「製造業の勝ち筋を作りたい」創業50年の金属加工会社が、新規設備導入で目指す未来
茨城県筑西市(ちくせいし)は市内に7つの工業団地が整備されており、製造品出荷額は5,000億円を超える、県西部の工業の中心地です。この地に本社を構える株式会社渡辺工業(以下渡辺工業)は、板金溶接・金属加工に高い技術力を持ち、今年で創業50周年を迎えます。
日本の産業の根幹を支える製造業ですが、人材不足と資材の高騰という大きな困難に直面しており、やむなく廃業する企業も少なくありません。渡辺工業も、後継社長の不在からNYCへの事業承継をご決断いただきました。
「とにかく、渡辺工業の品質や技術力はピカイチです。さらに機械化により業務効率を改善することで、周辺企業のロールモデルを目指したいですね」とNYCヴァイスプレジデント・吉田は語ります。
今回はNYCとともに取り組んだ新規設備導入のための補助金申請サポートの内容と、製造業の未来を見据えた成長戦略について、渡辺工業代表取締役・渡邊様にお話を伺いました。
技術を磨き続けて50年。後継者不在をきっかけに事業承継を決断
ーーまずは事業内容と、NYCへの事業承継に至った経緯を教えてください。
渡邊社長
弊社は精密板金領域でタレパン加工・レーザー加工・溶接による金属部品製造を行っております。50年前に私が小さいプレス機と溶接機を買って、ひとりで事業を始めました。手掛けているのは照明器具や建設機械、建築材料などが多いですね。
当初は精密板金の溶接を主にしておりましたが、溶接は製造された部材を繋ぎ合わせる最終工程になります。だからこそとにかく高品質で迅速に仕上げて欲しい、という依頼が多く寄せられていました。
そこでまずはベンダーという金属を曲げる機械を購入し、次はタレパンという金属の板を打ち抜いて加工する機械を揃え、少しずつ加工工程を拡大してまいりました。現在は図面展開からプランク加工、曲げ加工、溶接と資材を購入し製造から溶接まで一貫して対応しており、よりお客様の多様なニーズに応えることができるよう技術を磨き今日に至ります。
渡邊社長
事業承継を決断したきっかけは後継者の不在です。身内で後を継ぐものもおらず、年齢を重ね健康面の心配が増えてきました。急なことがあった場合に従業員や取引先、家族に大きな不安を残すことなってしまいます。
従業員への引継ぎを考えたこともありましたが、昨今の製造業の置かれている状況を考えると経営者としての負担はかなり大きいです。一年ほど様々な選択肢を模索しましたが、最終的に第三者への株式譲渡を決断しました。
NYCのみなさんはお会いした当初から、本当にどんな相談でも真剣に受け答えしていただき、若さはありがならも非常に頼れる存在だと感じました。NYCへの事業継承から一年経ちますが、後継社長を含めた人材採用から機材の購入、社内体制の整備まで、頼りにしています。
ーー吉田さんはこれまで一貫して渡辺工業のバリューアップに携わっていますが、第一印象はいかがでしたか?
NYC 吉田
私が最初に工場を見学させていただいた際、まずは工場内がとても綺麗で手入れが行き届いており、皆さん生き生き仕事されていらっしゃる様子が印象的でした。
また渡邊社長のお話を伺ううちに、溶接含めた品質の高さや強みが明確で、お客様の評価が高い理由も深く理解できました。社内の環境整備が細部まで徹底されてるのは、社員の方も含めた仕事に対する高いプロ意識の表れだと感じましたね。
差し迫る少子高齢化時代に向けて、補助金を利用した機械化で製造業の成長を後押ししたい
ーーNYCへ事業承継後、補助金申請に踏み切った背景を教えてください。
NYC 吉田
今回申請したのはものづくり補助金の省力化枠(オーダーメイド枠)と言って、中小企業や小規模事業者がサービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善により生産性向上を実現するための設備投資を支援する補助金です。
渡辺工業の高い品質は熟練工の方々に支えられていますが、これから新たな人材が入ったとしても彼らの域に到達するまでかなりの時間を要します。人材採用に取り組むだけでなく、限られた人手でこれからも事業を継続し発展させていくために、オーダーメイドの機材を導入し機械化できる部分は進めていこうと渡邊社長と話していました。
製造業においては、技能人材の不足と資材価格の高騰が大きな経営課題です。また茨城県は製造製品出荷額全国7位の工業県であり、中小規模の工場会社が地域経済の根幹を担っています。
渡辺工業でもすでに各工程で機械化が進んでいますが、日本全体で少子高齢化が進む中、さらなる機械化やDX化を進めることで、地域や製造業における勝ち筋を確立したいという想いもありました。
渡邊社長
実はNYCへの事業承継以前にも、渡辺工業として過去2回に渡って同様の補助金を申請したことがありました。しかし不採用となってしまい、さらに申請期間が短いなど申請そのものの難易度が高いことから、機械導入への想いはありながらも踏み切れなかった経緯もあります。
ーー「まさに短期決戦だった」と仰る補助金の申請は、どのように進められたのでしょうか?
NYC 吉田
渡邊社長も仰る通り本補助金の18次枠は申請期間が短く、公表から申請締め切りまで1か月程度しかありませんでした。また補助内容も年度により異なり、申請する部門によって評価方法や倍率も異なるため、支援業者の選定はやり取りのスムーズさやナレッジの深さが決め手になりました。
補助金の公表があってからNYCでいくつかの業者をピックアップし、面談を行い、比較検討の上で支援業者を決定しました。さらに私が支援業者と打ち合わせを重ね、渡辺工業でご用意いただく書類は適宜依頼し、協力して急ピッチで進めましたね。
事業計画書など我々で準備したものもありますが、渡辺工業の経理ご担当者様にも大変ご尽力いただき、必要情報の入力や資料集めを行いました。支援業者にアドバイスをもらいつつ、結果的には概ね3週間で申請することができました。
渡邊社長
特に今回弊社で申請したのは新設枠だったため、これまでのやり方が通用しない部分もあったと思います。過去の経験もあるため、申請して結果が出るまではソワソワしてましたよ。審査結果は郵送されるものもあったため、会社のポストを何度も見に行ったりしてましたね(笑)。
NYC 吉田
私はインターネットで審査結果を確認したのですが、もう見てすぐに渡邊社長に電話させていただきましたね(笑)。とはいえ審査を通過した後の手続きもあり、機械を購入した後も数年にわたって報告書類の作成が必要になります。関連業務は継続して発生するので、支援業者のサポートは受けながらも、NYCとしてもナレッジを積み重ねていくことがバリューアップに繋がると考えています。
NYCの投資先は、グループ12社のうち4社が金属加工業です。それぞれ得意とする技術は異なりますが、技術人材の不足・資材価格の高騰・新規取引先の開拓など共通する課題も多いため、ナレッジを共有しつつ、グループ企業同士でシナジーを高めていきたいですね。
事業承継から一年。グループ企業間のシナジーを追求する取組みで、業界と地域を活性化
ーーその他に、NYCへの事業承継後の取り組みなど教えてください。
渡邊社長
事業承継後の取り組みとしては、これまで曖昧だった組織体制を明確にしたり、工程管理や品質管理もきちんとシステムとして確立し直しました。元々現場の従業員たちが主体的に動いていてくれましたが、改めて体制を見直し明確にすることで今後の後継社長への引継ぎもスムーズになるだろうと感じています。
NYC 吉田
後継社長人材も含めた採用支援と、新規営業先の開拓は継続的に取り組んでいます。これまでは特急対応にも応じられることが渡辺工業の強みでありつつ、先の見通しを立てづらいという課題もありました。
現在はホームページの改修に向けて準備を進めていますが、NYCグループ企業の知見を活かした管理工程の見直しや営業力の強化などにも取り組む予定です。NYCでは中長期的な保有が前提なので、複数の施策を進めながら、長いスパンで成長を後押しできます。渡辺工業の強みである高い技術力を様々な形で知ってもらいながら、更なる事業成長を実現したいですね。
ーーNYCへの事業承継から約一年が経ちました。当時の心境や、今現在の状況を振り返ってどのようにお感じでしょうか?
渡邊社長
事業承継を決断するまでにはたくさんの不安もあり、とても悩みましたね。創業からこれまで真面目に技術を磨いてまいりましたが、これまで大切に育ててきた会社を譲渡するのは人生で初めての経験ですし、失敗があってはなりません。最終的には周囲の力添えもあり良い決断ができたと思います。
NYCの方々には、事業承継後の支援も本当によくやっていただいてます。やり取りをさせていただく中で、若いながらも数字に強い、経営のプロフェッショナルだということは強く感じます。後継社長採用も進めていますが、これからもこの地で事業を長く続け、大きくしていきたいですね。
NYC 吉田
渡邊社長のご心配もごもっともだと思います。中小企業経営者の高齢化が進み、事業承継問題が国としても大きく取りざたされている中で、何をどう選んだらいいか、どう会社を守って引き継いでいくかはみなさん苦慮されているところでしょう。
NYCはMicro - Small領域の中小企業投資という分野では先駆け的なポジションであり、業界においても多くの経験や実績があるので、まずは安心していただけると思います。
ただ、個人の見解として急いで判断することのメリットはあまり感じないので、じっくり納得のいくまでお考えいただきたいですね。(※Micro - Small領域の中小企業投資は年商1~50億円未満の中小企業を指します)
NYC 吉田
製造業は熟練工の高い技術に支えられている一方で、高齢化と人口減少により多くの技術や雇用が失われてしまう危機に瀕しています。今回の補助金による機械化もそのひとつですが、業務プロセスの変革やデジタル技術の活用は事業の存続と成長のために欠かせません。
また、このような課題認識を受け、NYCでは金属加工業を支援するシナジー追求子会社(NYC Metal)を設立し、グループ内の金属加工会社が抱える共通課題を横串で解決していく取り組みをスタートさせています。
これからも、自己資本投資だからこそ可能な仕掛けやバリューアップ活動を世の中に展開していくことで、一社でも多くの中小企業が持続可能なビジネスを構築できるよう私たちも手を尽くしていきます。
【筑西市へ企業版ふるさと納税の寄付をいたしました】
NYC株式会社として茨城県筑西市へ企業版ふるさと納税の寄付を行い、市ホームページにコメントを掲載いただきました。今後も投資先企業の事業成長のみならず、様々な形で地域経済へ貢献したいと考えております。
【事業承継のご相談はホームページよりお問い合わせください】
※記載内容は2024年10月・取材当時のものです。
お問い合わせはこちらから https://nycinc.jp/contact/