
新社長就任を経て新たなステージへ。創業60年の町工場が投資会社と挑む、金属加工業の”次の一手”

後継社長の不在と経営陣の高齢化をきっかけに、2023年3月にNYCへの事業承継をご決断いただいた株式会社ケミカルプリント(以下ケミカルプリント)は、2024年11月1日に後継社長として岡本新社長がご就任され、新たな門出を迎えられました。
創業60年、東京・青梅市に本社と工場を構えエッチング加工で高い評価を得ながらも、事業を次代へ引き継ぎさらなる事業成長を目指すには後継社長不在だけでなく老舗企業ならではの様々な経営課題もあったようです。
今回は髙橋会長(前社長)、岡本新社長、野上取締役のお三方とNYCヴァイスプレジデント梅本を交え、NYCへの事業承継から社内の変化、岡本新社長との出会いや後継社長ならではの採用の難しさなどをお聞きしました。
後継社長の不在や採用に悩む中小企業経営者の方々にもお役に立てる内容になっておりますので、ぜひご覧ください。

同社代表取締役 岡本氏
同社会長 髙橋氏
NYC株式会社 ヴァイスプレジデント 梅本
【お話を伺った方】
株式会社ケミカルプリント 会長 髙橋氏
同社 代表取締役 岡本氏
同社 取締役 野上氏
2024年11月1日をもって髙橋氏が同社社長から会長に、岡本氏が取締役から代表取締役に、野上氏が経理部部長から取締役にご就任されました。
【株式会社ケミカルプリント】
ステンレス、銅合金、アルミニウムなどの材料を薬品を使用してエッチング加工する専門企業。1965年の創立から一貫して高品質な製品の提供を行っており、業界内での評価も高い。2023年3月にNYCが全株式を取得。
https://www.chemical-print.co.jp/

後継社長不在を機に株式譲渡を決断。若い投資会社と共に、新たな風を取り込みたい
ーーまず、ケミカルプリントの事業内容とNYCへの事業承継を決断されたいきさつをお伺いできますでしょうか。

髙橋会長
ケミカルプリントは1965年に創業し、当初は印刷業を行っておりましたが10年程で業態を変え現在のエッチング加工を専門とした金属加工業を営んでおります。
エッチング加工とは、薬品による腐食作用を利用して金属を溶解加工する技術です。プレス打ち抜き加工では再現できない、バリ・歪みのないフラットで微細な製品を生み出す技術力を強みに、取引先からも高い評価を得ております。
私自身は1970年に入社し、現場での経験を積んだ後に2004年に代表取締役に就任いたしました。ただ、弊社の前会長も高齢で健康面の不安が増えてきたこと、後継社長が不在だったことから2023年3月にNYCへの事業承継を決断いたしました。
決め手になったのは中長期の保有によって現場に寄り添ったサポートをいただけることと、NYCの皆さんの若さですね。若くエネルギッシュな方々でITツールやトレンドにも明るく、社内に新しい風を取り入れることができると期待しました。


中小企業の後継社長採用ならではの難しさを、NYCの経営支援でスピーディーに解決
ーーNYCへの事業承継を経て、新たに岡本新社長がご就任されました。事業承継から岡本新社長との出会い、ご参画までの流れをお伺いできますでしょうか。
NYC 梅本
後継社長採用にあたって、まずは髙橋様、野上様、前会長を始めケミカルプリント社内でヒアリングを行い必要な要件を精査し、マッチする人材像をクリアにすることから始めました。そこから求人票を作成し、NYCのネットワークを通じて主にエグゼクティブ層に特化したエージェントの方々と共に採用業務を進めましたね。
採用業務を始めた当初の所感として、比較的多くの候補者の方にご関心をいただけたため一次面接はNYCで対応しました。そのため、ケミカルプリントの皆様にご対応いただく段階ではある程度絞り込みを行った上で、二次面接で社屋と工場にお越しいただき、工場見学などを行い技術面の判断を行っていただきました。
髙橋会長
私共としては技術屋であるという自負もありますので、当初は業界や技術に明るい方が望ましいと考えておりました。NYCへの事業承継以前に独自で後継者探しを行っていた時期もありましたが、なかなか良いご縁に恵まれなかったという経緯もあります。
ただ、それ以上に長年の課題として営業人材の不足があったため、NYCと採用を進める中で、将来を見据えて営業面に強みがある方に参画いただけたら事業がさらに大きく前進していくだろうという期待感もありましたね。
ーー「中小企業の後継社長」というポジションの採用を進める中で、求められる素養や一般的な社長採用との違いがあれば伺えますか。

NYC 梅本
組織規模が比較的小さく、人と人との距離が近い中小企業の後継社長というポジションはカルチャーフィットも非常に重要ですし、求められるコミュニケーションスタイルも得手不得手が分かれると思います。
一方で我々投資会社とのやり取りではロジカルさや、冷静な判断力が必要とされるため、現場とはまた違った素養を求められます。投資会社から求めるドライさと現場で求められるウェットさ、両軸が揃う人材はかなり希少です。リーダーシップや業界知見といった、いわゆるエグゼクティブクラスに求められることだけでは不十分なので、エージェントからも難しい採用活動になるだろうとは言われていましたね。
岡本社長
NYCとのウェブ面談の際は、投資会社の方々と話すのも初めてでメンバー皆さんもお若いですし、実際に働く現場の空気感が見えないことへ少し戸惑いもありました。ただ、皆さんと話を進める中で徐々に人柄や熱意も伝わったので、二次面接でケミカルプリントに訪問する際に不安感はなかったです。
元々金属材料に携わる仕事をしていたため、金属加工業に馴染みはありました。ケミカルプリントに訪問して会社の歴史を伺い、サンプルを見せていただきましたが、いざ現物を手に取ると目に見えないくらいの微細な加工とそれを可能にする高い技術力を実感し、感銘を受けました。
高い品質と技術力で勝負できる、安定的な取引先と良好な関係を築き続けられることもケミカルプリントの強みではありますが、さらに営業面を強化することでもっと事業を伸ばせる、大きな可能性を秘めている素晴らしい会社だと感じましたね。

岡本社長
それから、ケミカルプリントへ訪問した際に髙橋会長や野上取締役をはじめ、社員の方々と梅本さん、尾上さん(NYC副社長)とのやり取りも非常に和やかなムードだったのは意外でした。いつもこんな雰囲気ですか、見せかけじゃないんですか、とNYCメンバーに何度かお聞きした記憶がありますね(笑)。
これまでのイメージとして投資会社と投資先企業とは必ずしも良好な関係ばかりでないだろうと考えていましたが、お互いが誠意をもってやり取りをしていることも伝わりました。この温かみのある社風は髙橋会長を始めこれまでケミカルプリントとして築き上げてきた大切な資産です。私自身も後継社長としてしっかり引き継いでいきたいと強く思いましたね。
野上取締役
やはり長年の課題として新規の営業先が減っている、なかなか新しい取引先が増えていかないという悩みはあったので、営業面に強みのある岡本社長に来ていただけたのはありがたいです。気軽につっこみやすいお人柄も、申し分ないですね(笑)。
髙橋会長
金属加工業に知見があることももちろんですが、経歴をお伺いして様々な立場をご経験され、ご苦労もあったのだろうと感じました。2024年2月に取締役として参画いただきこの度代表取締役にご就任いただきましたが、この人なら事業を任せられるという安心感がありますね。
「NYCには安心感がある」後継社長と現場と共に会社をより良くするパートナー
ーー現場の立場から採用活動を振り返って、NYCと共に取り組んでよかったと感じられた部分はありますか。

野上取締役
もう、全部ですよね。梅本さんにお任せできて本当に助かりました。私自身はケミカルプリントで20年以上技術者として働いていたところから経理部に異動し現在に至ります。だからバックオフィス業務の知見が深いわけではなく、改善するにしても何を選んだらいいかわからないため、引き継いだやり方をそのまま踏襲するしかなかったです。
まずは採用業務にかける時間が少なくて済むこと、NYCのネットワークや知見を活かしてスピーディーに進めていただけるのはありがたいですね。経理業務についても前任者がそろばんで勘定していたくらいアナログな環境でしたが、DXを進めていただいたお陰で業務効率が格段に上がりました。
NYC 梅本
二次面接では髙橋会長と野上取締役にご同席いただきましたが、技術面の知見は私よりもお二人の方がよくご存じなので、候補者のスキルマッチという点で摺り合わせを行っていただきました。人柄やコミュニケーション面では私が気づかないような点もご指摘いただき、改めて実際にお会いいただき時間を取ることの重要性を感じましたね。
また、二次面接を経て最終選考として課題選考やリファレンスチェックも行いました。オファーを受諾いただいてから入社いただくまでの間には、業務引継ぎスケジュールの設計やNYCが行ってきた取り組みや経営課題の共有はもちろん、新年会にご参加いただくなどしてスムーズなオンボーディングに努めました。
NYCならではの取組みとして後継社長同士のつながりも大切にしています。経営者、後継社長は孤独を感じやすい立場ですが、NYCからのフォローだけでなく横の繋がりを持つことで悩みの共有やナレッジシェアに繋がると考えています。

ーーNYCへの事業承継から振り返って、ケミカルプリントの皆様それぞれの立場から、これまでの変化や印象に残ったことがあれば教えてください。
岡本社長
後継社長として経営層と従業員の間の調整役としての立ち回りだけでなく、さらに投資会社とのやり取りがあることに全く不安感がなかったわけではありません。ただ、私自身はNYCメンバーと話す機会も多かったこともありそれを苦に感じることはなかったですね。
印象的だったのは私が取締役として入社してから社屋のトイレを改修したいとNYCに提案させていただいた際、快く了承いただけたことです。改修費用もかかりますし利益に直結する取組みではありませんが、社員の働きやすさであったり、社内環境が改善されることはモチベーションにも繋がります。NYCは本当に投資先のことを親身になって考えてくれる、いい会社だと実感した出来事でした。
私もNYCとケミカルプリントと出会ったことや、NYCグループ企業間での繋がりも含めて人間関係が広がり、自分自身のキャリア観も大きく変わりました。まだまだ日本ではM&Aにネガティブなイメージが強いと感じますが、後継社長の立場としてもNYCには安心感をもっていただきたいということはぜひお伝えしたいですね。

野上取締役
NYCへの事業承継が社内で発表された時のことを思い返すと、やはり初めは不安の方が大きかったですね。髙橋会長からお話があり、NYCメンバーから挨拶がありましたが、その後「何か質問はありますか?」と聞かれても誰も何も答えず、シーンと場が静まり返ったというのは、今では社内の笑い話になっています(笑)。
そこから社内の組織体制を整備していただいたり、ITツールの導入や営業人材の採用など多岐にわたってご尽力いただいており、本当に社内が大きく変化しましたね。
髙橋会長
課題だった新規営業についても、私が自力で行っていた頃に比べると大きな変化を感じます。NYCとともにコーポレートサイトを一新したことで反応もガラッと変わりましたね。NYCへの事業承継から1年半以上が経ちますが、おかげ様でいい方向に向かっていると実感しています。

後継者問題を乗り越え、さらなるDX推進でグループ企業を含めた事業成長へ挑戦したい
ーー社長交代という新たな門出を迎えられ、ケミカルプリントで今取り組んでいらっしゃることや今後の展望を教えていただけますか。
岡本社長
やはり現場のDX推進、営業面の強化が大きなトピックですね。DXによって会社の状況がタイムリーに把握できるようになることで営業もスムーズになり、現状把握と先の見通しがしやすくなればより精度の高い計画を立てることができます。
中小企業ではどうしても個人の経験と感覚に頼ってしまうため、動きが鈍くなってしまったり属人化によって思わぬミスや差分が生まれてしまいます。数字を瞬時に見える化し、アクセスしやすい環境を整える、この両軸が揃うことで会社全体がスピード感をもって進むことができると考えています。
また、現在NYCグループ企業では4社が金属加工業です。金属加工業を支援するシナジー追求子会社であるNYC Metalを設立し、課題を横串で解決していこうという取り組みも進めています。ケミカルプリントでの取り組みを展開したり、グループ企業同士の繋がりを活かすことでどんどん成長を加速させていけるストーリーを作っていきたいですね。
ーー梅本さんはケミカルプリントを含め複数投資先の後継社長採用に携わられています。後継社長不在に悩む中小企業経営者の方々へ、どんなことを伝えたいですか。

NYC 梅本
中小企業の後継社長探しといえば、まずは社内からの登用を考えられる方が多いのではないでしょうか。ただ内部登用の難しさはそもそもオファーを引き受けようとする人が少なく、引継げたとしても経営と現場とで求められる素養や視座も異なります。周りの目線も変わることで社内での立ち回りが難しくなり頓挫してしまうなど思った以上に難易度が高いようです。
一方で、外部から採用するにはハローワークや大手求人サイトしか使ったことがないという企業も多いため思うような人材に出会えず、八方塞がりになってしまったという声が非常に多いです。
NYCグループ企業の多くは後継社長不在をきっかけに事業承継をご決断いただいておりますが、我々は「後継社長を連れてきたら終わり」というわけではありません。まずは丁寧なヒアリングを行い現場の方々にも納得していただける採用フローを組み、採用した後の伴走もしっかり行います。この人にこそ会社の未来を任せられるという方をお連れしますので、ぜひご相談いただきたいですね。
▼弊社youtubeでは就任式の様子をご覧いただけます
2024年11月1日にケミカルプリント社内で行われた、会長・社長・取締役就任式当日の様子をyoutubeでご覧いただけます。
▼NYCへの事業承継~1年間の歩みはこちらの記事もご覧ください
▼事業承継・後継社長採用のご相談はホームページよりお問い合わせください
※記載内容は2024年11月・取材当時のものです。
お問い合わせはこちらから https://nycinc.jp/contact/