちとしては「お母さんに謝っといてね」というしかない。ごめんよ・・・。


むせ返るような甘い香りの中、苺の灰汁で黒く染まる指先、背丈より大きく積み重ねられた苺のケース、様々な顔のサンタにもみの木にリースなどの飾り。補充と在庫確認で入る冷蔵室の冷気・・・


怒涛のクリスマス週間を乗り越えるために、20日頃に丸一日休みを貰って五日分のお弁当と夕飯を仕込んでたな・・・。この日の休みは誰にも文句言われなかったし、最後の方は「いつ休む?」ってパートのボスに聞かれたりして優先的に休みにしてくれた。笑


クリスマスをハレの日って感じで過ごせないのは、たぶんこの記憶のせいなんだろうな。私の中で苺はもう食べ物ではなくなってしまっている。苺はもうただのモノって感じ。あんな量を見ていたら有難味なんて欠片も湧いてこない。笑


ま、小さな個人経営の店のそれも結構前の話ですから、今はもっと優雅に仕事してるのかもだけど。



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