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ヒトは「いじめ」をやめられない 中野 信子 (著)

以下書籍『ヒトは「いじめ」をやめられない』は、医学博士/脳科学者である中野信子さんによる書籍です。本書を読むと、人間がいじめを止められない理由を、脳の仕組みという観点から理解できます。日本の学校で、いじめが発生し易い構造も解説し、その対策方針も脳科学者という立場から提案されています。


人間が、他動物とは決定的に異なる社会集団を作り、文明を高度に発展させられたのは、脳の前頭葉が大きく進化したからです。この脳機能により、人間たちは長期的に協力し合うことが出来るようになりました。一方で、その社会集団を守るために、異物を排除する脳機能も獲得しました。幼い子供たちは、まだ理性機能なども脆弱なため、これらの新しい脳機能が歪な形で出てくることもあります。

私たち人間は、なぜ社会集団を作り、それを維持できているのか。そのための機能が、脳遺伝子に刻み込まれているからです。本書を読めば、その概要が理解できます。


<本書メモ(意訳込み)>

  • 子どものいじめを回避するためには、「相手の気持ちを考える」「相手の立場になって考える」といった指導では不十分。いくら教え諭したところで、子どもの脳は「共感」の機能が未発達だから。

  • とくに子ども時代は、「誰かをいじめると楽しい」という脳内麻薬に対して、共感というブレーキが働かない為、「自分が相手を攻撃すると自分が損をする」というシステムが必要です。しかし、現状の学校現場では、誰も見ていないところで相手を攻撃すれば、自分が損をすることはない。「賢く相手を攻撃したもの勝ち」という構造ができあがってしまう。学校内にビデオカメラを設置し、「いじめをしたら損をする」という環境を整えるアプローチもあるが、なぜか反対される。

  • ヒトの肉体は、他の動物と比べ、非常に脆弱です。そんな弱者であるヒトの生存戦略は、「集団を作ること」です。群れで組織的に狩りをする動物はいますが、数百、数千、時には数万の個体が集団となって、何年も費やさなければ遂行できない複雑な目標や計画を実行するということは人間だけができます。それが出来るのは、人間性の根幹ともいえる脳の前頭葉が、他動物と比べて大きく進化したからです。

  • 社会的集団にとって最も脅威なものは、外敵ではなく、内部から集団そのものを破壊するフリーライダーです。「協力行動をとらない/邪魔をする人」「ズルをする人」です。これを見逃せば、社会集団は瓦解する為、成立し得ません。そこで、制裁行動を起こして排除しようとする機能が脳に備え付けられました。この脳の思考プロセス「裏切り者検出モジュール」は、日本人は凄く強いです。脳内のセロトニンが関わっています。

  • 敵対関係の子供グループの関係に変化を与えるのは、お互いのグループが協力して作業しなければならない状況を作り出す事です。例えば、キャンプに必要な水タンクを共同修理するなどです。一緒に食事をしたり、遊ぶだけでは、敵対心は消失しません。

  • 総じて、男性的派閥はヒエラルキーによる力で成り立っていて、女性的仲間は平等性や同一性を前提とする性質が強く見られます。男性的ホルモン「テストステロン」の分泌が多いと前者のようなグループを、女性的ホルモン「オキシトシン」の分泌が多いと後者のようなグループになり易いです。こうしたホルモンの特性から、男性グループでのいじめは「力によるパワハラ」、女性グループのいじめは「皆による村八分」となるのかもしれません。

  • 仲間意識が強すぎるから、関係が濃すぎるからこそ起こってしまういじめは、人間関係を薄めて風通しをよくすることが有効です。つまり、人間関係を固定化せず流動性を高めて、同じ人との距離が近くなりすぎるのを避けます。また、個人と個人の関係はあってもよいけれど、集団という存在を強く意識する状態を減らすことで、集団ならではの排除行為も減少することが期待できます。 ※とはいえ、成長途中の学校でこれをやると、コミュニケーション能力が育たなくなるし、大人になってからの話かもですね。


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