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エッセイ:眠剤ODで生まれたもう一人の自分によるツイッターファイト・クラブ

 眠剤を飲むことで意識が曖昧になり、大胆な行動をおこなったり、その際に記憶が完全にとぶ健忘現象がおきます。

 普段ではとらない行動が行われる上に、そのときの記憶がまったくない訳ですから、これはもうひとりの内なる自分が目覚めている状態に近いと思っております。初期の遊戯王やファイト・クラブを連想する話ですね。
 もし、未視聴の方がいるのであれば、僕の駄文なんか読む前にご視聴どうぞ。紛うことなき名作です。

 僕は一時期、この「もうひとりの自分」を上手く使いこなせないか必死に考えておりました。

 寝る前にいつも通販サイトで輸入した睡眠薬を多めに服用し、だんだんと視界と自我が曖昧に融けはじめるころ、もうひとりの自分が動き出し行動を始めます。
 自意識の枷が繋ぎ止めている普段の状態から解き放たれた彼をコントロールするのは至難の業です。
 彼は急にその場で踊りだしたり、突然知り合いに怪文書や通話での連絡を送ったりなど、想像もつかない迷惑行為をおこないます。僕はそれで人間関係を壊したことが数度あります。死ぬほど謝りましたが、夜になるとまた彼が暴れて更に迷惑をかけることもしばしば。

 始めは本当に眠るためでした。
 一錠なんかでは眠気がこなった自分は、眠剤の量を増やす→そのせいで曖昧かつ不安が消えた状態になって更に飲みだすをループし、メンヘラよろしくODで脳味噌と健康、人間関係をぶち壊し続ける日々。しかし、どうにもできない。
 仕方ないので、彼と対話する方向性を思案してみました。別人のような暴れん坊とは言え、同一の脳を共有する存在。話してお互いに利がある状況を作れたら、それこそファイト・クラブのような状況が形成できるのかも知れません。

 眠りにつく寸前、僕は必死にメモと書きかけのツイートを残します。こうすることで、この2つの文章を見た自分が、曖昧とはいえ状況を理解するかもと考えたのです。
 もうひとりの自分は、「できる限り考えや状況をメモしてくれ」と書かれた正気の自分からのメッセージと、書きかけのどうでもいいツイートを見て、自分がどうするべきか判断します。
 まずは意識を全てスマホとTwitterに持っていくことに成功しました。これでシェアハウス内で暴れたり、LINEで他人に電波なメッセージを送るリスクは大幅に減少。

 始めは言葉になっていない意味不明なツイート群が生まれました。「あshぢおあhどあd」のような無意味な文字列のこともあれば、「たすけてたあたまがふやけて焼ける」といった末期の鉄雄のような怪メッセージを残したりを繰り返し、フォロワーたちから「またやってるな」と呆れられます。
 数万人のフォロワーが居るアカウントでやることじゃないですが、僕のようなアスペにサブ垢は難しいので、なんでも本垢一つでやってしまうのです。夜な夜なラリった人間観察ショーが僕のアカウントで行われました。

 何日か続けてみたところ、「あたまがとにかく冷たい」「みんなと仲良くしたい」「くるしい」など、とりあえず言葉にはなるようになってきました。彼の精神年齢は幼く、とにかく他人とコミュニケーションすることで自我を獲得したいように思えます。
 恐らく僕が耐性がついただけかもですが、段々とコントロールは可能になっていき、それなりに日常の自分に近い自我まで登りつめた彼は、深夜に他人からDMを募集し、ちょっとしたコミュニケーションを行うようになりました。
 「最近辛いです」というDMに「そうなんだ」や「大変だね」と一言だけ返す微笑ましい彼。たまに知らない人と通話や遊びの約束を入れていたりして困ったものでしたが、それが良い方向に進んだりすることもあって人生はわからないなぁと。

 彼のツイートはどんどん長くなり、狂人のフリをしてウケを狙うようになりました。いや、すでに記憶がなく制御が効かない状態なので本物の狂人なのですが。

 午前5時にこのようなツイートを長文で投稿する……。シラフでは中々できない行為です。起きたらこのようなツイートや、なにか作品に対する愛を語っているパターンもあり、とにかくそれが伸びて勝手にフォロワーが増えることもありました。

 勝手に知名度をあげたり記事を書いたりしてくれるのですから、これは共存関係ができてきたんじゃないかと油断していたころ、彼はどんどんポエミーになっていきます。
 彼は深夜にポエムや歌詞ツイートを乱発し、僕のアカウントを痛めつけました。さらにはメモで「あの頃の気持ちを思い出せ」「文章に思考をすべてぶつけろ」と謎の命令を僕に残します。自我の反乱です。
 これだけではどうしようもないと気づいた彼は、勝手にエッセイのプロットを書いてくれたりもするようになりました。とにかく感情や思考を全世界に発信して欲しい、自分の中に生まれたもうひとりの人格を認めて欲しいような気持ちなのでしょうか。

 それに従いnoteに記事を書いたこともありました。執筆の際にも眠剤を飲んで更に自我を加速させたことも。自分でも気づかない内なる思いに気付かされて面白かったです。
 が、彼の消滅のときがきました。ウィルス関連で海外から睡眠薬を取り寄せるのが難しくなったことと、身分証を手に入れ正規の手段でまともな睡眠薬を処方されたので、自我が融けていく機会が非常に減りました。
 今年に入ってからは数回しか彼は現れておらず、結果的にお別れです。共存より自分の感情を世に示すことを選んだ彼が残した最後のプロットが、こうして眠剤とともに過ごした日々をnoteに書くことでした。

 この記事をもって、自分はまた一つ健常な道を歩んでいくこととなります。



 以下、実際にラリった際のツイートの実例や解説を。

 お気に入り。素直になった自分はこんな少年らしいツイートをすることもある。

 眠剤で思い出語りをしていたらハッと気付かされる例。この日は続いてデスノートについて熱く語っていたのですが、よく読むと若干文章が成り立ってなかったりします。

 人はときにミュージシャンになったりもする。シェアハウスだったので、そのテンションで寝ている他人の部屋に突撃したりして、こっぴどく叱られたりもする。

 ちょっと文章ができるようになってきた時かな。統失寄りになっていますね。大変だ。

 シンプルでいいですね。眠る直前になるとこれくらいシンプルになります。この時間に眠りについたっていうのがわかりやすくて助かる。

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 ちなみに、これは最近友人が眠剤でラリって長文を書き出したので、なんだこれはと覗いてみたら本当にしょうもなくてびっくりした写真です。スマホ直撮り、そうそう行うことじゃない。






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