地域文化を"つなぐ"、地域文化商社

お久しぶりです、タカハシジュリです。
おなじみCL特論シリーズです。

今回登壇してくださったのは、うなぎの寝床代表 白水高広さん。

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うなぎの寝床とは

 まず、ざっくりと概要(?)について触れさせていただきます。

うなぎの寝床とは、
土地性を紐解き流通を担い、交流を生み、風景をつなぐため、
「もの」と「ひと」を介した本質的な地域文化(※1)の継承と収束、そのあり方を思考し、行動し続ける生態系をつくる
ことを理念としている
『地域文化商社(※2)』と紹介されています。

※1 白水さんによる「地域文化」の定義:
ある一定地域における、土地と人、人と人が関わりあい生まれる現象の総体
※2 地域文化商社:
既存の地域の商業機能を担う「地域商社」という形態ではなく、その地域の歴史や土地性を踏まえて、全体感を持ちながら文化と風景をつなぐ循環を生み出す形態。

【地域文化商社として5つ実行項目】
 1 地域文化の探究・研究
 2 地域文化の経済循環
 3 地域文化支援顧客の創造
 4 地域文化のアーカイブ
 5 地域文化の交易の促進

【3つの地域文化商社】
白水さんは「うなぎの寝床」を含めて地域文化商社を3つ運営されています。
 ①うなぎの寝床:「モノ」の流通
 ②UNA Lab:「体験」の提供
 ③サイセーズ:「循環」の創出

【理念実現のためのプロセス】
 まず歴史・土地性を紐解き、地域文化を担っている方々と対話し、もの(商品)が生まれる背景にある物語を掘り下げる。(地域文化リサーチ)
 次に問屋として小売店へ商品を流通させたり、生活者に直接商品を届けるオンラインショップ・リアル店舗の運営を行う。(生活や生業を持続させる)
 最後に、従来の商社は商品を届けるだけだったが、地域文化をつなぐために、生活者や外の人間に地域に来てもらい、文化や人に触れて体感・交流してもらうツーリズムを行う。


 ...ここまで読んでいただいても分かるかもしれませんが、白水さんは一つの理念のもとではあっても、実に多岐にわたって活動されています。
しかしその始まりは「地域で作ったものを地域で買える場所をつくる」という理念のもと生まれた「うなぎの寝床」だったそうです。


【うなぎの寝床の役割】
 地域で作ったものを地域で買える仕組みの肝は、「つくり手」と「売り場」の距離が近く、それが間接的に「つくり手」と「使い手」を近づけることになる安心感だと思います。

 つくり手はうなぎの寝床に商品を卸す際、売り手と実際に対話することができ、材料や工程をきちんと理解してもらった上で販売してもらえるという安心感を得られます。そして流通コストもかかりません。
使い手もうなぎの寝床を通してつくり手の思いや作業について理解し、ものとの付き合い方を教わることができます。
さらに、使い手とうなぎの寝床、うなぎの寝床とつくり手の距離が近いことで、うなぎの寝床はつくり手に消費者のフィードバックを提供することができ、つくり手も商品の見直しを行うことができます。


 巨大市場の流通の仕組みは確かに見事なものですが、それではやはり生産者と消費者の距離はなかなか縮まらず、「人の想い」や「文化的側面」などの情報はどうしてもぼやけてしまい、棚の上で様々な個性を持ったものが一様に、画一的に扱われてしまうっているような状態になってしまっています。(もちろんその無名性が良い時もあるのですが)

白水さんはうなぎの寝床のHPにて以下のように想いを述べられています。
「文明から取り残された地域資源と文化はどんどん消滅しています。地域の方々や産業、物と出会った時に「面白い!」と思えるものや「素晴らしい!」と感じることはたくさんあります。しかし、その情報や体感は潜在化しており、誰にも知られないまま「いいのにねぇ。」で終わってしまっていることが多くあります。私たちは、その潜在化した地域文化を、みなさんに知ってもらうために顕在化させることが大きな仕事だと考えています。」(HPより引用)


【ローカルではなくネイティブ】
 白水さんは講義の中で「ローカルではなくネイティブなんだ」という風なお話をされていました。
ローカルというのはあくまで「都市に対する地方」という意味ですが、大切なのはより解像度を上げて捉えた「ネイティブ」(その土地らしさ)。そして、白水さんは土地の歴史を重んじ未来につなぐ意識を持った人々の営む景色「ネイティブスケープ」という概念を大切にされているそうです。
そのために、経済ファーストの考え方ではなく、文化ファースト(文化→経済)の考え方で様々なプロジェクトを運営されています。

なので、うなぎの寝床で扱うものの選定基準も
 ①土地特性を伝える
 ②つくり手の現状と特徴を伝える
 ③地域経済を担保とすることができる
といったものがあります。



地域文化商社としてのポジション

 今回の講義では本当に多くのお話を伺ったので、ここだけをピックアップするのは些か恐縮な気さえしてしまうのですが、一番印象に残ったお話を紹介させていただきます。それが「ポジション」のお話でした。

 白水さんは、地域文化商社として会社のポジションは決めていないといったお話をされていました。
今世の中にある文化に関わる組織や場(美術館やNPO、行政や商社)には、「経済意識」に偏っているものだったり「文化意識」に偏っているものだったりがありますが、うなぎの寝床は特にココ!というポジションは設定せず、そうすることで様々な意識のプレイヤーを繋いだり、それぞれがやれていない領域を事業化したりでき、地域文化を経済的にも文化的にも高いレベルにもっていくことができるのだとか。

うなぎの寝床が始まってすぐの頃からそのような意識や展望があったのかはわかりませんが、一つのビジョンに向けて立ち位置をこうも定めないというのは、意外と難しいのではないかと思ったのです。文化意識と経済意識はどこか相反するようなところがあると思いますし、だからこそどちらかに偏りやすく、例えば私自身が地域文化をつなぐ事業を考えようとしても文化意識と経済意識のどちらを優先するかという割合に非常に悩むと思います。きっとそこを柔軟に行き来するには様々なスケールで視点を行ったり来たりする必要があると思いますし、つまり器用さと柔軟さが必要で、白水さんはそれを悠々とされている印象があったので、さらに驚きました。
もしかすると最初に着手したうなぎの寝床という場が良い出発点になったのかもしれませんね。ともあれ私は白水さんの事業の広げ方のあまりの美しさに圧倒され、今後私自身が研究なり事業なり(?)としていく中で、この柔軟さはぜひ頭の片隅に置かせていただきたいと思ったのでした。





開講日:2020年7月20日
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース
クリエイティブリーダシップ特論 第10回 白水高広 さん(うなぎの寝床代表)


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