シューマンのオーボエ協奏曲を実現すると決めた。その4

 クラシック音楽とは何ですか?と問われたら、今の私は「冒険です」と答えたい。地球が小さくなった今日秘境を旅するのは難しいだろうけれど、クラシック音楽を用いると地理と歴史両方の軸で旅、さらに冒険をすることが出来る。楽譜や楽器をきっかけに作曲者の活動していた場所と時代に飛ぶのだ。通常の曲を真っ当に演奏するだけでも、誰の曲をどの楽器でどのように演奏するかによって旅の楽しみ方が変わる、と私は思う。ある曲をこれまで演奏されたことのない楽器で演奏することで、オリジナルとは違った雰囲気や気持ちが思い起こされたなら、その冒険は成功だ。
 シューマンのチェロ協奏曲の3楽章の始めに「ララドミラ・ラ」というパッセージがある。1小節の内に最低音のラから最高音域のラまでの3オクターブ、オーボエの演奏可能領域を一気に駆け上がることになる。この部分は冒険の中の綱渡りの場面とでも言えるだろうか。そしてその逆に最高音域のラ、2オクターブ下のラ、つまり最低音のラで曲が終わる。
 演奏時間25分という曲が長いのか短いのか私には分からないが、少なくとも内容が濃いということは間違いない。将来のオーボエ奏者達が、ロマン派の協奏曲といえばシューマンがあると認識しているかどうか、それも私には分からない。しかしその種まきだけは、しておきたいのだ。

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