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「86歳、やっとひとり」#42 梅仕事

6月に入り私のコロナ在宅も4カ月目を迎えた。

会社の通信インフラが進んでいるお陰で、在宅勤務ほぼ100%。仕事のほとんどをメールでやりとりし、友人との私的な連絡はLINE中心なことから、気がついたらレギュラーに「会話」をする相手がN県の高齢者ホームにいる母だけ(!)という状況になっていた。毎週土曜のお昼前、なんとなく待ち遠しい気分のシューイチ電話に救われているのは今や私の方かも知れない。

「青梅が出始めたわねえ~。今年もミウちゃんと梅シロップ作ったら?」

私がここ数年続けている”梅仕事”を、去年は合同で母と妹の家で作業した。その事を思い出しているらしい。でも、この人そんなに興味あったっけ!?

母に押されて妹に連絡してみると、「なにさ、メンドクサイしお金もけっこう掛かるから『買った方が安い!』くらいに言ってたクセに(笑)」
「ほんとよねー。」

まあ母としては私と妹が仲良く共同作業し、その様子を青梅の香りとともに想い馳せることで季節を共有したいのかも知れない。
「そうして欲しいみたいだからいいんじゃない? シロップできたら送ってあげよう。」

私達はさっそく予定を立て、飲み仲間ポン蔵ちゃんを加えた三人で準備に取り掛かる。

作業場は妹のマンション。青梅の調達は去年と同じ少し離れた大きなイオン。母が移住する以前は、二、三か月に一度そこのレストランフロアで待ち合わせて、中華ランチ ~ お買い物 ~ スタバでお茶 ~ 家に帰って夕食をするのが我が家のささやかなレジャーだった。

「青梅はイオンのが良かったわよね!」
仕入れ先まで言ってくる母の熱意に苦笑しつつ、今年も丁寧に中華ランチからいつものコースを辿る。ついついノンビリしすぎて家に戻ると陽が落ちていた。

梅のヘタを楊枝でひとつづつ取ってから、流水にさらしアク抜きをする。その間に夕飯。アク抜きが終わった梅はひとつづつこれまた丁寧丁寧に拭いて、水気を残さないようおヘソの部分も綿棒でクリクリぬぐう。すっかりきれいになった青梅ボーイズは、床に敷いたバスタオルに並べて風で乾かす。これで一日目の仕事は終了だ。

翌朝いつものごとく遅くまで飲み明かして目を覚ますと、リビングはほんのり爽やかな青梅の香りに包まれていた。つやつやした青梅を眺めながら、まだ途中ながら今年もひと仕事した気分になっていた。

さて昨日土曜日、定例の電話を欠かしてしまった私は母に電話を入れる。
「今ミウちゃんのところ。昨日からポン蔵ちゃんも来て、三人で梅シロップの準備してるよ。」
「あら三人とは賑やかで何より!
ミウちゃんも私がこっちに来て一人になっちゃったから、たまには集まってあげてね。」

… 梅よりも何よりも、母の想いはどこまでも娘たちにあるらしい。


「86歳、やっとひとり」 ~ 母の「サ高住」ゆるやか一人暮らし
「何も起きないのが何より」の母のたよりと、「おひとりさまシニア予備軍」(=私と妹)の付かず離れずの日乗。

【ここまでの展開】
「最後は(故郷)〇〇山の見えるホームで暮らすの💗 」 60代前半から”終の棲家”プランを持っていた母がついに行動に出た。気に入った施設も決まり、引越しを経ていよいよ母の”新生活”一年目が始まった。

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