コートルード表紙

印象派勢ぞろい

今回は愛知県美術館で開催中のコートルード美術館展の感想です。

年明け最初の美術展めぐりは、見た目に華やかなコートルード美術館展から。現代美術を見慣れてくると、印象派の絵画=目の保養、という気持ちになるし、実際美しい絵が多いのだが、風景や風俗をテーマに取り上げたり、戸外制作を行ったり、新しい技法に取り組むなど、当時の美術の流れにおいては、非常に挑戦的な試みが行われていたことは間違いない。

展示の構成は次の通り。
第1章 画家の言葉から読み解く
第2章 時代背景から読み解く
第3章 素材・技法から読み解く

各章の合間にコラム的に「世界有数のセザンヌ・コレクション」「ルノワールとコートルード」「ゴーガンとコートルード」というトピックがはさまる。また、有名かつ美術史的に重要な作品については、丁寧な図説が横に展示されるので、その絵の何がどうスゴいのかひと目でわかる仕組み。具体的には下図の通りである(美術展公式サイトより、マネ《フォリー・ベルジェールのバー》の解説)。

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各作品に添えられたキャプションも充実しており、絵を楽しむというよりも勉強する、という側面の強い展示だった。その理由は「コートルード美術館」の成り立ちを知ると腑に落ちる。

20世紀初頭のこと、英国織物業界で財を成したサミュエル・コートルード氏は、自分の財産を芸術作品の収集に使うことにした。保守的な英国美術界を憂い、芸術は人々を啓蒙する力があると信じてのことだ。彼は当時フランスで台頭してきた印象派やポスト印象派の作品を、信頼できる画商を通じて精力的に買い集めた。彼のコレクションは後にコートルード美術研究所付属の美術館へ移された。

ということで、もともと研究所とセットになっている美術館から来たので、薀蓄ならまかせろ、という展示になるわけだ。

個人的に一番興味深かったのは、「時代背景から読み解く」第2章だった。風俗を扱った絵画の細部に当時の社会状況や流行を読む試みだ。たとえば、オペラハウスに集う人たちの服装、社会階級、立ち振る舞いなどから何が読み取れるか。またドガ「踊り子」に描かれたバレエダンサーの社会的地位はどうだったのか(現在と全然違う)。現代に例えると、さびれた路地裏で粛々と生きる人々の生活を切り取った写真にも似て、「ああ」となる。

風景画が多いのもまた、面白く、印象派の画家たちはこぞって屋外で制作したようだ。古典絵画では自然の風景はあくまでも背景で主役にはなり得ず、ある程度パターンも決まっていただろうが、そこから脱出して自然の光をできるだけ見たままに捉えることに夢中になっていたようにも見える。それが極まると、自然の姿から形だけ、色だけ、光だけ……など特定の要素を抽出することへ転換し、やがて抽象画への世界が開いたのではなどと想像する。

絵のテーマや技法の変遷は、絵画が職人と貴族だけのものではなくなり、「アーティスト」と中産階級(事業で成功したコートルード氏が良い例)へと広がりを見せてきたことと連動していて、鑑賞者の層が広がることで、新しい表現でも受け入れられるようになったのだろう。

もう一度じっくり見たいと思ったが、某ウィルスの襲来により予定よりも早く終了してしまい、残念。

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