ものつくる病

にゃにゃんです。今回は疲れ切った頭で書き上げた架空の短い物語です。現代の社会とは一切関係がありません。架空の未来の、病に侵された一人の人間による戯言です。

人間というものは実に不格好だと思う。細い腕に細い脚で二足歩行。そのわりに巨大な頭と無駄に器用に動く指先。人間はおそらく、大量に生まれたこのような貧弱な体を持つ生物の中で唯一生き残った選りすぐりなのだろう。あえて「進化」などとは言わない。だって、どう考えてもこの貧弱な体は退化だと思うから。貧弱な体を持ちつつも生き残れたのは、不運にも、突然変異で強靭な肉体を手に入れた種ではなく、不格好に頭を肥大化させた種だったらしい。その末裔が、ここに座ってどうしようもなく病に侵されている私だ。

昔、人類は豊かだったらしい。技術が高度に発展し、地球は全て「繋がっていた」らしい。人口も現在とは比べものにならないほど存在したらしく、したがって、ものつくる人もその人口に比例して多くいたらしい。

実を言えば、当時のことはあまりよくわかっていない。それよりも前の時代であれば、石板やらの保存性の良い媒体に記された資料がちらほらと見つかるのだが、人類の一番豊かだった時代はどうやら保存性の非常に悪い、雑な管理をすれば10年やそこらで朽ちてしまうような、そんな貧弱な媒体に大事な情報を記していたらしい。こんなに大きな頭を持ちながらどうしてこうなったのだろう。甚だ疑問だ。

あんなに栄えていたと伝えられている文明は、あの一件で見るも無惨に消え去ったと言う。あの一件、と書いたのは、その詳細さえもよくわかっていないから。でも、現代の人ならこれで十分通じるだろう。脆弱な記憶媒体に大事な情報を記録しておくような杜撰な管理をされた技術はたちまち消滅し、人口も大きく減ったという。

人類は、それまでは微々たる減少はたまにあるものの、長期的には人口を増やしていたらしい。そしておそらく、人口の減少など起こり得ないと思っていた、いや、もはや想定さえしていなかったのだろう。だからあの一件以来は皆、ひもじい日々だったと伝わる。

ほどなくしてある人間が、「北を掘れ、そこに宝がある。」と言い残して死んだ。この人間はやけにボサボサの髪にみすぼらしい服を着ていて、石を削ることを好んでいたらしい。この人間には家族がいなかったが、一人だけ互いをよく信頼する友人がいた。この友人は遺言通りに死んだ人間の家の北を遠く進んだ場所を掘った。いや、正確にはなにやらよくわからない、昔の技術を使って探し当てた。

実を言えば私は昔の人類を軽蔑している。こんなに大きな頭を持っておきながら、詰めが甘い。だから私が今こんな生活をしている。でも、人類にとって良かったことなのだろうか、昔の技術の一部が幸いにも状態良く保存されていた。名も知らない死んだ人間によって。

ものつくる病。現代の人間は一人残らずこの病に冒されている。なにやらよく知らない、というか、知らされていないが、その掘り当てた技術というもので人類は人類を病に仕立て上げたらしい。そしてその子孫も漏れなく生まれつき病に冒されている。結局、今となっては全人類がものつくる病というわけだ。当初はそれが良いこととされたらしい。いや、今も。一部を除いては。もしかしたら当初も反対する人間は存在したのだろうか。記録に残っていないだけで。まあそんなことは些細な問題で、とにかく昔も今も、多数の意見はその病に肯定的だ。

失われた技術を取り戻し、豊かな社会を復活させよう。それがこの病の大義名分。それはある意味、正しいと思う。懐古と希求、当然の欲求だと思う。そして、このスローガンは決して「そして幸福になろう」などとは言っていない。だからその時もその後も、決してこのスローガンから逸れたことはされていない。だから、私はこのスローガンを考えた人間、遺言をもとに技術を掘り当てたあの人間、なぜだか名前が出てこないがあの人間、が好きだ。相当聡明だと思う。そして、だからこそこの未来を予測していたのだと思う。だから少し嫌いだ。

何はともあれ、人類はあの一件の前には到底及ばないが、ある程度の豊かさを手に入れた。ものつくる病は、人類全員を技術者に仕立て上げ、人口の少なさを念頭に置けば相当短い時間で技術を発展させた。

しかし結局、無味乾燥な、人間は誰もが疲弊しきった社会が完成しつつある。そしてすでに私の病は私に鉄を叩けと言って頭をガンガン叩いている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?