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透き通る響き


お久しぶりのコンサート、今回は「Enne_nittouren」という小さなギャラリーにて、辻文栄氏によるチェンバロリサイタル。

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プログラムは次の通り
G. フレスコバルディ Girolamo Frescobaldi(1583-1643)
・トッカータ 第7番 (トッカータ集 第1巻より)
・フォリア
・コレンテとフォリア
・フォリアによるパルティータ
・カンツォン 第6番
・ベルガマスカ
・パッサカリアによる100のパルティータ

B. パスクィーニ Bernardo Pasquini (1637-1710)
・トッカータ
・通奏低音のためのソナタ
・フォリアによるパルティータ

A. スカルラッティ Alessandro Scarlatti (1660-1725)
・トッカータPreludio presto - Adagio - Presto - Fuga - Adagio – Follia

16世紀〜17世紀にかけてイタリアで流行った「フォリア」という変奏曲スタイルの楽曲を中心に据えたプログラム。古楽、特にヴィオラ・ダ・ガンバの世界ではフォリアと言えばマラン・マレの「ラ・フォリア」が有名だが、実際には多くの作曲家の手によって様々なフォリアが作られ、演奏されていたという。(プログラムの内容が充実していて大変勉強になった)

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実際の演奏に使用されたこのチェンバロ、パッと見たところは質素な作りだが、いったん演奏が始まると、それはもうパワフルな響きを生み出す。名古屋市内の工房で製作された比較的新しい楽器。

演奏が始まったその瞬間から「えぇ…」の連続。まず和音の響きが驚くほどクリアで濁りがないことにびっくり。ピアノが奏でる和音とはまったく質が違う。それでいて、時々あれ?と感じる異質な響きが混じり、思わず首をかしげる。ふと気になったのが、調律の方法。フォリアが流行した時代には、まだ平均律が一般的ではなかったはず。

すると思いがけず休憩後、後半の曲が始まる前に演奏者の方が説明してくださった。やはり現代ピアノのような平均律ではなく、今日のプログラムの調性に合わせた調律が成されているとのこと(恐らくはミーントーン=中全音律)。だから濁らない和音がある代わりに、ちょいグロテスクな響きになる音の組み合わせもあり、当時の作曲家は楽曲の効果を生み出すため、あえて違和感のある和音を使用することもあったそうだ。キリストの受難を表すとかね。

古楽はもともと好きなので、透き通った響きに身を任せ、楽しく聞いていたが、最後にチェンバロのイメージを壊すような曲が登場した。最後のスカルラッティだ。この時代はまだ楽章分けのない曲が多かったが、これはなんと6楽章仕立て。早めのテンポで音符の数の多いこと! チェンバロは常に全力で鳴りっぱなし。ピアノみたいに腕力でガンガン鳴らせるものではなく(チェンバロにはハンマーはないからね)、でも、同時にいくつもの音が鳴ると共鳴効果がすごくて、耳に聞こえるものから聞こえないものまで倍音の響きが空間を満たし、頭の中でワンワンとこだまする。室内楽、しかも伴奏向けのおとなしい楽器だと思っていたチェンバロのイメージが崩壊した。

最後にこの素敵な会場、Enne_nittourenについて。

「今を生きる」
ひと・もの・ことを結ぶ場を提供します
明日の元気をつくる場
学び(気づき)の場
感動(アート)や表現の場
共助の関係を作り出す場
丁寧な暮らしをつなぐ様々なヒントや発見を得る場

ということをコンセプトに活動場所を提供するスペースだそうです。ふだんは花や植物を販売しているようです。興味のある方はぜひサイトをご覧ください。

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