平均年齢50代から約半年で若手3名の採用を実現。下町の中小企業が挑んだ人材採用・育成の舞台裏
「若者が採用できない」「せっかく採用しても定着しない」多様な働き方が進む現代で、中小企業経営者の多くが人材課題に直面しています。特に人員の限られている中小企業では、普段の業務に加えて採用業務をこなすことに現場の負担も大きく、手を付けられないという声も聞かれました。
弊社投資先のテクノガード株式会社(以下テクノガード)も同様の課題を抱えていました。「一人前になるのに5年はかかる」と言われる熟練の技術職社員が同社の強みでありながら、社員の平均年齢は50代。当初は社内でも採用活動へ消極的な意見もあったそうです。
「どんなに無理だと言われる業界でも、必ず強みがあります。」そう言い切るNYCヴァイスプレジデント・梅本と、アソシエイト・加藤、テクノガード社代表取締役の若松様に、約半年間で20~40代前半の若手社員3名を採用した人材採用・育成の舞台裏をお伺いしました。
テクノガードの事業承継ストーリーも併せてご覧ください。
ハローワークだけでは勝てない。検証を重ねながら戦略を変え、若手3名の採用を実現
ーーまずはテクノガード株式会社の事業内容と、NYCへの事業承継に至った経緯を教えてください。
NYC 加藤
テクノガードは冷凍・冷蔵装置設置工事をはじめ、内装工事、建築付帯工事、修理・保守等を専門的に行っております。1995年に東京で創業し、スーパーマーケットの物件開発から店舗企画、物流センターなどの建築内装、冷凍・空調設備の設計・施工・メンテナンスなど冷凍冷蔵設備に関わる様々な事業を展開してまいりました。
24時間365日の迅速なメンテナンス対応や高い技術力を強みに発展してまいりましたが、二代目である山田社長(現:同社顧問)が後継者不在とご家庭の事情をきっかけにNYCによる事業承継をご決断されました。
NYC 梅本
なるべく早期の退任を希望されていたため、NYCが事業承継をした後は私が代表取締役に着任しました。現場社員の採用と並行して後継社長採用を進める中で若松様とのご縁があり、テクノガードへ取締役として参画いただきました。2024年9月からは代表取締役にご就任いただいき、現在は若松様を中心とした経営体制となっております。
ーー人材採用・育成における課題はNYCへの譲渡前から認識されていたようですが、自力での解決に至らなかったのはなぜでしょうか?
NYC 梅本
以前からハローワークや求人サイトへの求人掲載は継続的に行っていたようです。ただニッチな業界で経験者が少なく、また夜間の対応もあるため身体的にもハードな仕事内容で未経験者にはギャップが大きかったようです。
社員の平均年齢も50代になり人材課題への危機感はありつつも、打ち手がない。「採用は難しい、どうせうまくいかない」「きつい・大変な仕事は若い人に嫌煙されても仕方がない」と半ば諦めムードが漂っていたように感じました。
ーー社員採用について、梅本さんはどのように進められたのでしょうか?
NYC 梅本
まずは社員へのヒアリングから着手し、そもそもいつまでに・どの部署にどれぐらい人員が必要なのか、実際に人手不足でどういう問題が発生してるのかを把握することから始めました。
ヒアリングを進めていく中でわかったことは、人手不足といっても社内での認識にズレがあったことです。部署によっては「今すぐにでも人手が欲しい」と仰る方もいれば、過去に早期退職の事例もあったため、人材育成=コストという意識が根強く採用に消極的な方もいらっしゃいました。
テクノガードは社員数が20名以下と小規模な組織ですが、経営陣と従業員の情報共有、部署間・社員間の横の連携をする文化や仕組みがほとんどありませんでした。社員も現場に出向いていることが多いため自部署以外の状況が見えづらくなり、このようなバラつきが生まれてしまったのでしょう。
ーー人材課題をきっかけに、企業風土の課題が見えてきたのですね。
NYC 梅本
採用計画を立案し採用業務を担当するのは私ですが、実際に新入社員を教育し業務を共にするのは現場の役員や従業員の方々です。だからこそ採用計画についても皆さんにしっかり説明し、納得いただく必要があります。
コミュニケーションの活性化や情報共有というとツールを導入したり、会議体を見直せば解決されるように思われがちですが、私は信頼関係を築くための近道はないと考えています。そもそも社員の方々にとって事業承継は大きな不安を伴うものですし、年齢差がある我々とすぐに打ち解けることは難しいでしょう。
だからこそ、まずは粘り強く対話の機会を設けて意見を聞き出し、採用計画について説明しました。初めから計画のすべてを受け入れていただけたわけではなく、まずは一部署から認めていただき、徐々にポジションを増やして採用活動を進めてまいりました。
ーー採用業務はどのように進めていったのでしょうか?
NYC 梅本
まずは経験者へのアプローチをメインにコストの低い求人媒体への掲載から始めましたが、業務内容の難しさもありなかなか成果が出ませんでした。技術職向けの専門エージェントの利用も検討しましたが、希望人材のマッチングや費用の面から折り合いをつけることが難しいという結論に至りました。
そこで1~2か月で思い切って方針転換し、未経験者へのアプローチに乗り出しました。社内でもコミュニケーションを重ねる中で経験者へのこだわりよりも、テクノガードとしてこれまで培ってきたノウハウを引継いでくれる意欲がある未経験者を育てていくことへ賛同する声も集まっていたので、スムーズに切り替えることができたと感じています。
また、採用活動を始めた当初は春頃でしたが、冷凍・冷蔵設備業は夏に需要が増えるため、即戦力とならずとも早めに人材を確保する必要がありました。採用を加速すべくNYCのパートナー企業にもご協力いただき、求人票のブラッシュアップを行い採用チャネルを増やしていきました。
採用フローの設計も併せて行い、一次面接は私が担当し、その後は若松様と連携しながら進めました。40名弱の候補者が集まり、最終的に2~40代前半の若手社員3名の採用が決まりました。面接評価だけでなく、二次面接にて確認してほしいことや、アトラクトのためのポイントを伝達しあうことで短期間でのスムーズな採用活動を実現できたと感じています。
事業の安定性や若手への期待感がアピールポイントに。隠れた強みを採用・育成に活かす
ーー入社後のフォローアップはどのように取り組まれていらっしゃいますか?
若松社長
入社後は定期的な面談を行い、入社前後にどんなギャップがあったか、モチベーションの変化などをヒアリングしてフォローアップするようにしています。ただ、形から入るだけではなく日ごろから冷凍・冷蔵設備業界の置かれている状況を伝えたり、社歴が浅い新入社員だからこそ見えてくる社内の改善点を積極的に聞き出し、必要があれば反映します。
今のスピードで地球温暖化が進むと冷凍・冷蔵設備への需要はますます高まります。一方で業界全体の慢性的な人手不足や技術人材の高齢化も懸念されており、未経験者であってもやる気をもって技術を習得すれば、手に職をつけて安定的に長く働くことができます。
真夏に屋外で作業することも多く、決して楽な仕事ではないことは面接の段階から隠さず伝えていました。しかし、この業界ならではの将来性や安定性、若手人材への期待感は入社後のモチベーションになり、採用活動においてもアピールポイントになると感じています。どうしても社内では仕事の大変さにフォーカスしがちですが、見方を変えれば強みはたくさん隠れているんです。
若松社長
また、人事制度や社内環境の改善にも積極的に取り組んでいます。例えば評価制度を明確化して社員に開示したり、資格を取得した際の報奨金制度を創設したりといった取り組みをしていますが、このような改善はなかなか従業員側から声を上げることは難しいでしょう。
社内環境も明るく清潔感を保つことができるよう、社員の要望を取り入れながら手を加え始めました。業務の生産性も上がりますし、新入社員や求職者が会社を訪れた際に自信をもって紹介できるオフィスであれば、「古い・暗い・雑然としている」と言われがちな建設・建築業界全体へのイメージアップにもつながります。ゆくゆくはリファラル採用にも有効になるのではないでしょうか。
梅本さんも仰るように、私も対話を重ねて社員の声なき声を拾い上げることから始めました。まずは一人ひとりの社員に向き合い、地道に誠意をもって信頼関係を築いていくしかありません。
多様な知見を活かして企業風土を変え、より良い未来を描いていく、後継社長の役割
ーー若松様が後継社長として事業や社員の方々に実直に向き合ってきたことで、徐々に社内が変化してきた様子が伝わります。会社を託された後継社長の役割を、どのようにお考えでしょうか?
若松社長
とにかく社員の方々は、事業承継に大きな不安を抱えていらっしゃることを念頭に置かなければなりません。ネガティブなイメージは必ず付いて回りますし、伝え方や受け取られ方には気を配るようにしています。
まず心情を理解した上で、事業承継は会社にとっても従業員にとってもポジティブな選択肢であることを何度も伝えました。お互いが幸せになるためのステップアップであり、私は後継社長として、NYCとともに未来をもっと良いものに変えていく責任を担っています。
我々が果たすべき責任という点において後継社長がぶれることはあってはならないですし、初めに我々の覚悟をしっかり伝え、会社が向かうべき未来を示す必要があります。テクノガードは社歴の長い社員が多く、仕事の大変さを理解している一方でやりがいや技術への誇りをもって働いている方がたくさんいらっしゃいます。その想いを汲み取り次代に繋ぐことで、更なる発展を実現したいですね。
ーー人手不足への課題感はありつつも、育成に時間のかかる技術職では、現場社員の負担を考え採用に消極的になってしまうという声も聞かれます。テクノガードでは3名の新入社員を迎え、どのように人材育成に取り組んでいらっしゃいますか?
NYC 加藤
研修体制についても大きく変化しましたね。以前は役員が担っていたところから現場社員にも加わってもらうようにしたところ、研修以外でも日常的に社員同士の連携も増えて社内の雰囲気も大きく変わりました。
元々技術力への強みもあり、より良いものを作っていこうという想いは社員の中にあったようです。ただ、これまではその想いに耳を傾ける機会や仕組みがなかったので、どうしてもドライな企業風土になってしまったのかもしれません。
若松社長
私が声をかけなくても、社員が自主的に新入社員を迎える準備を始めて備品を整えたり、わからないことがあっても社員同士で教えあって技術を高めていく姿が見受けられるようになりましたね。
体力的にも大変な仕事ながら、年齢を重ねても長く働き続けていただける社員の方が多いということは、やはり仕事のやりがいや熱意があるということです。少しずつ関係を築き上げ、社内の雰囲気が変わったことで、各人の想いが表立って行動に現れるようになりました。
今、事務所で社内を見渡すと、本当に社員の笑顔が増えたと感じています。今夏は業務量も多く非常に大変だったと思いますが、社員のみなさんが生き生きとしていて表情が明るい。会議や面談をセッティングしなくても「ここはこうした方がいいのでは」「あれってどうなってますか」と声をかけてくれるので、少しずつ風通しのいい会社に変わってきたことを実感しています。
現場を取り残すことなく、泥臭く事業成長にコミットする。投資会社は共に歩むパートナー
ーー今回は人材採用・育成という中小企業の多くが抱える課題についてテクノガードの取り組みを伺いました。同じように危機感を持つ中小企業経営者の方々へ、伝えたいことはありますか?
若松社長
後継社長として私が関わる中で、NYCは一般的なファンドやVCのように表面的な数字報告だけで良し悪しを判断したりせず、現場と同じ目線で考え共に成長の道筋を描いてくれます。共に成長を実現するパートナーであり、とても心強く感じますね。
現場を巻き込む実行力と泥臭さ、中小企業の事業承継への強い情熱を持っていらっしゃることを後継社長の立場からも日々感じますので、安心感を持っていただけると思います。
NYC 梅本
人手に限りがある中小企業では経営者ご本人はもちろん、社員の高年齢化も進む中で、人材採用・育成に課題感はありつつ打ち手がないと諦め廃業してしまうケースも多いです。また国内の中小企業比率は99.7%と言われており、築き上げてきた技術や雇用が失われてしまうことに強い危機感を抱いています。
ただ、どんなに無理だと思われる業界でも必ず強みはありますし、私たちが課題解決の糸口を見つけます。NYCは中小企業経営のプロフェッショナルが揃っており、社外のパートナー企業や専門家を巻き込んだフォローアップも必要に応じて行います。諦める前にぜひ相談いただきたいですね。
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※記載内容は2024年10月・取材当時のものです。
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