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「86歳、やっとひとり」#41 ソーシャルディスタンス

私から母への「週イチ コール」は土曜日のお昼前に定着しつつある。
それに重ならないよう、妹は日曜日に電話しているそうだ。

年寄りは「いきなり」や「突然」が嫌いだと、同居歴の長い妹が言っていた。何をするにも「気持ちの準備」が出来ているよう、早めに予定を伝えておくとか、できるだけルーティン化するとか、それだけで「安心」につながるらしい。

つい最近、飲み過ぎで土曜の電話が日曜にズレたことがあったが、「昨日かかって来なかったから、”もしかしてコロナ!?”とか思っちゃったわよ。」と来たので、ああ、そういうことだった、と反省した。

”不測の事態”に対応するとか、”臨機応変”とか、”サプライズ!”とか、これって若さの特権でもあるらしい。今から大事に磨いておかねば。

「さっき朝の体操から戻って、部屋でお茶飲んでたところよ~。」
タイミングが合っていると、母も気分が良いようだ。
「今日は19人も参加してたわよ。自粛でイベントも少ないからその代わりみたい。」
「それはそれは、皆さんお元気で何より。」

コロナ対応で、”体操後のお茶タイム”もまだ再開していないそうなので、寄り合いが苦手な母にとっては好都合だ。
「やっぱり色んな人がいるらしいわ。最近ある人のオシャベリが問題になってるようなこと、スタッフさんがちらっと言ってた。」
「まあ、あるでしょうねえ…。で、その人どんなこと言ってるの?」
「さあ…。ミウちゃんからは”最悪を想定して気を付けるように”言われたから、関わらないようにしてる。」
さすが妹のアドバイスは鋭い。その意味を正しく理解している母も鋭い。

「体操も始まるギリギリに行って、終わったらサッと帰って来ちゃうの。オシャベリとかめんどうだし。」
母はどんな相手とでも会話ができ、愛想よく振舞うこともできる「社会性に優れた人」だが、「社交的な人」ではまったくない。

一人が好きだし、友人らしい友人も幼馴染の「ハルちゃん」しか知らない。「寂しいとか思ったこともない」と豪語し、何より群れるのが嫌いだ。それで楽しく生きているのだから、何憚ることもない。

そんな母の「社会性」はスタッフさんから重宝されているようで、「新しい人が入居すると、何だか知らないけど真っ先に私に紹介しに来るのよ。」だそうだ。
その一方で、「館長さんにから、『お母様、皆さんと上手くお付き合い出来すぎていてちょっと心配』って言われちゃったヨ」と妹からの情報。母に限って「仲良くしすぎ」はないから、「気ィ張って疲れてませんか?」の方だろう。スタッフさんの慧眼に恐れ入る。

「あなたにも言われたけど、会社でも学校でも人が集まれば”人間関係”の煩わしさは避けられないってことよね。まあ、私はツマラナイことに巻き込まれないように、注意してやってくけど。」

なるほど、ホームでの生活を始めた母にとって、これこそ大事な「ソーシャルディスタンス」なのかも知れない。本人さほど意識しないながら、それなりに気を張って生活しているのだと思うと「おつかれさま」と声を掛けたくなる。

お母さま、せっかく見つけたお気に入りの終の棲家。
どうぞ色んな「密」を避けながら、末永く気儘にお暮しください。


「86歳、やっとひとり」 ~ 母の「サ高住」ゆるやか一人暮らし
「何も起きないのが何より」の母のたよりと、「おひとりさまシニア予備軍」(=私と妹)の付かず離れずの日乗。

【ここまでの展開】
「最後は(故郷)〇〇山の見えるホームで暮らすの💗 」 60代前半から”終の棲家”プランを持っていた母がついに行動に出た。気に入った施設も決まり、引越しを経ていよいよ母の”新生活”一年目が始まった。

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