AIの時代になぜARTを重視するのか

渋谷にあるEDGEofビルでは、アート関連のイベントをよく開催しています。単発のイベントだけでなく、ビジネスパーソンに「ありえないアイディア」を発想するためのノウハウを教えるアート型思考ワークショップのArt Thinking Improbable Workshopをお迎えしたり、アフリカのアーティストをサポートするような活動を展開したりしています。また、ビルの中には3組のアーティスト・イン・レジデンスがいて、ウチのビルを活動拠点としてもらいつつ、様々なプロジェクトでコラボを行っています。

私個人も、SAMPOというだいぶネジの外れたアーティスティックなチームをビジネス面でサポートしたり、東京ビエンナーレ2020の公募プロジェクトであるソーシャルダイブの選考委員を務めさせていただくなど、少しずつですがアートにも関わりを深めるようにしています。

EDGEofはイノベーションというテーマを全面に押し出しているので、どちらかというとテクノロジーやビジネスよりのイメージを持たれる方が多いと思うのですが、私はこれからのイノベーションを考える上で、アートを活動に取り込むことは極めて重要だと思っています。AIが急激に発展していく時代だからこそ、ART感覚を磨くことが大切だからです。

最新の技術動向を調査したり、国内外のスタートアップコンテストの審査員などをしていると、毎日のように「AIでこんなことができるのか!?」と驚かされます。これがまだまだ黎明期なのだと思うと、あと10年もすれば今からでは想像もつかないような状況になっているでしょう。職業という面においても、今後20年ほどで数多くの仕事が無くなることが予想されます。それも、インタビューの文字起こしといった単純作業だけでなく、企画書の作成や事業計画の立案といった、専門的な経験が必要な分野でも、どんどん人がAIに取って代わられるようになります。今月、JPモルガンがディスプレイ広告やメールのキャッチコピーをAIに作らせると発表したことも大きな話題になりました。

このようにAIが普及していくと、過去の経験や合理的思考によって最適解が導き出せる分野の作業は、給料の高いところからどんどん機械へと置き換えられていくことになります。ゴールドマン・サックスが人間のトレーダーを殆どクビにして代わりにAIに取引を任せるようになったというのは、その流れを象徴するような出来事でした。

では、そのような時代においてなぜアートが重要なのかというと、まさにアートというものが過去の経験や合理的思考といったものから解き放たれるための活動だからです。英語ではOut of the box(箱の外)という表現をしますが、固定観念や思い込みから飛び出し、これまでとは全く違う視点や発想がアートには必要となります。蓄積された過去データと合理的アルゴリズムの組み合わせであるAIが一番苦手とする分野が、アートだということです。

つまり、イノベーティブなサービスやプロダクトを産み出すにあたって、AI以上の成果を出すためには、アート的思考が非常に重要となります。EDGEofがイノベーションに関わる事業を展開していく上でアートとの関わりを重視しているのは、そのようなアート的思考を取り込むことが、イノベーティブであるために欠かせないと思うからです。

個人として、自分の仕事がAIに奪われてしまうのではないかという漠然な不安を持っている方は、今からでも少しずつアート的な思考を身につける訓練をされると良いと思います。前述の、Art Thinkingワークショップは、極めて実践的なプログラムなので、そちらもおすすめです。

もうひとつ、アートと同じくAIと戦う武器となるのは、人を相手にすること。それも、色々と高いレベルの要求をしてくるような人達に対して、相手の気持ちを考え、心のこもった受け答えができるようになること。端的に言うと、コミュニケーションスキルを磨くこと。AIが普及すればするほど、人間が相手してくれるという部分に価値が出てくるので、普通の人よりも上手な言葉遣い、心のこもったおもてなし、相手に安心感を与えられるような受け答え、そういった部分を意識することで、アート思考とはまた違う強みを持てるようになると思います。

どの方向を目指すにしても、何より重要なのは、無理にAIに抗うのではなく、むしろ積極的にAIを活用し、道具として使いこなすことです。それこそ、AIをどうやってアートに活用できるのか、AIを使ってより良いおもてなしを提供するにはどうするか、そのような考え方が大切だと思っています。

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