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北村直也『男はつらいよ寅次郎相合い傘』を語る

北村直也さんがFMラジオ「ムービーボヤージュ」で『男はつらいよ寅次郎子相合い傘』について語っていました。


(町田和美)今日も広ぽんがお休みってことで。

(北村直也)まだ体調悪いんですね。ビリーさんも心配ですね。

(E・T・ビリー)体は全然もう大丈夫みたいなんですが、こういう時期なんで大事をとってお休みらしいです。季節の変わり目でやられたみたいです。

(北村直也)とにかく早く良くなることを期待しましょう。

(町田和美)私も気をつけよ。

(北村直也)今日はですね、「男はつらいよ寅次郎相合い傘」というシリーズ第15作目ですね。マドンナに浅丘ルリ子さん、いわゆるリリー松岡が2回目の登場となります。

(町田和美)4作品ぶりですね、前は第11作だったでしょうか。

(北村直也)そうですね。前回は「男はつらいよ寅次郎忘れな草」ですね。

(北村直也)北海道の函館で、寅さんは自分の居場所を探し続けて旅をする、悩めるある会社員、これは船越英二さんが演じてるんですが、その会社員と知り合って旅を共にするところからスタートします。船越英一郎さんのお父さんですね。もう名優さんです。昔40年以上も前に水谷豊さん主演の「熱中時代」っていう番組があったんですよ。学園ドラマで。その校長先生役をやられてたりしたんですよ。

(E・T・ビリー)「熱中時代」知ってます。

(町田和美)私も知ってる。でもなんか少し前もやってませんでした?

(北村直也)そうです。あれはリバイバルでして。そのリバイバルでは息子の英一郎さんが校長先生をやられてたんですよ。

(町田和美)へぇ〜。

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(北村直也)前回のリリー登場作品から寅さんが旅先で再会するという設定なんですが、その場所が函館のラーメン屋台なんですね。寅さんと船越英二さん、役柄は兵頭って名前なんですけど、パパって呼ばれてます。なんかパパって感じそのまんまで。で、そこに唄を商売にしてショーパブを回ってるリリー松岡がお店にはいってくるんですね。もう一瞬で雰囲気がパァーっと明るくなるんですよ。

リリー松岡との再会

(E・T・ビリー)久しぶりの再会ですもんね、そりゃあ。

(北村直也)リリー松岡がマドンナ役の作品はみんなこんな感じなんですよ。本人はいろんなものを背負ったすごく寂しい女性なんですけど、だから弾けたような、なんとも言えない明るい雰囲気を作ったりするんですよ。これは他のどのマドンナ役にもない、独特のものなんですよ。

(E・T・ビリー)だから、リリー松岡なんだっていう。

(北村直也)ほんとにその通り。存在感というんでしょうか、「華」というんでしょうか。でまた、寅さんとリリーとパパの旅の珍道中がもうすごく面白いコメディとして仕上がってるんですよ。北海道の大自然の中で、荷馬車の上に干し草と一緒になって三人が揺られたり、「あぁ、いいなぁ、大人の旅だなぁ」なんて思わせるような。子供をそのまんま大人にしたような。

(町田和美)憧れる!

(北村直也)でも寅さんとリリーのことですから、すぐ喧嘩しちゃうんですね。北海道でも結局喧嘩別れになって、また柴又で再会するんです。もうくっついたり離れたり。

(E・T・ビリー)結局、仲良いんですよね。

(北村直也)仲良いんですよ。お互い大好きなんですよ。直球勝負過ぎて。似た者同志で、だから喧嘩するんですね。でも妹のさくらや、とらやの皆んなからするとヤキモキさせられるんです。リリーさんにはスイッチがあるんですよ。言ってはいけないというか、それを言うから喧嘩になるって言うか。

(和田和美)と言うと。

(北村直也)これリリーの登場する全作品で一貫されてることなんですが、「男に養われる」とか「男に幸せにしてもらう」と言った言葉を寅さんが使った時にカチンとくるといいますか、喧嘩になっちゃうんですね。

(和田和美)あちゃぁ。嫌なんだ。

(北村直也)そもそも「男はつらいよ 」というシリーズでは単純にマドンナが綺麗だなとか、惚れた振られたの秀逸さや面白さもちろん醍醐味なんですが、そこ、根底にある大きなテーマとしては「女性の自立」なんですよ。前にも言いましたが、どのマドンナもみんな葛藤があるんです。自己概念をしっかり描いていてそれと現場や環境との不一致に悩んでいるんです。枠にはめられた結婚が許せないとか、心から愛してる人がいるとか、芸術で自分をしっかり表現したいとか、それをこの映画の中でそれぞれ乗り越えて行くという大きなテーマ性をもったストーリーなんですよ。

(E・T・ビリー)確かにそうんですね。

(北村直也)今はどっちかっていると男が養っているみたいなことを威張っていうと、あの人考え方古いよね的な話になる風潮ってなんとなくあるじゃないですか。

(町田和美)まぁそうですよね。何言ってんだみたいな。

女性の自立というテーマ

(北村直也)そうです。でもこの作品は1975年の作品ですから、今からざっと45年ほど前の話なんですね。そんなひと昔前に、「男が女を幸せにする?笑わせんじゃないよ」って啖呵切るわけですから、リリーさんの自己概念なんて、その時代において凄く尖ってるわけですよ。男性からすると「可愛くないねぇ」って話になるわけなんですね、当時としては。だから、45年という歳月を経て、時代がリリーにやっと追いついたって話なんですよ。

(町田和美)はぁ、確かにそうだわ。

(北村直也)現実的には皆んなが皆んな自己概念との不一致を乗り越えるなんてことは出来ないわけですよ。そう簡単な話じゃないんですね。でも映画の中ではいろいろ葛藤がありながらもそれをエンディングにむけて乗り越えようとしたり乗り越えたりするんです。だから観てる側からすると、同じ臨場感で、乗り越えようとする過程をだんだん応援していくようになっていくわけなんですね。で、共感をしているもんだから、映画を観ていながら心が揺れ動くんです。このシリーズが男性にもそして女性にも長く愛される理由がそこにあるんですよ。観終わった後に感じる爽快感がそれなんです。

(E・T・ビリー)めちゃくちゃわかる。

(北村直也)喧嘩ついでの話になりますが、この映画でリリーと喧嘩したあと、実際には世に「メロン騒動」って言われる家族の大喧嘩があるんですけど、その仲直りで寅さんがリリーを雨の中柴又駅に迎えに行くシーンがあるんですよ。

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(E・T・ビリー)超有名ですね。

(北村直也)知ってますよね。名シーンなんですが、とらやまでの帝釈天の参道を相合い傘で帰ってくるんですよ。ちょっと寅さんがまだすねてて、でもその掛け合いが凄く微笑しくて。本当に有名で可憐なシーンなんですけど、でもなんか寂しいんですね、この二人の関係っていうのは。

(町田和美)成就しないみたいな?

(北村直也)言葉は難しいですけど、成就しないってのは、なんとなくこのシリーズの醍醐味でもあるでしょうし、それが成就したら映画そのものがおわっちゃうって話ですし。

(町田和美)そりゃそうか(笑)

寅のアリア

(北村直也)だから、リリーさん自体が悲しい女性なんですよ。やっぱりどうにもならない今の状況に抗いながら、もがいているんですね。だからとらやに戻ってくるんですよ。苦しいんですね、皆んな。寅さんが作品の中のセリフで言うんですけど、「リリーの唄は悲しいからねぇ」って。ここがこの作品の一番の見せ場なんですけど、寅さんがすごい臨場感で、あたかもリリーが大きな舞台に立った時にどんななのかって話を皆んなの前で物語る長ゼリフのシーンがあるんですよ。この話が凄く美しくて。

(E・T・ビリー)ふんふん。

(北村直也)寅さんの凄さは、この後の作品でも何度も何度も出てきますが、とてつもない臨場感で話をして、皆んなをその場に連れ込んで行くって言うセリフ回しがあるんですね。皆んな寅さんの、まぁ言ってみれば妄想の話だってことはわかってるんですけど、気がついたらそこに引き込まれてしまうんですよ。映画の中で言えばおばちゃんが話を聞いてしんみり涙を流したり、映画の外でも観ている私たち自身も、いい話だなぁって。だから、この作品を観ていただけるなら、3人の珍道中も、メロン騒動も、相合い傘も素敵なシーンや笑えるシーンが凄く多いですけれども、是非しっかりと観ていただきたいのは、寅さんがリリーさんのことを真剣に語る本当に美しいこのシーンだと僕は思いますね。

(町田和美)ありがとうございます。今日紹介いただいた作品、「男はつらいよ寅次郎相合い傘」は、大阪ステーションシネマでは【7/24(金)~8/6(木)】に期間限定で4K上映されます。北村さん、今日もありがとうございました。


<書き起こし終わり>







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