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Untitled #1. 物語の結末は美しさにつづく

「とにかく、それがわたしにとっては怖いのです。」

彼女は時たま、僕にはわからない何かに怯えていた。
でもきっと、何かそれには大きな傷があるのだろう。
自分の思っていることに対し、聡明な彼女はいつも論理的に話をする。僕の理解を超越するくらい。それでも、何事にも一生懸命なのは、僕にもわかる。

「大丈夫、ちゃんとすきですよ。」

あの人は時たま、私には理解できないほどやさしいことばを投げてくる。
でもきっと、それは思慮の浅さではなく、心底優しい人なんだろう。
自分の想いを、言葉にするのが苦手なあの人は、たまに言葉に詰まる。
わたしにはもどかしいくらい。それでも、傷けまいと必死なのは、わたしにもわかる。

はじめて彼女を見た時、感情が動いたのは何故だったろうか。
言葉をほとんど交わしたことない時から、心を惹かれていた。
もともと持ち合わせているであろう聡明さと、それを超える献身さ、なぜこの子は、小さな身体で世の中を受け止めようと背伸びをし、大きな瞳で真っ直ぐ見つめようとしているのか。

初めてあの人を見た時、感情が動いたのは何故だろうか。
言葉を交わす機会をあまり持たなかったが、美しい人だなと、心を惹かれていた。
もともと持ち合わせている愛くるしい表情と、それを超える他者への優しさ、なぜあの人は誰のいうことも素直に受け取り、自然体でこの世界を生き抜けていけるのだろうか。

なぜ、今、あの人はわたしの前で、涙を浮かべているのだろう。
なぜ、今、彼女は僕の前で、傷ついているはずなのに、笑顔でいてくれるのだろう。

「何にせよ、わたしは貴方のことがすきです。」
まっすぐ彼女はそう言った。言葉にするには、きっと葛藤もしたのだろう。

「会った時から、すきだなって思って。」
躊躇いながらもあの人はそう言った。言葉にするには、きっと勇気がいったろう。

「そう思っても、どうにもならないから。」
彼女は、
あの人は、
その現実にもちゃんと立脚しないといけないことを理解しているのを、
あの人も、
彼女も、
知っているんだ。

では、僕らは、私たちは、どう世界線を整理するのか。
いくつもあったかもしれない世界線を。
彼女はいつだって正しくあろうとする。
あの人はいつだって優しくあろうとする。

「そうあろうとする、美しい努力を続けて行きましょう。」

言葉を扱うのに長けている彼女はそういった。
やさしさを与えるのに長けているあの人は、それに頷いた。

僕らの、わたしたちの世界は、重なり合いながら、これからも優しさと聡明さを兼ね備えたものとなるのだろう。

その結末を、わたしたちは、僕たちは、しっかりと見つめ続けていくことになるのだろう。

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