アンゴラウサギ

私の母はまめに編み物をする人で、お菓子の空き缶に残り毛糸のくずを入れていました。肘の抜けたセーターの繕いなどに使っていたようです。その中に、テニスボールより少し小さい、真っ白な毛糸玉がありました。光沢があり、中細くらいで手触りは滑らか。小学生の頃、私は缶を開けてその毛糸を触るのが好きでした。母に正体を聞いてみると「それはアンゴラウサギの毛糸」という答え。

戦後のある時期、毛を取って現金収入を得るためにアンゴラウサギを飼う事がはやったらしいのです。祖母と娘たちは2階の物干し場に小屋を作り、何匹か飼っていたそうです。どれくらいの期間飼っていたのか・・・祖母の家には「アンゴラウサギの飼い方」というような題の古い本がありました。内容はほとんど覚えていませんが、毛の取り方に引き抜くのとハサミで刈るという2つの方法がある、という箇所だけは「引き抜く」という言葉が怖くて、印象に残っています。結局売れるような毛は取れなかったそうです。

この毛糸はついこの間まで何十年も缶の中で眠っていましたが、あり合わせの糸と混ぜて、ごく小さいマフラーを母が編んでくれました。軽くて暖か、重宝しています。

書いていたら詳しいいきさつを知りたくなりました。今度母に会ったら、あれこれ聞いてみようと思います。

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