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『散歩する侵略者』と『予兆 散歩する侵略者 劇場版』

 主人公の長澤まさみの夫、松田龍平が数日間、行方不明になっていたんですが、戻って来ると、どうも様子がおかしい訳です。

 若年性アルツハイマー?健忘症?の類いと医者から診断され、妻である長澤まさみは、デザイナーの仕事をしながら夫の世話をするのですが、彼女が目を離した隙に、松田龍平は散歩に出かけてしまいます。

 散歩の途中、家の庭で洗濯物を干している青年、満島真之介と出会います。この青年は所謂引きこもりなのですが、彼の家に松田龍平は勝手に上がりこもうとします。引きこもりの青年はそれを止めます。松田龍平は「なんで?」と聞くので青年は「僕の家だからだよ。正確には親父の家だけど。」と答えます。「家って何?それを頭の中にイメージしてみて。」画面には怪しいレンズフレアが映りこみます。「それ、もらうよ。」松田龍平は青年のおでこに人差し指をトンっと当てます。

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 すると青年の片方の目から一筋の涙が流れ、バタッと倒れます。青年から「家」という概念がすっぽり抜け落ち、何処となく憑物が落ちた様な表情に変化しました。そして彼は引きこもりから一変、世界平和を訴える活動家に転身するのです。

 何じゃそりゃ?な展開ですが、実は松田龍平は宇宙人に体を乗っ取られていて、地球を侵略する前の調査として人類の頭から様々な概念を奪っているのです。

 侵略者に概念を奪われるというのは、一見怖い事の様に思いますが、『散歩する侵略者』で概念を奪われた人々は、見方によっては幸福そうにも見えます。それが逆に怖いのですが...。

 劇団「イキウメ」の舞台を世界の黒沢清監督が映画化した本作は原作があるにも関わらず、いかにも黒沢清的モチーフの作品だなあと思いました。

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 黒沢清監督の代表作に『CURE』という作品があります。猟奇的な殺人事件が連続するのですが、犯人はそれぞれ違う人物にも関わらず、死体の首の部分に×マークを刻むという共通点があります。実は謎の伝道師が犯人に催眠術をかけていた事が原因だったのですが、この伝道師の行為は本作のタイトルにあるように『CURE』=『治療』である事を意味しています。つまり伝道師は社会のストレスから人々を解放して回っている訳です。

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 このプロットは『散歩する侵略者』と非常に似ています。価値観が逆転する所も。

 本作のスピンオフでWOWOWのミニドラマシリーズを劇場公開用に再編集した、『予兆 散歩する侵略者 劇場版』も観たのですが、こちらも面白かったです。

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 実は『予兆 散歩する侵略者 劇場版』の方がいつもの黒沢清作品っぽさが濃厚でして、『散歩する侵略者』がコメディ的だったのとは対照的に、こちらは結構ストレートなホラー作品になっています。

 『予兆 散歩する侵略者 劇場版』の脚本を担当したのが『リング』の脚本家で、最近ではNetflixのオリジナルドラマ『呪怨 呪いの家』の脚本を手掛けた高橋洋という事もあり、怖い怖い一本になっています。

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 特に東出昌大の高身長と抑揚の無い喋り方が元々宇宙人っぽいのか、バッチリはまっていて不気味でした。

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 終盤、主人公の夏帆と侵略者の東出君の一騎討ちになるのですが、その撮り方が名作『羊たちの沈黙』のクライマックス、ジョディ・フォスターが暗闇の中で犯人のバッファロー・ビルと死闘を繰り広げる場面に似ているなあと思いました。

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 実際のところ、どうなのかは分かりませんが、黒沢清監督は『羊たちの沈黙』を観て感動し『CURE』を思いついたと語っていたので、もしかするとオマージュなのかもしれません。​

 ↑『羊たちの沈黙』と『CURE』について語っている黒沢清監督と脚本家の高橋洋の対談動画。「『CURE』はアメリカンで始まり、途中からヨーロピアンになる。」っていう表現が面白い。

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