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マルクス生誕200周年記念 斎藤幸平氏インタビュー「世界のマルクスの読まれ方」

2018年5月5日はカール・マルクス生誕200年の記念日です。世界各地での盛り上がりについて斎藤幸平氏に話をお伺いしました。
斎藤幸平 1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科・経済学部准教授。
TwitterID @koheisaito0131


—昨年は、資本論(初版)刊行150周年、今年はマルクス生誕200周年ということで、ドイツを中心に世界中で盛り上がっていますね。
 それはアカデミックな世界だけではなく、ゼロユーロ紙幣が発行されたり(「マルクス生誕200年記念の「ゼロユーロ紙幣」、大好評で増刷へ」ロイター、2018年4月19日)、信号がマルクス柄になったり(「German city installs Karl Marx traffic lights」BBC、2018年3月20日)、親しみをもって楽しんでいるようです。
 斎藤さんは、昨年はカナダでのカンファレンスに参加され、今年はドイツ、インドの国際会議に参加されると伺っています。
 カナダでの様子はいかがでしたか?

 ヨーク大学はトロント大学と違って、町の中心部から結構離れています。さらに、ビクトリアデーの祝日の週末に到着したこともあり、学生はあたりを見回しても全然いないし、学食も開いてないしで、飢え死にするかと思いました(笑)。なので、登壇者もウォーラーステイン、バリバール、サッセン、ボブ・ジェソップなど非常に豪華メンバーなのに、本当にカンファレンスに人が来るかを勝手に心配していました。
 ところがふたを開けてみると、企画者のマルチェッロ・ムストも驚くほどの連日超満員。数百人入るホールも階段に座る人や立ち見が出るほどの人がやってきました。おお、すごいなと普通に驚きました。

 でもこの話には続きがあって、カンファレンス後にトロント市内に行ってびっくりしたのですが、街にもたくさんカンファレンスのフライヤーが貼ってあるのです。ホテルの前の電柱とかバス停にまで。マルクスを広めようとするなら、これくらい本気でやらないといけないということを思い知らされました。(笑)

バス停に貼られたポスター

 聴衆にも、日本と大きな違いがありました。その後10月に東京で同じような『資本論』150年の記念シンポジウムがあったのですが、こちらも150人くらいの人が来て、会場はほぼ満員でした。でも、みんな白髪のおじさんばかり。それに対して、トロントでは、聴衆は平日に開催したこともあり、若い人が中心で、女性も多かった。マルクスへの関心が全然違うなと感じました。

—なるほど。少し話は変わるのですが、そもそも、そのように斎藤さんが国際的に活躍されているバックボーンを知りたい方も多いと思いますので、今までの経歴を教えてください。

 高校卒業後、渡米し、ウェズリアン大学というリベラルアーツで政治学を専攻して卒業しました。もっとマルクスを勉強したくて、ドイツに行き、ベルリン自由大学で修士課、フンボルト大学で博士課程をそれぞれ修了しています。ポスドク時代はカリフォルニア大学サンタバーバラ校にいましたが、今は大阪市立大学経済学部で教えています。
 博士論文は Natur gegen Kapital: Marx' Oekologie in seiner unvollendeten Kritik des Kapitalismus (Campus, 2016)として刊行されていますが、専門はマルクスのエコロジー思想です。また、この英訳版 Karl Marx’s Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy もマンスリーレビュー出版から刊行しています。

—ありがとうございます。話をマルクスの読まれ方に戻すと、『『資本論』の新しい読み方』について「この入門書をぼくが訳そうとそもそも思い立ったのは、ドイツの社会運動をやっている友人の家にいくと、マルクスを読んでいないようなやつの本棚にもこの本が必ずあったからなんです」と著者インタビューでお話されていました(ミヒャエル・ハインリッヒインタビュードイツで支持を集める経済学者が語る『「資本論」の新しい読み方』)。マルクスの著作はドイツでカジュアルに読まれているのでしょうか。

 まぁその友人は左翼なので、読んでいても不思議じゃないかもしれませんが、やはり研究者以外でもマルクスを読んでいる印象です。それはベルリンでもローザルクセンブルク財団が企画している『資本論』読書会などに参加しても感じていたことです。
 それは自動的に人が集まってくるという話ではもちろんなくて、ローザルクセンブルク財団がかなり努力をしていると思います。例えば、ローザルクセンブルク財団主催の今度のベルリンのカンファレンスでは、Kammerflimmer Kollektiefというバンドを呼んで、そのままクラブでオールナイトのパーティーを企画したりと、いろいろな人が楽しめるようにかなり真剣に考えています。
 また『資本論』読書会のチューター3人のうち2人が女性であったり、カンファレンスにも様々な地域や性別の人を読んだりすることも、より幅広い層に届く一因ではないでしょうか。これは別にローザルクセンブルク財団に限ったことではなく、トロントの時も、ムストはインタビューを撮影して、マルクスの現代的意義についてのドキュメンタリーを作成しようとしていました。
 にもかかわらず、トロントのカンファレンスでは、アカデミックな人ばかりかと思って、デヴィッド・ハーヴィーみたいに英語だけで『資本論』を読んでいては話にならん、マルクスを理解するためにはドイツ語とフランス語で読め、みたいな話を調子に乗ってしていたら、後から組合運動をしている人に「労働者中心で勉強会を開いている俺たちはどうすればいいっていうんだ」と詰問されて、反省しました(笑)

—斎藤さんはフランスの新聞「Humanité(ユマニテ)」でもインタビューをうけておられ(記事「Marx et l’écologie au XXIe siècle」)、トルコ語にも訳されたそうですね(記事「21. yüzyılda Marx ve ekoloji: Kohei Saito ile söyleşi – Jerome Skalski」)。また、マルクス生誕200周年について英紙「フィナンシャル・タイムス」、独紙「南ドイツ新聞」の記事を政治家の志位和夫さんがTwitterで紹介されてました(2018年4月22日9:41)。欧米のジャーナリズムとしてはマルクスにどのような関心をもち、どのように報道がされているのでしょうか。

 私はその「フィナンシャル・タイムス」「南ドイツ新聞」の記事を読んでいないのですが、最近見たものの中では、「ガーディアン」にヤニス・バルファキスが『共産党宣言』の現代的意義について書いていたり、『ポストキャピタリズム』で有名なジャーナリストポール・メイソンが「K is for Karl」という5本だてのビデオクリップを公開し、「疎外」や「共産主義」などのマルクスの概念について説明したりしています。

 バルファキスもメイソンもマルクス研究者ではありませんので、その内容は非常にわかりやすいものになっています。その分、研究者のなかには彼らの解釈を「俗流」と呼ぶ人もいます。ただ、彼らの鋭い現代資本主義の分析の背景には、こうしたマルクス解釈があるというのを知ることができるのは大変興味深いですし、マルクスの基本的アイデアを多くの人に届けているという意味では、非常に重要な仕事をしていると思います。
 去年は『資本論』刊行150周年、今年はマルクス生誕200年ということで、英語圏やドイツ語圏でも有名出版社からマルクスの伝記や研究書が刊行されていますが、その大半がマルクスの「限界」を最終的に強調するだけで終っているのに対して、メイソンやナオミ・クラインといったジャーナリストたちの方が難しい概念を使わずとも、マルクスの現代的意義を展開していて、圧倒的に面白いです。

—残念ながら日本ではそういう展開はあまり見られないですね。書店員さんからのお話によるとマルクス関連図書の読者の中心は昔からの関心で読んでいる団塊世代のようです。また、例えばフランス現代思想の思想家たちが連関をもって展開され、店頭のフェアなども多様なのに対し、マルクスから、あるいは他の思想家から連関してマルクスを展開させることが難しかったりするようです。読者の側も様々な方向から読もうとする動きはあまり多くないかもしれません。
 ローザルクセンブルク財団の動画「Marx200」でも最後に「批判的に評価しよう」と締められているように、特定の政治思想をあらかじめセットして読むのではなく、もっと広い関心や方向性から、テキストの可能性を読むことができますよね。

 ご自身の研究の展開については佐々木隆治さんとの対談でもお二人からお話頂いていますが(「マルクスのアクチュアリティ」)、学生、他分野の研究者、読者にもっとこういう関心で読んでほしい、というリクエストなどがあれば教えてください。

 日本だと「疎外」「搾取」「共産主義」といったマルクスの概念はなんとなく時代遅れで、かっこ悪いというイメージが広がっていると思います。私や佐々木さんが「物象化」、「物質代謝の攪乱」、「脱商品化」などの概念を代わりに使うのには、無意識的にせよ、意識的にせよ、そういう背景があると言えるでしょう。ただ、最近メイソンやクラインの議論を読み返したり、海外の若い人々と交流するなかで、一見「素朴」な概念が持つパワーを再確認しつつあります。こちらが「草稿が……、抜粋ノートが……」とばかり言っていてもやたらハードルが高く感じてしまうでしょうから、マルクスの思想をもとにして、もっと多くの人々にも興味を持ってもらえるような話を今後展開したいと思っています。とはいえ、それはいつになるかわからないので(笑)、マルクスは時代遅れと思う人も、メイソン、クライン、あるいはアントニオ・ネグリやマイケル・ハート、さらにはデヴィッド・グレーバーの著作に触れていただけるといいなと思っています。

—最後に、今年これから参加される国際シンポジウム、また国内の予定なども差し支えない範囲でご紹介ください。

 5月5日のマルクスの誕生日に合わせてベルリンで開催されるカンファレンスで発表します(Marx200)。6月にはインドのパトナで開催されるカンファレンスにも呼ばれています。12月22、23日には法政大学で記念国際シンポジウム(2018年マルクス生誕200周年記念国際シンポジウム)が予定されています。ムストもサバティカルを使って、大阪と東京に3か月ほど滞在する予定なので、このシンポジウムにも参加してもらう予定でいます。他にもいろいろあるのですが、ちょっと(飛行機を利用すると)二酸化炭素排出の問題もあるので(笑)、いくつか断ろうと思っているので、とりあえずそんな感じです。あとは、本の企画もいろいろ動いています。

—ありがとうございました。これからのさらなるご活躍を楽しみにしています。

(インタビュアー 小林えみ)

【関連書籍】 『nyx』3号第一特集「マルクス主義からマルクスへ」


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