オーボラの人生回顧録 -銀座ダクション死闘篇-其の8

大型案件の企画打ち合わせ第2回目の当日の朝。
私は徹夜でボロボロになった体で、打ち合わせ前の最後の映像資料チェックのため、金田が出勤するのを待ち構えていた。

徹夜作業というのは、なんて言うか妙な高揚感が伴う。
終電が過ぎてからの銀座の街は昼間の喧騒が嘘のように静かな街に変わる。
時折、窓外から飲んだ帰りであろう、バカ騒ぎの声が聞こえてくるが
オフィス内はしんとした音のない空間で、熱帯魚の水槽のコポコポ空気を流す音だけが聞こえるだけだ。
私は金田に褒められようと、これまでの時間で集めた大量の映像資料を、カテゴリーごとにわかりやすく、編集していた。一番自信のあるものから並べていって、尺があまり長いと退屈してしまうだろうから、これはちょっと伝わりにくいかなと思えるものは、泣く泣く外したりした。
朝日が差し込んでくる頃、大体編集がまとまったので、早朝コンビニに出かけ、朝食を買った。誰もいない銀座のオフィスで、朝日を浴びながら食べるサンドイッチは、仕事をやり終えた男の充実感が加わって、最高においしかった。

金田は、いつもの感じでだらだらと出勤してきた。
映像資料を見てほしいというと、「じゃあ見てみますか」と長い髪をゴムで
縛りながら会議室に入ってきた。

金田は、私の説明を聴きながら、
「ああ、これね、知ってるから飛ばして」とか「ああ、はいはい」「これはいらないんじゃない」とか言いながら、テキパキと指示を出してきて、金田の指示通りに映像資料を再編集して、まとめ直した。かなりスッキリと見やすくなった。

金田「うん、良いんじゃないですかね。ちょっと打ち合わせの内容次第だけど見せれる準備しといて。今おれに説明したみたいな感じで良いから、オーボラからCRの皆さんに説明してみて。これも練習になるから」

と言って、会議室を出て行った。
滅多に通らないと言われていた金田の映像資料チェックをクリアしたことで、私はこの10日くらいの苦労が報われた気がして非常に満ち足りた気持ちになっていた。

そして、2回目の企画打ち合わせが始まった。
企画打ち合わせは、前回同様、遅々とした様子でなかなか話が前に進まない印象を感じた。
今回はプランナーのOさんも企画をいくつか具体的に持ってきていて、
木本も生島も新しい企画や前回のブラッシュアップした企画を発表したが、CDのOさんは「なるほどぉぉぉ」と言って、しきりには頷いているものの、何か突出したコアアイディア見たいのものをまだ探している様子だった。
私は、打ち合わせの内容をノートにメモしながら、金田がいつ映像資料を見せるのだろうと、ドキドキしながらその時を待っていた。私は、今朝金田に説明した流れを頭の中で反芻しながら、ファイナルカットのプロジェクトをいつでも開けるように準備していた。

そして、3時間後。
打ち合わせが終わり、代理店の皆さんをエレベーター前でお見送りした。
映像資料が発表されることはなかった。。。。

「見せんのかーい!!!!!!!!うおーーーーーーーー!!!!!!!」

と心の中で、絶叫した。そして、金田に対して殺意を覚えた。

そうして、企画打ち合わせを何度も行い、1ヶ月後。
ようやく、プレゼンする企画が6つくらいにまとまり、その6案の絵コンテを発注することになる。

続く。

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