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カツアゲしないロード

 中学の頃の話。ある夜、友人と駅の近くを歩いていた。
 駅の駐輪場へ至る狭くて暗い道へ差し掛かったところで、何やらブツブツ言っている男がいる。俺たちは怖くて仕方がなかったので足速にその場を通り過ぎようとした。
 男に近づくにつれて、男が何を言っているのかが鮮明に聞こえるようになってくる。

「あー金欲しい……あー金欲しい……あー金欲しい……」

 怖すぎる。
 一刻も早く通り過ぎたい。俺たちは何も言わないまま歩調を速めた。目を合わせないようにしながら男の前を通り過ぎて数メートル。

 男は後ろから、明らかに俺たちへ向かってこう言った。

「何逃げてんだよ」

 という怖いことがあった。
 その後はべつに男が追いかけてきてカツアゲされたなどということもなく、普通に帰ることができた。しかし十分に男から距離を取るまで生きた心地がしなかった。本当に怖かったので、だいたいあれから20年経った今でも覚えている。
 何だったんだ、妖怪「金欲しい」か。

 しかし今思えば、男は本当にただ金が欲しいから「あー金欲しい」などとブツブツ呟いていたのではないかという気がする。中学生を怖がらせようなんて意思はなく、本当にただそれだけだったのではないか。「何逃げてんだよ」は怖かったけど。

 というのも、俺も最近本当に金がなくなりかけた時に「あー金欲しい」とつい口から出てしまったのだ。

「あ、今の俺あの時のあいつと同じじゃん」と思った。
 辛い時の「死にたい」みたいなものだ。無意識にポロッと出てしまった。
 さすがに人前では言わないだろうが、もっと追い詰められたらどうなるかわからない。所構わず独り言として出てきてしまう恐れもある。
 嫌だ、妖怪「金欲しい」にはなりたくない。だがそれを避けるには金を得るしか方法がないんだよな。

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