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キーボードを打つ手が止まるのは、そこにかわいいネイルがあるから

わたしは物心ついたときから、お化粧に興味津々な女の子だった。

最初の記憶では、母の鏡台にあったクリームの類を全部頭に塗って、母を震撼させた。(なぜ頭)

当時父の若い頃にそっくりと言われ、かなりのボーイッシュだった私は、髪をロングにすることはおろか、スカートを履くことも許されず、ベリーショートに裸足で駆け回り、お子様ランチのおもちゃはいつも青いのが来ていた。

そんな反動で、大人になるにつれ、幼いころ禁じられていた「手でふぁさっとなびかせるロングヘア―」「8センチ以上のヒール」「バサバサまつげ」「真紅の唇」「指先を越す長い爪」といった類のものに、どんどん手を出していったやすこ。

そんなわたしを、天然の母は「やすこは、とっても美人なタイ人のニューハーフさんみたいね」と言った。
そこは「とっても美人なタイ人」まででよかったろうに。

お化粧の魔法にかけられて

しかしまぁ、何を言われようと、わたしはそれらの装具に絶大なパワーをもらっている。
朝が苦手なわたしは、毎朝渾身の力を振り絞って起き上がり、「絶対もうお仕事やめたい」と子供じみた愚図を言い、シャワーを浴びる。
(「やめる」ではなく「やめたい」という根性なし願望)

シャワーから出たころには幾分頭もすっきりして、いよいよ幼き日に憧れ倒したお化粧の時間。

ピンクの下地を塗り、コンシーラーでシミを隠し、溢しながらお粉をふり、アイシャドウを重ね、前髪で全隠れする眉マスカラとアイブロウを丁寧に施し、アイライナーをシュッと一筋、やや乱暴なビューラーで数本のまつ毛を失い、鼻の下伸ばしてマスカラを塗り、30超えて手放せなくなったハイライトを頬骨に乗せたら、そこにはもう、愚図を言っていたボロボロ低血圧根性なしアラサーの姿はない。
ここに、例のリップモンスターをひと塗りしたら、わたしの鎧は完成。

単純なもんで、上記工程のどこか一つでもしくじると、その日一日気分が冴えないし、どこか一つでも普段より上手くいくと、その日一日なんとなくご機嫌でいられる。

さらに言うと、セルフでやっているジェルネイルは、一日に何度「…かわいい」という自惚れによって、キーボードを打つ手を止めているだろうか。
いまは自分でミックスして作ったカラージェルを装着中。
「やすこちゃん、ネイル何色?かわいい」と不意に同僚に言われたことが、今月一番職場でテンション上がった出来事だ。

誰でも心にビビデバビデブーを

そこへきて最近思うのが「お化粧もネイルもしない殿方は、毎日どうやってテンションを上げているのかしら?」という疑問。

最近お化粧が好きな殿方も増えてきたが、やすこの職場にはまだいない。
わたしが毎朝、魔法をかけるみたいにお化粧という大工事をして、月1でネイルを替えて、日々の自信と、やる気と、ご機嫌を装備しているのと同じように、殿方にもそういう装備はあるのだろうか。

あったら是非聞いてみたいし、仮になかったら心底すごいって尊敬してしまう。
世知辛い世の中、丸腰で挑むには随分と厄介が多い気がするから。

どうか、殿方にも、お化粧をしない女性にも、そんな魔法があって、お仕事中にこっそり手を止めているのが、わたしだけじゃありませんように。
指先のネイルを眺めながら、そう願っている。


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