#49:伊坂幸太郎著『ラッシュライフ』

 伊坂幸太郎著『ラッシュライフ』(新潮社, 2002年)を読んだ。著者の作品を読むのは初めて。人気作家であることは知っているが、ずっと食指が動かなかった。今月初めに読んだ新井久幸著『書きたい人のためのミステリ入門』(新潮新書, 2020年)に紹介されているのを読んで、試しに読んでみようと思った未読作家・未読作品が2冊あったうちの1冊。(ちなみに、先に読んだ、これまた長らく食指が動かなかった某人気作家の初読作品は、私としては低評価。おそらくこの作家の作品を読むことは二度とないだろうと思うほど。)

 本作はこの作家のデビュー2作目とのこと。多視点モジュール形式でテンポ良く進んでいくストーリーは、流れが良くて読み進めやすい。著者の筆力の確かさが感じられて、安心して作品世界に身を委ねることができる。ミステリとしての企みの部分はよく考えられていると思うが、やや手つきのぎこちなさを感じる部分もなしとはしない。とは言え、多少の欠点を補ってあまりあるのは、その平明な文章から立ちのぼる作品世界の魅力である。本作を読んだだけではまだ十分には判断できないが、それが著者の作品の本質であるような気がする。著者の他の作品も読んでみたいと思う。