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一口エッセイ:ガラヤカとヒステリック教師とプラモ屋さん

 高校の頃の教師は、絵に描いたようなヒステリックな女性で、僕らのような成績不良で進路の希望すらない生徒をよく罵ったり、そのうえで反論されたら泣いて職員室に籠り、誰かが呼びに行かねば永久に待機させる人であった。端的に言えば、教師の中でも嫌いな方でした。
 話は変わり、その頃の僕はバーチャロンのプラモ『ガラヤカ』が予約したくてしかたなかった。ガラヤカとは、この子です。


 おんぷちゃんを思わせる小柄な魔法少女のフォルムに萌え萌えで、もちろん原作でも好んで使用していたから、今回のプラモは絶対逃さないと息巻いていたのです。

 そんな時、「ヤンキーの友達のオタクのお兄ちゃん」から、国際通りに小さなプラモデル屋ができたことを教えてもらったのです。ヤンキーの友達は自分の兄がオタクであることを恥じていて、彼の家にスマブラDXを遊びに行った際、コントローラーに『ちょびっツ』のシールが貼ってあったことを同級生たちに笑われ、そんなシールを貼る兄のことを心から恨んでいた。彼には申し訳ないけれど、その事件は本当に面白かった。
 というわけで、国際通りの呑気な観光客たちを掻き分け、ボロっちいビルを登り、プラモ屋へ着く。沖縄には、ごく稀にオタクショップの個人店がオープンするものの、琉球の地で小さなオタクショップが生き残ることはほぼ無い。たいてい1.2年で消えていく。恐らく、ここも。
 店主らしきおっちゃんにガラヤカを予約したいことを伝えると、高校生がバーチャロンのプラモを予約してきたことにビックリして、雑談が始まりました。「ガラヤカの武装を再現するため虹色のシールも欲しいんです」と言うと、めちゃくちゃ喜んでいたことを覚えている。
 話が続くうちに、店主は僕の制服に気づき、「キミは工業高校か!」と驚いた。その瞬間、クロマティ高校の林田が、感動のシーンなのに制服で所属校がバレて死にかけの老人から「あのバカ高校!?」と指摘され恥ずかしがるシーンを連想して身構えたのですが、なんと話は「俺の奥さんがそこの教師なんだよね」と続く。こういう時の直感は当たる。そう、どう考えても奥さんは僕の担任女性の話だったのだ!
 数日後。あまり好きでない先生だったが、沖縄でプラモ屋を開業するロックなオタクの夫がいるのは良いな……と見直したので、相変わらずテストが赤点なのを注意された際に、「先生の夫さんに会いましたよ」と初めて世間話を振ってみたのです。
 が、先生はめちゃくちゃ怯えて震え出し、「夫とわたしは関係ないでしょう!」とヒステリックになった。意味が不明すぎて怖くて黙るしかなく、夫の口ぶりからしても夫婦仲が悪いわけではない。恐らく、生徒に夫という自我の部分や素性を見られたらことがショックだったのかと思う。ヤンキーが自分の兄をオタクだとバレたくないのと同じ。
 数週間後。注文したガラヤカを取りに行ったけれど、あの体験が怖くてスッと受け取って帰った。たぶん、店主は若きプラモデラーとロボットトークで盛り上がりたかっただろうけれども。教師から教わったことは殆ど無いつもりですが、「家庭の事情はよほどじゃないと踏み込んでいけない」ことだけは、実体験として強く刻み込まれた事件でした。


 

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