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2020年春、ヨーロッパから日本の広報担当者と共有したいこと


フリーランス広報が「都市封鎖」中のドイツから生レポート。非常時の企業コミュニケーションのあり方について考えました。広報に関係する、もしくは興味がある方に、読んでもらえたら嬉しいです。



本来であれば、これを収めるマガジンは、ヨーロッパでの穏やかな暮らしぶりや、観光目的ではたどり着かない住人たちの「ご近所アドレス」を紹介したりするためのもの、でした…


時は、西暦2020年の4月。
後世にも語り継がれるのであろう、新型コロナウイルスの世界的大流行の最中、私はドイツに移住して3度目の春と同時に、ロックダウン3週間目を迎えています。


状況は悪化の一途をたどり、日を追うごとにみるみる厳しくなる規制。
ニュースに心が痛み、目の前のことに手を動かす気力も湧かない。

そんな閉塞感がずっと続いています。

Brexitが最大の難局であった頃を “なんて平和だったのか” と懐かしむ空気が、今のヨーロッパにはしっくりきます。



仕事・物資に不便することなく安全に生活している(今のところ)、何より根っからハッピー野郎の私ですら、時に緊張感で息苦しい毎日。


すると、危機に直面する人々へ向けた、企業によるコミュニケーションが続々と始まっていました。


受け手としての体験がみずみずしい今。

広報の底力が発揮される「刺激」となることを願って、有事におけるヨーロッパらしい企業広報について共有します。



ヨーロッパらしい① お客様は神様…じゃない



利用するスーパーマーケットのひとつEDEKAは、洗練されたブランディングが特徴。



ベルリン出身のフードスタイリストとフォトグラファーの人気クリエーター・デュオがディレクションする、美しいインスタのフォロワーは16万人を超えます。


そんな小粋なEDEKAも、3月半ばには他のスーパーと同様、まとめ買いによるあおりを受けました。陳列もまばら、乱雑になった棚が放置される不穏な店内。


なかなか重い気持ちで買い物をしていると、掲示物に気がつきました。


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日頃は、細部のイメージにも気を配るEDEKAらしからぬ、即席のメッセージ・ディスプレイ。よく見ると、モノクロ印刷した同様の貼り紙が店内の至る所に。


以下和訳:
親愛なる社員とお客様へ
現在、私たちは異常事態を迎えています。
時には棚に商品が無かったり、お待たせすることもある中、ご理解を頂きありがとうございます。
私たちは、可能な限り全力で対処しています!💪
そして、特別な、心からの感謝を私たちの素敵な社員へ送ります!
あなた方は素晴らしい!


お気づきでしょうか?
これは、顧客向けを装った、前線で食いしばっている社員へのメッセージングなのです。


きっと、社員を対象とした一斉メールやイントラネット等、インナー・コミュニケーションにとどめることも可能だったはず。

それを敢えて、対外的なコミュニケーションとすることで

・社員の士気がより高まる
・顧客に対する「抑止力」として働く


自分たちの頑張りが堂々と顧客に伝えられることで、社員の信頼感が生まれたり、現場に掲示することで、視覚的かつ継続的にモチベーションが維持されたり。


さらに、感謝の気持ちを思い出し、顧客が冷静に買い物をするきっかけになります。何より、混沌とした状況で働く人々に対し、こんな意思表示ができる企業のファンになる顧客も多いのではないでしょうか。(明日は我が身)


ドイツでは「働く人」の権利がとても大切にされます。

時には “サービス砂漠” と揶揄されるほど、接客業においても「店員」と「客」はどこまでも対等な関係であり、互いに敬意を払う文化があります


そんなドイツならではの、皆が良い心持ちになる企業広報に感動し、このnoteを書きたいと思いました。


後日、同様のメッセージはインスタにも登場。

通常とは比べものにならない極めてシンプルな投稿に対し、1.5万を超える「いいね!」と500近いコメントが送られています



私たちのお店の “ヒーロー” に感謝
お疲れさまです



ヨーロッパらしい② 意見してナンボ



今でこそ、あらゆる組織がメッセージを発信していますが、先陣を切った企業として、私の心に残るブランドがあります。


3月8日から21日までの2週間、ヨーロッパは大きく揺れました。

そして人々は「自宅待機」を、せめて何か、自分たちにもできること=「希望」として手繰り寄せていました。



ファッション・ブランドであるJACQUEMUSが、Mathieu Persanというフランスのイラストレーターによる作品を発信した3月15日は、そんな頃でした。


3月13日に作者が自身のインスタでイラストを紹介。
“なんでも好きなことをして構わない、とにかく家にいよう。かつてこんなに簡単に命を救えたことはない” というメッセージに心を打たれた人々が、この投稿を拡散。
JACQUEMUSもそこに含まれます。


なぜ、私にとってこのコミュニケーションが印象深いのか。

とにかく、早かった。


オリジナルのメッセージではありません。(リポストだもの)

ブランドとして、被害に対するお悔やみも、具体的にどのような社会貢献をするのかという発表も、無し。

でも「人格」を感じることができました。


経済的な支援が各国で不透明だった当時、自宅待機措置には賛否の議論が巻き起こっていました。

わざわざそのタイミングで、忖度なく主張する姿勢に、血が通った企業広報をみたのだと思います。


ヨーロッパは、意見しない人に冷たい。
良い・悪い・正しい・間違い、以前に、意見しないことは「意見がない」ことに等しく、“何も考えていない” と軽蔑にも値します。

“人からどう思われるか” と他者に気遣う文化は、異なる民族が積極的に交流し合う地では育まれにくいのかもしれません。


世論が定まらず、JACQUEMUSは批判も承知の上だったと想像します。

だからこそ、社会と今を共にする一企業として “私たちはこう思う” と表明するスタンスが、すがすがしいコミュニケーションでした。


300を超えるコメントにはアンチも多かった。
そして、10万を超える「いいね!」が送られています。


現在、イラストの作者は多言語で同ポスターを展開。

それらの販売を通じ、医療従事者をサポートするためのファンドレイジングを行っており、4月3日時点でその達成率は1,731%!




その後、沢山の企業がテンプレート通りの「お悔やみ」を発表しているけれど。
だんだん、受け手としては疲れちゃう…

(保身の企業広報は、見透かされてしまうものですね)



まとめ
・クライシス時こそ、まずはインナーコミュニケーションから
・意思ある企業広報は、社会に必要とされる



最後になりましたが、どうか。
ご自愛ください。


そして、楽しみにヨーロッパを訪れる日々が戻ってきたら…
ぜひ穴場のフランクフルトへ!


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