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傾きかけた陽射し

第19話 「傾きかけた陽射し」
SF小説 「 ボー・アルーリン」

ボー・アルーリンがサンタンニの空港に降り立ったとき、迎えに来たのはレイチ・セルドンではなく、その妻、マネルラだった。彼女の笑顔は温かく、誠実さがにじみ出ていた。

「レイチは今、政府との折衝で二、三日留守にせざるを得なくなっていて、私が代わりに迎えに来たの」と、マネルラは説明した。

車中、ボーはマネルラから現在のサンタンニの状況を聞いた。サンタンニでは反乱が激化し、レイチはダール人と他星からの移民の連携や政府との交渉に奔走していた。レイチ家に到着したボーは、彼の家族に対してもすぐに温かい感情を抱いた。

まず目に入ったのは、レイチとマネルラの娘、ベリス。可愛らしい外見の裏に、強さと集中力を持った少女だった。文芸復興の時代風潮に育ち、彼女はツイストや合気道といった武道に夢中になり、さらにはキナの兵法やニフの武道まで学んでいた。

もう一人の養子、ホルク・ミューラーは、バーチャルゲームに熱中するハンサムな少年だった。最近、彼はバーチャルゲームのコンテストで優勝し、その才能は家族の誇りだった。

「あなたたちの家庭はまさにサンタンニの未来そのものですね」とボーは微笑みながらマネルラに言った。「異なる道を歩みながらも、互いに支え合い成長している。」

翌日、ボーは傾きかけた陽射しに照らされたアーロンティア地区の街路を通って、ダール街の集会所で初めてレイチと対面した。
髭をたくわえ、少し苦笑いを浮かべるレイチ。
レイチはボーの風貌にいささかユーモラスさを感じつつも、彼の律儀で礼儀正しい性格にすぐに惹かれた。

「サンタンニ大学に来てくれて嬉しいよ、ボー。君の人格と知識は、大学にとって大きな財産になるはずだ」と、レイチは感謝の意を示しながら言った。

「それは光栄です」とボーは答えた。「心理学や化学の分野で貢献できるよう、全力を尽くします。」

その頃、サンタンニの政情は急変しつつあった。
「銀河周辺から糸がほぐれ、その悪雲が銀河中心のトランターに落下してくる」。ハリ・セルダンの心理歴史学の定理のひとつの歯車のひとつが動いた。急激な文芸復興は時を経ずして急変する。秩序から混沌へ。建設から崩壊へのアクセレーション。
レイチは率直にその変風の状況をボーに説明した。

いくつかの反乱グループが政府に対して武装蜂起を始め、惑星全体が混乱に包まれていた。主要な反乱勢力は、それぞれ異なる理念を掲げていた。政治的自由と自治を求める「自由の声」。リーダーは カイロン・ヴェルド、サンタンニの元からの中産階級で、反中央集権主義者。経済的自由と惑星自治を主張。

中央集権と軍事力を訴える「新秩序軍」。首領は ゾラ・クエラス。元軍事司令官、強力な中央政府と軍事力による統治を訴える。彼の勢力は、旧帝国の軍隊や武器を利用して力を誇示している。トランター帝国の維持を主張する保守派。だが実態は賄賂と汚職の巣窟。

技術革新と経済改革を目指す「革新の翼」。
ターニャ・エルリッヒは若者や技術者からの支持を集め、技術革新と経済改革を主張し、人工知能やバイオテクノロジーの使用に力を入れる。
これらの派閥が対立し、惑星の支配権を巡って争っていた。

サンタンニ政府のリーダー、エリオン・カッサスは冷静で理知的な人物だったが、強権的な手法が反感を買い、統制を失いつつあった。

レイチはその混乱の中でダール人と他星からの移民の連携を進める役割を果たしており移民局での折衝が頓挫していた。政局は徐々に悪化しつつある。
ボーは大学の職務とは別に孤児院の建設に専念することを決意する。しかし、彼の心には常に、サンタンニの未来とそのために何ができるかが重くのしかかっていた。

が、ふとあのコンポレロンでのあのときの均整のとれた風貌の図書館長と名乗ったクルーソーの姿が脳裏をよぎった。

次話につづく . . .

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