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それでも前へ進むニューヨークの飲食店その②(コロナウイルスとニューヨークの飲食店の事情) 2020/4/3

どんなに困難な状況に陥っても、"思いやり"は伝染するのだと思います。

 2020年3月17日より、ニューヨーク市の全ての飲食店が営業停止(デリバリーとテイクアウトは営業可能)になってから、2週間以上が経ちました。

この2週間で、新型コロナウイルスの感染は爆発的に拡大し、深刻な状況が続いています。

 先日の記事にも書いた通り、ニューヨーク市のレストランで店内での飲食が禁止になってから、多くのお店がテイクアウトやデリバリーを始めていましたが、経済的な理由、スタッフやお客さん、配達員への安全面の配慮から、ここ1週間で、そのサービスも辞め、完全にお店を閉める店が増えてきました。例えば、私が住むブルックリンのウィリアムズバーグのランドマークであるWythe Hotelのレストラン「Le Crocodile」も、彼らのスぺシャリテであるローストチキンのテイクアウトをしていましたが、先日、ついに完全にお店をクローズしてしまいました。先週まで営業していた近所のコーヒー屋さんも、3月末で休業してしまいました。車文化のカリフォルニア等とは違い、従業員が職場のレストランへ通うために公共交通機関を利用しないといけないケースが多い環境も、影響しているのかもしれません。

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(ブルックリンのカフェの入り口に貼られていた紙。テイクアウトでの営業を続けていましたが、3/30から完全にクローズとの案内)

ニューヨーク市には、2万7千件以上もの飲食店があると言われています。そのほとんどが営業を停止している今、多くのレストランがGoFundMeなどのクラウドファウンディングのサイトを通じ、救済基金を呼び掛けています。また、ギフトカード、Tシャツ、エコバッグなどのグッズ、お店のワインを販売するなど、少しでもすぐに現金化できる工夫を行っています。

しかし、それだけの収入では、もちろんお店は生き残っていけません。先日、ニューヨークの大手飲食企業の代表者たちが、NY Timesに「Will We Have an America Without Restaurants?」(レストラン無しでアメリカは存在するのか?)という題の意見を寄稿し、政府の助けが必要であると訴えました。その記事には、アメリカ全土のレストランは、1000万人以上の従業員を雇っており、その彼らが職を失ってしまう危機に直面していると。つい先日、トランプ政権が2兆ドル(約215兆円)の経済対策を行うことが成立しましたが、十分な金額ではないかもしれません。

 この様なニュースをみると、これから感染ピークがくると言われているニューヨーク、一体どうなってしまうのだろうと不安な気持ちになります。しかし同時に、思いやりに溢れた素晴らしい動きも沢山あるのです。

ニューヨークのローカルニュース番組で紹介されていたピザ屋の話を紹介したいと思います。マンハッタンのイーストヴィレッジにあるピザ屋、「Sauce Pizzeria」は、毎日400枚のピザを無料で病院へ届け、医療従事者へ提供しているそう。このピザ屋のオーナーは、看護師である友人が、「ランチを食べる時間もなく働いている」という話を聞き、ピザを病院に届けることを思いつき、今ではニューヨーク州の40もの病院に無料で配達しているのだそう。彼は決して潤沢な資金があるわけではなく、先述したGoFoundMeで救済基金を募っています。すると、その話を知ったピザ屋の大家さんは、この行動に感銘を受け、ピザ屋の家賃を3ヶ月間凍結(無料!)したそうです。イーストビレッジの3ヶ月分の家賃って相当な額に違いありません・・・。ニュースでは、”GENEROSITY REWARDED” (寛大さが報われた) と紹介されていましたが、寛大さが寛大さを呼ぶ、まさに、思いやりの連鎖でしょう。

このピザ屋のオーナーが”Pizza makes people happy”(ピザは人を幸せにする)と言っていましたが、ピザというのが何ともニューヨークらしい、心温まる話です。

また、ミシュラン三ッ星レストランである「Eleven Madison Park」 は、数週間前に一度解雇(レイオフ)した従業員たちを呼び戻し、非営利団体であるRethink Food NYCと一緒に、毎日2000食を調理し、医療従事者に届けています。また、SNSを活用した動きでは、ニューヨークの有名シェフたちが次々とインスタグラムに、家庭で作れる簡単な料理のレシピと作り方をアップしています。動画で作り方を説明しているシェフも多く、大きな反響を呼んでいます。Netflixの番組にも数多く出演している、ニューヨークの大人気店Momofukuを経営するDavid Changは、電子レンジを使って簡単に料理できる方法を教えたり、一般的な家庭のお鍋で”コシヒカリ”を炊く方法等を投稿していました。Self Quarantine(自主隔離)中の世界中の人々への、彼らの思いやりを感じます。

この様に、悲しいことばかりではないのがニューヨークの現状だと思います。飲食業界だけでなく、あらゆる場所で、”思いやりの行動”が起きています。例えば、今、ニューヨークでは、医療従事者やスーパーなどで働くエッセンシャル・ワーカー達に感謝を伝えようと、毎日19:00から2分間、一斉に拍手をおくる”Clap because we care”が行われるようになりました。インスタグラムなどで#Clapbecausewecareと検索すると、ニューヨーク中に響き渡る拍手の音が聞こえ、涙がでそうなほど込み上げてくるものがあります。私も、手が赤くなるくらい毎晩拍手を送っています。

 また、今日、私の住むアパートの玄関に、「ご自由にどうぞ!」とパズルが置かれていました。ありがたく一つ頂戴し、御礼のメモを置いておきました。普段付き合いのない住人とも、直接御礼は言いに行けないですが、心の距離がぐっと近づいた気がします。

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(アパートの玄関に「Free Puzzles!!!」と置かれていたパズル)

困難と簡単に言うのも憚られる状況下で、少しでも前へと進めてくれるのは”思いやり”だと、感じさせられています。誰かを思いやれば、自ずと自らの役割が見えてくる、ということを、自分の場所を奪われている飲食店の人や、ニューヨークに住む人々が自分にできることを行う姿に教えてもらったような気がします。

 先日、ニューヨーク州知事が、日々の定例スピーチにて、この様な言葉を締めくくりに述べていました。

Love wins. Always. (愛は勝つ。いつでも。)

その言葉を信じて、この長期戦、思いやりをぐっと心に誓い、乗り越えていきたいと思います。

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