見出し画像

【イベントレポ】2021.5.11「開校記念講演」川邊 健太郎氏(ヤフー株式会社 代表取締役社長CEO(最高経営責任者))

東日本大震災から10年の節目を迎えた今年3月、福島県南相馬市小高区で、次の「復興10年」を担う人材を育て、事業を創るプロジェクト「Next Action➔ Social Academia Project」が発足し、その「開校記念」イベントが5月11日に行われました。午後7時半に開会したイベントには高校生から社会人まで、約60人のプロジェクト参加者がオンラインで集結しました。


東日本大震災の月命日に交流会を開催

「Next Action➔ Social Academia Project」は、東日本大震災に伴う原発事故の影響により、一度は人口ゼロとなった福島県南相馬市小高区から、新しい価値創造につながる事業を立ち上げるプロジェクト。一般社団法人パイオニズムが主体となり、ソフトバンクとヤフーが講師の派遣や、「つながる募金」「Yahoo!ネット募金」などを通してプロジェクトの運営資金を支援する他、「エールマーケット」を活用した商品の販売活動のサポートなどを行います。

2021年3月10日~4月18日まで、満16~29歳(募集開始時点)を対象に全国からプロジェクト参加者を募集し、18都道府県から73人が応募(Boosterは募集継続中)。参加者は、1年以内に起業を目指す「Apollo」、将来の起業を希望する「Rocket」、起業したい人を支えたり被災地を応援したりする「Booster」の3クラスのいずれかに所属し、協力しながら「ムーンショット」(これまでにない挑戦という意)を目指します。

東日本大震災の“月命日”である毎月11日に開催される、学びと交流の場の初回として「開校記念」イベントが行われ、プロジェクトの目的やゴールの共有、参加者同士の交流が行われた他、ヤフー株式会社の川邊健太郎 代表取締役社長CEOによる「仕事の原点」と題する特別講義が行われました。

開会にあたり、ソフトバンクに長期インターンとして勤務し、プロジェクトの運営に従事する岩田萌さんは、「みなさん、今日のゴールは『新しい出会いと可能性にわくわくしている状態』です。運営メンバーと参加者、参加者同士の出会い、そして皆さんが自分の可能性を感じ、価値観を拡げる場としていただきたいと思います」と参加者に呼びかけました。

100人のチャレンジャーが100の事業を2030年までに創出することを目指す

始めに「Next Action→ Social Academia Project」の活動拠点となる「小高パイオニアヴィレッジ」を運営している一般社団法人パイオニズム代表理事の和田智行さんがプロジェクトの概要を改めて紹介。

一般社団法人パイオニズム 和田 智行(わだ・ともゆき)代表理事

福島県南相馬市小高区(旧小高町)出身で、「Next Action→ Social Academia Project」の活動拠点となる小高パイオニアヴィレッジを運営。大学入学で上京し、2005年、東京でIT企業を創業すると同時に小高区でテレワークを開始。

2011年、東日本大震災の原発事故の影響で小高から避難。その後、2014年に小高に戻りコワーキングスペースを備えた「小高ワーカーズベース」を設立し、多数の起業支援、事業設立に携わる。起業家育成の他、地元の雇用につながるガラス工房を設立するなど、南相馬市や周辺地域の復興と産業基盤作りに邁進している。

和田さんは、「このプロジェクトは、福島から、次の『復興10年』を担うゴールデンエイジ人材を育成し、事業を育てることを目指しています。ゴールデンエイジとはまさに今日参加されているみなさんの世代のことです」と語りかけ、10代で震災を経験した世代は多感な時期に理不尽や不条理を感じ、社会課題や社会貢献に関心を持つ人が多く、「復興世代」として日本において貴重な人材となっていると述べました。

「日本で最も災害課題の大きい福島から、人材を育て、事業を創り、100人のチャレンジャーが、課題を解決する100の事業を、2030年までに創出することをゴールとしたい。そのために、企業や団体、人々がチャレンジャーを支援し、その中からリーダーが生まれ、そのリーダーに憧れる人がまた新たにコミュニティに参画していくような、復興人材のエコシステムをつくっていきたい」と、構想を説明し、「みなさんとご一緒できることを楽しみにしています」と呼びかけました。

「Next Action→ Social Academia Project」は、IT企業、ベンチャーファンド、学習コミュニティ、起業塾の企画団体などが支援し運営に関わっている。

どんどんつながって、共に未来を創ろう

参加者全員による記念撮影が行われ、「Next Action➔ Social Academia Project 」の矢印のサインを指で作り、ヤフーの川邊社長が「みなさん、未来を共に創りましょう。どんどんつながっていきましょう!」と呼びかけました。

ヤフーの川邊社長が「仕事の原点」をテーマに講演

ヤフーの川邊社長による、「仕事の原点―私のビジネス経験の振り返りからー」と題する特別講演が行われました。川邊社長は「私という人間をひと言でいうと、インターネットが大好きということです」と自己紹介。インターネットベンチャーを起業したきっかけやビジネスをする上でのモットーなどについて講演が行われました。

起業のきっかけは「時代」だった

大学2年生だった川邊社長が起業を志した1995年は、1月に阪神・淡路大震災が起こり、3月に地下鉄でサリンが撒かれるというテロ事件が起こった年。「人というのはある日突然死んでしまうこともあるのだな。自分も何かしなければ」と、人生で初めて強く感じながらも「何か」が決まらずに半年が経過。11月になって、インターネットブラウザを初めて標準搭載したOS「Windows 95」が発売され、それを買い求める人々の大行列をニュースで目にしたとき、「インターネットで何かやろう」と決意し、翌96年に「電脳隊」を創業したと起業のきっかけを語りました。

事業ドメインを研ぎ澄ませることが重要

創業当時の事業は、インターネット成長期でのパソコンの取り付け作業や、ホームページの作成など。その後訪れたシリコンバレーでテクノロジースタートアップベンチャーから刺激を受け、帰国後は事業内容をソリューション提供に変更。

さらにその後、パソコンをはじめウォークマンや財布、時計などは全てソフトウェアになって「スマートフォン」に集約されていくということを世の中に提唱し、「スマートフォン」という言葉を最初に使用したのは電脳隊だったと紹介しました。

「ベンチャーというのは自分たちがどこの分野で事業をやるか、事業ドメインがはっきりしていないと大企業に飲み込まれてしまう。大企業がやらない何を事業ドメインとするかが大事です」と、ドメイン設定の重要性を強調。

そして、最終的に会社をヤフーと合併することによってイグジットを迎えたことに触れ、「時代にパッションを感じて起業して、自分の貯金から出資したお金が何倍にもなりました。学生の頃、パッション一つで一生懸命いろんな経験をして、事業ドメインを研ぎ澄まし、モバイルインターネットにかけてやってきたことで、自分たちは何倍も成長できたんだということを、お金という尺度で測れたことが、この時代の一番の思い出であり良かったことだと思っています」と総括し、「学生には失うものもありません。ぜひ、学生時代に起業したらいいと私は思います」と呼びかけました。

新たな一歩を踏み出すために

川邊健太郎(かわべ・けんたろう) ヤフー株式会社 代表取締役社長CEO

川邊社長は、起業への一歩を踏み出す心得として、「現況下の境遇やリスクを冷静かつ明るく捉える」「夢だけは大きく持つ。動機や理念を大事にする」「爆速。拙速は巧遅に勝る。まずはとにかくやってみる」「おもろい事をおもろい仲間と」の4つを伝授。

「世界には進学できない、就職もできない人がたくさんいる中で、皆さんはラッキーな境遇。大きな夢を持ち動機や理念を大事にすることで自分自身も奮発するし周りもついてくる。今の時代は試行錯誤を早めに始めて早めに失敗し、爆速で繰り返した方が圧倒的に成功確率が高い」

「何かやろうと志を立てた時、一人でやるのもいいけれど、やはり、人の幸せや充実というのは、人間同士、仲間と一緒に何かをやることだと思います」と語り、おもろい仲間とおもろい事をやっていくことは人生が楽しくなる一つの秘訣だとアドバイスしました。

未来は予測するものから創るものへ

最後に、「現代は多元的な世界、グローバル経済、情報革命などによって、未来を予測することが不可能になった。情報技術によって個々人がエンパワーメントされ、個々人の行動が世界に影響を与えられる。未来は予測するものから創るものへ変わった」と解説し、「数年前まで帰宅困難区域だったところに若い人が戻ってきたり、Iターンで新しいことを始めたり、モノづくりをしたり、まさに未来は予測するのでのはなく創るものという認識のもとに行動している人たちに勇気づけられたし、私もその中に入って未来を一緒に創っていきたいと思っています」と締めくくりました。

5月中には、「Next Action➔ Social Academia Project 」は、1年以内に起業を目指す「Apollo」、将来の起業を希望する「Rocket」のメンバー選考が行われ、創業へ向けた準備が加速していきました。次の月命日にあたる6月11日は「ふくしまを知る」というテーマで、行政、地元、外部の3つの視点で「ふくしま」の過去・現在を理解し、自分に何ができるか「未来」を考える会が行われます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?