好きになった街を嫌う作業
「早くこの街から出たいなぁ」と心の中で呟きながら目を瞑り、眠る。
夫の転勤で札幌に引っ越してきた日から丸二年が経とうとしている。
娘がお腹の中にいながらの新居探しや荷造り、諸々の手続き等は大変ではあったが、新しい街での暮らしに心を躍らせていた。
初めての雪国生活、初めての妊娠出産育児。
不安なこともたくさんあったし、孤独に涙を流した日もあったけれど、周りの人々にたくさん助けてもらって丸二年暮らしてこられた。
週に何日かお散歩した木々が気持ち良い公園。
妊婦検診の為に何度も通い、娘を出産したアットホームな産婦人科。
娘のかかりつけ小児科。
娘が大好きな職員さんのいる支援センター。
毎週買い物をする駐車場の広いスーパー。
いつも混み合う人気のパン屋さん。
私好みのスタイルにしてくれる同い年の美容師さん。
私や娘に優しく接してくれたママ友たち。
丸二年を振り返ると、札幌での暮らしの中で私を助けてくれた様々な人や場所がたくさんあったのだなぁ。
新鮮だった場所や新たに出会った人たちはいつのまにか、安心する存在に変わっていた。
広くて、雄大な自然がたくさんあり、旬の味覚を楽しめる、魅力がたくさんある北海道。
これから思い出をたくさん作って、北海道でしか見られない景色をみたい。
コロナが落ち着いたら行きたい場所。
娘がしっかりと長い時間歩けるようになったら行きたい場所。
娘が食べられるものが増えたら食べさせたいもの。
娘があともう少し成長したら見せたい景色。
リストアップしてもキリがないくらい。
そんな中、夫から「転勤になるかもしれない」との話が。
3年〜5年のスパンでの転勤がある夫の会社だが、まさか2年で札幌での暮らしが終わるだなんて思っていなかった。
心の準備が全く出来ていなかった私は想像以上に落ち込んでしまった。
そっか。札幌で暮らすことはもうきっと、一生無いのだろうな。
「安心する存在になった大好きな人たちや場所とお別れしなくちゃ」
考えれば考えるほど、心にぽっかりと穴があいたような悲しみに襲われた。
これが転勤族の宿命。出会いが多いほど、別れも増えてゆく。
別れが悲しい。とてつもなく淋しい。でも、いちいち悲しがっていたら身がもたないなぁ。
大好きだったあの公園も、小学生の子どもたちに占領されると遊びにくかったっけ。
大好きだった娘を産んだ産婦人科も、かかりつけの小児科も診察が雑なときがあったっけ。
大好きなあの人も話しやすいけれど、気を使うことに疲れたり、話題探しに困るときもあったっけ。
札幌は一年の半分が雪を気にして過ごさなくてはいけないし、雪が酷い日は娘を連れて外に出られないし、一年の半分はスノーブーツしか履けなくてお洒落が出来ないし、
飛行機に乗らなくては実家に帰れないし、友達にもなかなか会えないし、王様のブランチは途中で札幌の天気情報に切り替わってしまうし、
あれ、意外と嫌なところもあったんだ。
私ってこの街のこと、そこまで好きになっていなかったんじゃないかな。よかった。転勤したらもっと好きになれる街に出会えるということだ。
なんだ、悲しがってばかりいたけれど大丈夫。
この街から離れるのはちょっぴり淋しいけれど、この街のことそこまで好きになっていなくてよかった。
「早くこの街から出たいなぁ」
自分が傷つかないために、強がりながら過ごしている。
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