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給料2ヶ月分する講座の受講を見送ったお話

常々、書く仕事だけで生活がしたいと思っていた。
会社でやりたくないことをやって上司に怒られる毎日から、自分の好きなことで生計が立つなんて、実現できたらどんなに素敵な人生だろう。

そんなことを思っていた私にピッタリの講座が現れた。
なんでも書く仕事をしたい人向けに、ライターとして仕事の取り方を教えてくれるらしい。場合によっては講師の先生からお仕事を紹介してもらえるとか。
「まさに私のための講座だわ!」と椅子から飛び上がる勢いで、講座の受講金額を調べてみる。私のお給料2ヶ月分だった。お高いけど、この生活から脱することができるのなら行ってみようじゃないか。

自分の文章が雑誌に乗る未来を頭の片隅に妄想しながら、講座のWEBサイトを熟読していると「無料講座説明会」があるとのこと。まあ、もういく気満々だけど念のため行っておこう。そんな軽い気持ちでその講座の説明会に参加した。

説明会当日、zoomから説明会に入る。
講師の先生の第一印象は落ち着いていて、冷静そうな感じの人だった。「この講座に行けばこんな未来が手に入ります」と淡々とした説明を受けた後、質問はありますかと問われたので講座のフォロー体制について質問してみた。
連続する講座と講座の間で課題をしているときに出てきた質問や、つまづいた時はどうやって聞けばいいのかと聞くと、なんの感情もこもってなさそうな声で「質問はその都度してください」とだけ返ってきた。

急いで「講座と講座の間に出た質問は、次の講座で聞くということでしょうか」と、なるべくゆっくりにこやかに聞いてみた。
しかし講師の先生は今度は眉を吊り上げながら「質問はその時してください。わからないことがあったら、ちゃんとそのときに聞かないとダメですよ」と何かを制するように答えた。
私は消え入りそうな声で「ありがとうございました」とだけ言って、他の人との質疑応答を2、3聞き、説明会は終わった。

説明会前までは「この講座に私のお給料2ヶ月分を払おう」と心の準備はすっかりしていたものの、説明会が終わった後は「講座の内容はいいけど、この講師の人にはお金を払いたくないなあ」という気持ちに180度変わっていた。


何かを売るとき、一番大切なのは商品の質だというのは間違いない。でも同じくらい大切なのがそれを売る人の人柄や人間力だと思う。

タワーマンションや高級車といった高額商品を売る会社には名物セールスマンというのが必ずいて、どんなに高額な商品でも「あの人から買いたい」という強力なファンが何十人・何百人も付いているらしい。そしていいものを知ると人はそれを他人に紹介したくなる生き物で、口コミでまた新規のお客さんがやってくるという仕組みだ。

そうしたセールスマンの方が全員タワーマンションに住んでいたり、高級車に乗っていたりするわけではないだろう。プライベートではワンルームのアパートに住んでいたり、ボロボロの中古車に乗っている人だっているはずだ。

しかしそれでも、自社の高額商品の魅力をとことん研究することはできる。そして目の前のお客さまの困りごとや望む未来に少しでも自社の商品が役立てないかを模索し提案する、それが商売の基本だと思う。

この講座を見送ることで、書く仕事だけで生計を立てる日々を送るという私の夢は、もしかしたら遠のいてしまったかもしれない。
でも大きい目で見るとこれでよかったのかもしれない。そんな2つの気持ちの間で今は揺れている。