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鯨の竜田揚げ

最近、魚屋さんに鯨の肉が並ぶようになりましたね。日本がIWCから脱退して、捕鯨活動をはじめたからでしょうか。

以前は調査目的の捕鯨だったので、あまり魚屋さんに並ばなかったように思います。若い方は、この鯨の値段をみて高級品と思われるかもしれませんが、私の子供の頃は、鯨の肉は安価で癖のない食材として、よく学校給食に使われていました。鯨の竜田揚げ、懐かしいと思われる方も多いのではないでしょうか?

マグロの尾の身などは、筋っぽくて、とても生では食べられませんが、加熱すると、筋が感じられなくなり、食べやすくなります。近所の魚屋さんは、雨続で魚の入荷が少ないとき、冷凍の尾の身やかまを並べていますね。鯨はあの体形ですから、尾もあまり筋っぽくはないのではないでしょうか。給食で出てくる竜田揚げも、かなり安い仕入れ値だと思うのですが、しっかり味がついて、肉は噛み応えもあるけれど固すぎず、おいしいものでした。

昔、母の実家のあたりに鯨の行商に来るSさんという方がいました。リヤカーに木箱を積んで、氷と鯨を入れて販売していたのです。Sさんは、鯨の目利きで、母は必ずSさんから買うことにしていました。確かに、Sさんの売ってくれる鯨と、町のスーパーや魚屋に並んでいる鯨はつやも色も違いました。味も絶対はずれません。

ただ、ひとつ問題があったのです。あまり商売っ氣のないSさんは、よく、リヤカーだけを置いて、どこかの家に呼ばれてお茶を飲んでいて不在だったのです。「あの人年金暮らしだから、働かなくてもいいんだけど、ああやってお茶に呼ばれて嫁の悪口言うのが、息抜きなんだよね。」と、母が言いながら、他の買い物を先に済ませ、主のいないリヤカーの前を何度も通ったのを覚えています。客も商売人もおおらかだった時代です。

今もショーケースに並んだ鯨の肉を見ると、当時の事を思い出します。柄物の割烹着を着て、日焼けした、しわの多い手をしたSさんの事を。


心に残り、記憶を呼び覚ます食べ物。映画や小説の食べ物を扱って、you tube で「物語メシ食堂」というのを配信しています。お時間ありましたら、ご覧くださいね。



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