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俺はクリストファー・ロビンではなかった。

 数ヶ月前、なんかの映画を見る前に流れていた予告編で俺はその映画の存在を知った。

 これだ。『プーと大人になった僕』だ。あのくまのプーさんの実写映画だという。ディズニーの、黄色いやつだ。俺の映画の好みからいえば、いつもなら見向きもしないタイプの映画に見える。どちらかといえば俺は人が死んだり血が出たりする映画が好きだからだ。だがこの予告編を見て、俺の記憶の奥底から急にこみ上げてくるものがあった。

 そうだ、そういえば俺は幼い頃くまのプーさんが大好きだった。たしかWOWOWか何かでやってたアニメの主題歌も空で歌える。

「プーさんいつもそーばにーぃっ 君と僕〜〜仲良し〜〜〜くまのプーーーーーー(いい感じのアウトロ)」

 みたいなのだった気がする。あとティガーの誕生日のエピソードをVHSテープが擦り切れるまで見ていた記憶が確かにある。

 このように俺は幼い頃くまのプーさんが大好きだったのだ。だがそのことをこの予告編を見るまで完全に忘れていた。

 この『プーと大人になった僕』は大人になったクリストファー・ロビンとプーさんが再会する物語。「大人になった僕」とは言うまでもなくクリストファー・ロビンのことだ。

 そしてこのタイトルを見て俺は思った。この映画はきっと昔プーさんが好きだった元子供の大人がもう一度プーさんに出会うための映画。「大人になった僕」とは俺のことでもあるに違いない。

 つまり俺は、クリストファー・ロビン。

大人になった僕 = クリストファー・ロビン
大人になった僕 = 俺
∴ クリストファー・ロビン = 俺 Q.E.D.

 そういうことなら、見なきゃ。なにせ俺と、プーの物語だからな。

 そういうわけで今日見てきた。映画が安い日だから。ここから下はネタバレがある。


 映画は100エーカーの森から始まる。ずいぶんリアルになった100エーカーの仲間たちと、幼いクリストファー・ロビンのお別れ会。もう泣いたボロボロ泣いた。

 だって俺が幼い頃大好きだった100エーカーの仲間たちと、俺ことクリストファー・ロビンがお別れするんだぜ。そんなこと、プーさんを見ていた子供の頃は考えもしなかった。クリストファー・ロビンとみんなはずっと一緒だと思ってた。でも考えてみれば俺も大人になるにつれていつの間にかプーさんたちとはお別れしていたんだ。やはり俺はクリストファー・ロビンだ。

 そしてクリストファー・ロビンは寄宿学校へ行きストファー・ロビン、大人になりストファー・ロビン、嫁ストファー・ロビン、子ストファー・ロビン、仕事マジ大変ストファー・ロビン、家族よりも仕事優先ストファー・ロビン。かわいそう。

 そこへあるきっかけでプーが会いにくるわけよ。ロビンに。何年も何年も経ってるけどプーは全然変わらない。ずっと俺たちが知ってるあのくまのプーさんのまま(見た目はスゲーリアルだけど)。あのプーさんと大人になったクリストファー・ロビンの再会だ。

 もうでもクリストファー・ロビン大人だからよ、大人だし死ぬほど忙しいからプーに構ってらんないわけよ。でもプーはあの感じだから、めっちゃ忙しい大人と、あのくまのプーさんの会話を想像してみてくれ。最悪の相性だ。それがそのままスクリーン内にある。確かにクソ忙しい時にくまのぬいぐるみが家の中ハチミツでベッタベタにしたらムカつくだろうけど、でもロビンはなんでそんな酷いこと言うんだってくらい酷いことも言うわけよ。この映画前半は見ててすごく辛くて悲しいわけよ。そんなこと言わないでくれロビン。俺の知ってるクリストファー・ロビンはそんなやつじゃねえ。なんでそんなになっちまったんだ、仕事のせいか。やはり労働は害悪だ。遊ぼうぜ、ほら風船だぞ。遊べ。遊ばんかい。

 前半の途中で気がついた。「あれ、俺今プーさん側に感情移入してるな?」

 なんやかんやでまた100エーカーの森へ行き、他の仲間たちとも再会するロビン。もうここあたりになると完全にプーや100エーカーの森の仲間たちに感情移入していた。彼らと共にクリストファー・ロビンを心配し、彼らと共にクリストファー・ロビンとの再会を喜んだ。

 よかった、俺の知ってるクリストファー・ロビンがまた帰ってきてくれたんだ。最終的にそんなことを思っていた。もうクリストファー・ロビン目線ではない。完全に100エーカーの住人としてこの映画を見ていた。おかえりクリストファー・ロビン。よかったなクリストファー・ロビン。最終的にボロッボロ泣いた。

 俺は「大人になった僕」ことクリストファー・ロビンではなかった。きっと今働いてないからだろう。なんなら俺は大人にすらなっていないのかもしれない。きっと働いてたら、もっと大人になっていたら、クリストファー・ロビンに感情移入したまま見ていただろうし俺はクリストファー・ロビンだっただろう。

 一応言っておくと、この映画は「仕事やめろバカ、遊べ」みたいな映画ではない。どちらかといえば、「"何もしない"ってのもたまにはいいぜ」みたいな映画だ。

 今仕事をしているあなたはきっとクリストファー・ロビンだ。クリストファー・ロビンはこの映画を見たほうがいい。クリストファー・ロビンの話だからだ。そしてもちろんクリストファー・ロビンではない人にももちろんおすすめだ。

 この映画を通して、大人になった僕ことクリストファー・ロビンとして100エーカーの仲間たちに再会するのもいいし、100エーカーの仲間として大人になったクリストファー・ロビンと再会するのもいい。きっとどちらも素敵な体験だと思う。

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