SXSW2023に行ってきた - 最新テクノロジーの祭典
Dentsu Innovation Studioでプロダクトマネージャーをしております、にょそと申します。
私は5年間の中国生活を終わらせ、2022年9月からアメリカへ移住し、現在で半年が経過いたしました。アメリカに来る前と現在において、テクノロジー業界においては、生成系AIによって大きな変化が生じました。特に、2023年以降においては、日進月歩で進化していくテクノロジーのトレンドを追いかけることが日々の課題であり、情報収集に多大な努力を払っております。
同時に、テクノロジーを追いかけることにより、これまで解決が困難であった業務上の問題に対して新たな可能性が生まれ、非常にワクワクしております。
本noteでは、私が参加したSXSWの報告をもとに、これから新しい技術を取り入れようと考えている方々のために、「業界のトレンド把握」や「最新テクノロジーを使用する際の注意点理解」をまとめました。また、生成系AIのプロジェクトに従事する自分自身への備考録としても役立つ内容となっています。
アメリカでは、テクノロジーの最先端を生み出し続けるために、常に最新テクノロジーの導入が求められますが、その際に注意すべき点にも留意しなければなりません。そこで、各業界における最新のトレンドを見ていきながら、最新テクノロジーの導入が目的とならないことに注意しつつ、今後のテクノロジー活用に役立つ情報を提供していきます。
SXSWとは?
SXSW(サウスバイ・サウスウェスト)は、テキサス州オースティン市で開催される、世界最大規模のマルチメディア・カンファレンスです。このカンファレンスには、映画・音楽・テクノロジー分野の専門家や愛好家など、世界中から多くの参加者が集まります。
毎年、SXSWでは多彩なセッションやパフォーマンスが行われ、最新のトレンドやテクノロジーについて情報を発信する場となっています。ここで発信される情報は、世界中のマルチメディア関連業界に大きな影響を与えることもあります。また、このカンファレンスは、様々な業界の交流や新しいアイデアの創出にもつながっています。
3つの注目分野
現在、注目されている生成系AI(Generative AI)を始め、Web3、メタバース、XR(VR/AR/MR)、Blockchain、DAOなど、様々なテクノロジーに関する情報発信や情報交換が積極的に行われています。昨年2022年に注目されたメタバースはもちろんですが、2023年は、生成系AIとXRのKeynoteや体験会に非常に多くの人が集まったことが注目されました。
特に生成系AIに関するセッションは非常に数が多く、どのセッションも満員状態でした。さらに、3日間にわたって開催されたXR体験会は長蛇の列で、朝一に行かなければ体験の予約を取ることができない状況でした。これらから、生成系AIとXR技術への期待の高さが伺えます。
メタバースやXRのセッションで話された印象的なこととして、以下のようなものがありました。
また、ヘルスケアは現実的な問題解決を可能にする分野として非常に注目されており、「メタバース×ヘルスケア」「生成系AI×ヘルスケア」などのセッションも複数開催されました。
大注目の生成系AI(Generative AI)
Keynoteにおいては、主に①最近のトレンド、および、②活用する際に留意すべき点についてディスカッションが行われました。
①最近のトレンド
今のAIは、メタバースやXRとは異なり、ユーザーが一斉に使い方を模索し始めた。
これから現実世界の課題を解決していくものという位置付けになっていく。
AI時代のデバイスにも注目が集まる予感で、Humane*がその先陣を切っている
*Humaneに関する取り組みについては詳細は発表されませんでしたが、OpenAIやMicrosoft、Volvo、LGが投資し、シリーズCで1億ドルを調達したことが報告されました。
②活用と注意
AIをうまく活用するにはAI(道具)に飛びつくのではなく、ビジネス課題(目的)から考えて適用すること
非構造化データを構造化してくれるところに便宜があること
各方面のピッチに共通して言えることとして、まず会話の始まりは「我々は、誰々の、こうした課題を解決します」という基本があります。AIを活用する場合でも例外ではありません。ビジネスの課題を見極め、適切に適用することが求められています。
また、組織や個人は、構造化または非構造化のデータを多く所持しています。それをまとめることで、ドキュメント管理やアウトプットのスピードが格段に向上し、別のことに時間を割くことができるという利点があります。
生成系AI活用のユースケース
ユースケースに関するディスカッションは少なかったものの、grammarlyでは自社に組み込んだ機能を例に挙げて、実演する時間がありました。
grammarlyは、主にドキュメント作成やメール作成においてソリューションを提供するサービスです。しかしながら、文案作成の補助機能(明言はされませんでしたが、おそらくOpen AIを利用したものと思われます)をリリースしました。セッション中には、この機能を2つ紹介する時間がありました。
Docsで文書作成している状況で、自分が書いた箇条書きの文に対して”make a paragraph”とコマンドを入れると文章を生成してくれる
Gmailで文書作成している状況で、同僚から「この時間空いてる?」というメールが来て開くと、”OK”、”NG”の選択肢が表示され、どちらかを選ぶと勝手に文章を書いてくれる
また、文案作成前のPromptにも工夫があり、ユーザーは「名前」「部署」「トーン」を入力することで、そのPromptに応じた文章を作成する機能があります。grammarlyでは、データのクリーニングに最も時間を費やしていると述べられました。
さらに、ブレインストーミングのツールとして、以下のものが紹介されました。
インフルエンサーになるための戦略や企画を壁打ちするためのツールがあります。このツールは、一言入力するだけで「こういうときどうするか?」と質問してくれるので、簡単にアイデアを拡張することができます。ChatGPTを使用する場合は、自分でPromptをしっかりと設定する必要がありますが、このツールは特定の分野に絞っているため、ユーザーにとってはスムーズな壁打ち体験ができるでしょう。
XRの「今」を体感できるXR展示会
XRは体験型コンテンツが中心となっており、その中から一部を紹介します。
まだ遠い「酔い」の改善
典型的なVRコンテンツとして、Kpopコンサートの参加、散歩、ジョンFケネディ暗殺美術館の3つのコンテンツを体験しました。美術館は映画の拡張コンテンツとして位置付けられ、コンテンツの質が素晴らしく、酔いも少なかったと感じました。
しかし、Kpopコンサートや散歩は自視点にもかかわらず、カメラワークが勝手に動いてしまい(自分で操作できないため)、数分でかなりの違和感と酔いを感じてしまいました。また、「酔い」の問題点は以前から指摘されているものの、今回のXR体験ではその改善テクノロジーは見られませんでした。さらに、コンサートでは「大衆の活気(声援など)」を味わえる音がなく、普段の体験とのギャップも違和感につながった可能性が高いです。
Keynoteでは、VRコンテンツにおける酔いの原因を以下のように説明していました。
可能性を感じたAR
ARは拡張現実で、VRと同じようなヘッドセットを装着するものの、現実世界がレンズ越しに見えるようになっており、現実の視界にデジタルなコンテンツが乗っかっているように見える技術です。今回は3つを体験しましたが、VRのような酔いはなく、時間を忘れるほどの没入感とコンテンツの楽しさを感じました。
以下の2つはシューティングゲームをプレイしている様子で、操作はトリガー1つとシンプルで、現実世界も見える安心感(壁に当たらない、人が確認できる)を感じました。
Johnson&Johnsonは、医療現場での新人医師の研修資料をARで作成しました。操作が非常に難しかったものの、操作に慣れれば非常に優れたコンテンツだと感じました。
一番人気だった「体で感じるVRコンテンツ」
ロールプレイングゲーム(6人1組、皆違う役割を与えられる)のVRコンテンツです。ヘッドセットだけでなく、体に圧を与える&匂いを出す衣服デバイス、食べ物(今回はなし)などを総合的に活用して、五感でコンテンツを体験することができます。
また、「個人の歴史を辿る」というVRコンテンツは、VRヘッドセット越しの壮大な世界観に加え、衣服デバイスを装着することで振動を感じることができ、より高い没入感を味わえました。
デバイスの進化 VRグローブ
VRにおいては、視界が遮られるため、デバイスの操作が困難であることは述べました。Aボタン、Bボタン、トリガー等といったボタンが存在することが一因となっています。しかしながら、以下のようなグローブ型デバイスは、指に近いデバイスであり、直感的に物を掴んだりする操作が可能であることから、利用されることがあります。
また、このグローブ型デバイスを使用することで、物を掴んだ際の触感を感じることができ、非常に現実的な感覚を得ることができました。現在は、まだケーブルが太く大型であり(プロトタイプ、$80k)、商品化には至っていない状況ですが、2024年頭にはよりコンパクトで、より低価格($6k)な商品を一般販売する予定であるとのことです。
Metaverseの体験を始めよう
2022年に引き続き、メタバースも非常に人気のある分野の1つでした。
これまではデジタルファーストの時代でしたが、これからはメタバースファーストの時代に移り変わり、すべての産業分野が再構築されていくことが予想されています。
たとえば、ヘルスケア分野では、5年後にはデジタル上に現実世界と同様の病院(デジタルツイン病院)が完成し、10年後にはメタバース病院やサービスが展開されると予想されています。
メタバース世界におけるエンゲージメント体験
エンゲージメントの戦略は現在、大きく3つに分かれています。
Co Creation
特典やロイヤリティ
コミュニティ
Co-Creationの事例として挙げられていたのは、Forever21の昨年の取り組みです。ユーザーはメタバースプラットフォーム「Roblox」上で自分だけのカスタムバーチャルファッションストアを運営できます。この「Forever 21 Shop City」はコミュニティファーストな取り組みで、ブランドとユーザーのCo Creationの好例になることが期待されています。
特典やロイヤリティの事例としては、Relic Ticketsが挙げられます。今のところ、多くの人はグッズの購入や入場券の管理によって自分自身の証明をしていますが、「SXSW行ってきたよ!」「Justin Bieberのライブ行ってきたよ!」など、自身の証明をデジタル資産として保管できるようになっています。
コミュニティの事例としては、cryptoに興味のある女性を中心に成長しているBFFコミュニティがあります。BFF Friendship Braceletを(cryptoで)購入することが、コミュニティ参加の証となります。
今後データは誰のものに?
セッション中に印象的だったのは、「デジタルアセット」という言葉でした。
先ほどのRelic Ticketsのような物理的なものをデジタル化することに加え、Web2.0のプラットフォーム時代とは異なり、Web3.0は自分でデータを選択し、管理できる点が強調されました。
とりあえず興味を持って、楽しんで学ぼうということで、Unstoppable Domainで実際に試してみたところ、以下の画像のようになりました。これまでのSNSに似ていますが、Web3.0ではドメイン(.nft、.cryptoなど)を取得し、基本的なプロフィールはもちろん、アバターやCrypto、バッジも管理することができます。
”人が中心”であるメタバース
AIがツールとして活用されず、またツールを目的にすることがないようにすることも非常に重要な要素です。
先述のUnstoppable WOW3という会社は、メタバース空間に本社を置き、人を中心としたメタバースの活用を推進しています。また、農業製品を販売するJohn Deere社も、メタバースで製品を試すことができる技術の開発を進めています。
メタバース空間において、コミュニティを運営することは、「人を中心としたメタバース世界」を具現化していると言えます。
さいごに
今回は、2023年のSXSWにおけるテクノロジー分野についてレポートします。Generative AI、XR、メタバースに関するセッションには多数の参加者が集まり、その関心の高さを示しました。Generative AI、XR、メタバースは、今後のユーザーの適応に期待される分野であり、現在MVP(minimum viable product)の構築の真っ最中でした。
2024年の予測としては、引き続きこの3つの分野が注目されることに加えて、Generative AIはリアルな問題解決のための取り組みが進んでいることから、ユーザーの適応に成功し、さまざまなユースケースが生まれる可能性があります。
何事もまずはサービスを実際に使ってみて、使い方を模索することで、技術の良し悪しをしっかりと判断し、それをビジネスの課題に適用することが重要だと感じました。
さいごのさいごに
Dentsu Innovation StudioではGenerative AIやNFT、Fintechなど様々な米国テクノロジートレンドの記事を配信しております。関心のあるトピックがあればフォローやスキをお願いします。
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