運命という名のもとに第8話

~妄想という名の短編小説~
第8話 「誰も知らない闇」

最近では、笑うことが多くなった。親ですら、何か嬉しいことがあったのかと…あれこれと聞いてくるくらいの出来事。今までの私じゃ……考えられなかった出来事。そう、あの日のことがなければ…、こんな風になることもなかったのかもしれない。そう、あの日のことがなければ……。

私には、小・中と…、ずっと仲が良かった親友がいた。その名も…田上ありさ。ありさとは、家も近くて…唯一、何でも話せるくらいの親しい間柄だった。学校の行き来はもちろん、帰宅しても…またつるんでは遊び、そう…いわゆる心友。私はずっと、この時間が続くと思っていた。きっと、高校生になっても、大学生になっても、更にはお互い社会人になった先もずっと一緒だと思っていた中三の夏。あの日を境に…、全てを失ったんだ。

『これからも、ずっとずっと!何があっても仲良しでいようね。何があってもだよ!』

『うん!もちろんだよ。ずっと一緒だよ!ずっとずっとね。』

二人の仲では、普通の会話だった。どんな時でも一緒。姉妹のようなふたり。今でも、そして…これからも。それが…当たり前のことだと思ってた。

誰もが楽しく賑わう花火大会の夜…。この日の夜が…全てを変えた。楽しくいつものように…二人で見るはずだった花火。ふたりの時間を過ごすはずだった。

二人で合わせたお揃いの浴衣を着て、私たちは…夜店で賑わう花火大会会場に向かった。そう、いつもと変わらない。変わることはないと信じていたから。

『おぉ!来た、来た。こっち、こっち~!!』

二人で歩いていると…、こちらを向いて…大声で叫ぶ、ふたりの男の子たちが目に入った。誰かを…探していたんだろう。その距離に、近づいた時だった…。

『あ、待った?ごめーん。待たせちゃったかなぁ?』

えっ?ありさと…二人だけのお祭りじゃなかったの?!

『ソラ?たまにはさ、みんなでワイワイやろうよ?ねっ?だから、サプライズ!!ほらほら、行こう!行こう!これから、楽しいお祭りだよ?ねっ!』

戸惑う私を他所に…ありさが…夜道に消えていく。手招きされながらも、私の足元は…おぼついた。その瞬間、同じクラスの唯斗が私の手を掴みながら、行こうぜ!と合図してきた。

『・・・。』正直、今まで感じたことのない感情たちで溢れそうになった。

グイグイと…引っ張られながら、着いた会場でビニールシートを広げて観ることになった。楽しい夏祭りを過ごすと思っていた空(ソラ)にとって、この状況は…今までにないくらいの苦痛でしかなかった。その思いも…伝わることなく、更に…はやし立てられる。

『おお!何か…いい感じじゃない?唯斗~、ソラちゃん。何だか…いいね!笑』

唯斗の友だちの和真が冷やかしに入る。それを…きっと、それを止めてくれると思っていたありさが…口を開いた。

『ソラ?!なかなか…、いい感じじゃない???唯斗は人気者だし、ほら、実は…和真と私たち、付き合うことになってさ?きっと、それじゃあ、ソラも寂しいと思って!連れてきたんだよ!!』

そこには…悪意なんて、感じられなかった。ただ…いつものありさがそこには居て、私の彼氏候補を連れてきた…ただのそれだけに過ぎなかった。だけど、私の中で…何かが途切れる音を感じた。

綺麗に映るはずだった…花火でさえ、見えていなかったのかもしれない。懸命に話しかけてくる唯斗の言葉に頷くだけが…精一杯だった。目の前に広がる闇を照らした光を…ただ、呆然と眺めていた。どれだけの時間が過ぎたのかさえ…記憶になかった。

『ソラちゃん、帰ろっか?』

気づけば、隣にいたはずの…ありさたちの姿はなかった。

『えっ?ありさたちは???』

咄嗟に…でた言葉。

『あ、俺もさ?花火に見とれてたらさ?いつの間にか居なくなってて、さっき気づいたんだよね。でも、ソラちゃん1人じゃ、危ないから…家まで送るよ!』

ため息混じりの返事をしながらも、承諾した帰り道。唯斗が…口を開いた。

『俺、実はさ…。ずっと前から、ソラちゃんのこと…好きだったんだよね。んで、和真に相談したら…ありさちゃんが協力してくれるっていうから…嬉しくてさ?何か…ごめんね?付いてきて…。でも、楽しかったよ!』

どんなに優しく言われても…この状況下では、響くことはなかった。けれど、優しい…。優しい…と、一瞬だけ、そう思った自分を酷く軽蔑した。

『俺…?ますます、好きになって…抑えられそうにない。』

田舎道…。人通りも…そう、多くはない。少しでも道を逸れれば…誰も通ることはないような場所だった。迂闊にも…。私が…人を信じるという、そんなものを持っていたから。そう、自分が悪い。自分のせい。一人で帰れば済んだこと。それなのに…。

私は…砂利まみれの硬い道端で押し倒された。どんなにもがいても…助けなんか来ない。

『やめて…。お願い、お願いだから…』

そんな声すら…届かない。むしろ、唯斗は…その拒否すら、心の裏返しだとか思ってたのかもしれない。本当に、バカな生き物。

『好きだよ。』

力なんて…かなうはずなかった。どんなに抵抗しても…私の声は…届かなかった。何かに取り憑かれたかのように唯斗は、私を汚していった。汚れていく私は…、そのうち抵抗すらしなくなった。きっと、これもまた…唯斗の中では、受け入れてくれたとさえ…思っていたに違いないだろう。果てたあとも…唯斗は肌けた浴衣を綺麗に整えて…、家までついてきた。

『またね』と言ったのか?それすら…、憶えてはいない。

私の頭の中で…一つだけ浮かんだこと『死んでしまいたい』ただ、それだけだった。その日の夜、私は…はじめて、手首を切った。でも…臆病な私は、致命的な傷を与える程の勇気はなくて、滲んでくる血液を見つめながら…朝まで泣き明かした。

翌日、私は学校を休んだ。次の日も。そして、その…次の日も。親からは、何があったのか?どうしたのか?いじめられてるのか?時に…無反応な私に腹が立ち…叩かれたこともあった。あの日から…私は…部屋に籠っていた。

何度も、ありさからLINEが来てた。既読スルー。ありさが一番嫌いなやつ。電話かかってきても…取る事はなかった。時に、延々の長い文章が送られてきた。

『ごめん。本当にごめん。唯斗を問い詰めて…やっと、わかった。ソラには、何て言えばいいかわからない。本当に、ごめん。それしかないけど、私たち…親友だよね?だから、力になりたいんだ。』

その続きさえ、読むのに嫌気が差して…全てを消去した。親友?笑っちゃうよね。力になりたい。どうやって?笑えてならない。もう、過去は…変えることなんてできないし。

約一ヶ月が過ぎようとしていた時だった。ありさが家までやってきた。あまりにも親が煩かったから…仕方なく、会うだけ会ってやろうと玄関先で…話をするとこになった。

『ソラ…。本当に、ごめん。大丈夫?』

『えっ?何が?ああ、ありさたちの仕組んだ二人だけ作戦の結果…、私が冒されたこと?罪悪感とか、あるんだね。笑っちゃう。』

『・・・。こんなことになるとか、思ってなくて。』

『いいよ。もう。戻せるわけじゃないし。ありさ?私はありさのこと、ずっと親友だと思ってたし、これからだって、ずっとそうだと思ってた。だけど、もう…それも終わりにしよう?私が…無理だよ。もう…。勘弁して欲しい。てかさ?消えて?ねぇ。お願いだから…親友ごっことか…もう、いらない。自分がしたこと、考えてよ?頼むからさ…。お願いだから、もう、来ないで欲しい。あと…お願いだから、私の前から消えてよ…!』

ほぼ…、叫びに近かった。

ありさは…泣きながら『ごめん。』そのひと言だけを残して…帰っていった。

その日の…夕方。
感情的になって言った言葉を…後々、後悔するなんて、あの時の私は…思っても見なかった。一生分の後悔。あの時の私は…自分のことしか考えていなかったから。発する言葉一つ一つの大切さだとか…まだ、知るはずもない中三の夏。重なる私の傷は…もっとずっと深い…深い…傷になったんだ。

詩を書いたり、色紙に直筆メッセージ書いたり、メッセージカードを作ったりすることが好きです♡ついつい、音楽の歌詞の意味について、黙々と考え込んで(笑)自分の世界に入り込んでしまうけど、そんな一時も大切な自分時間です。