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【ネタバレ有】「竜とそばかすの姫」はなぜ面白くなかったか

観てきました。竜とそばかすの姫。

細田守監督のファンというわけではないのですが、不朽の名作「劇場版デジモンアドベンチャーぼくらのウォーゲーム」の監督さんですし、今回は再びネット上の仮想空間が舞台になるということで、「サマーウォーズ」からどのような進化を遂げてくれているのかとても興味がありました。現代ではネットとリアルの境界はどんどんなくなっていますからね。「サマーウォーズ」、10年前の映画なのか……。

んで、観て来た結果なんですけれど、びっくりするほど面白く無かったです。久々に途中で席を立ちたくなった映画はいつ以来だろうか。「スーサイドスクワッド」以来?笑 ちょっと最後まで観るのもしんどいくらい苦しかったです。

いつもは面白くない映画を観てしまった時は酷評されているレビューを見て、つまらなかった理由を他人に言語化してもらうことで論理的につまらなかったことを納得したりするのですが、今回は他人に理由を委ねるのではなく、自分自身が感じたままに書き綴ってみたいと思います。先に他人のレビュー見ちゃうと、その感想に引っ張られてしまって自分が書いた文章も誰かの劣化コピーになってしまう気がするので。

さて本題に移りましょう。ここからはネタバレ注意です。

「竜とそばかすの姫」あらすじ

高知の田舎町で父と暮らす17歳の女子高生・すずは周囲に心を閉ざし、一人で曲を作ることだけが心のよりどころとなっていた。ある日、彼女は全世界で50億人以上が集うインターネット空間の仮想世界「U」と出会い、ベルというアバターで参加する。幼いころに母を亡くして以来、すずは歌うことができなくなっていたが、Uでは自然に歌うことができた。Uで自作の歌を披露し注目を浴びるベルの前に、ある時竜の姿をした謎の存在が現れる。


さて今回の映画が面白くなかった理由として挙げられることは大きく3つあるかと思います。

1.主人公の行動理由が曖昧すぎる

主人公すずは仮想空間「U」上では謎の歌姫として活躍するのですが、そのライブ中に「竜」と出会います。特に言葉も交わさないまま竜は去ってしまうのですが、すずは「竜」の正体が気になる様子。

この「竜」の正体が何者なのか知りたい、ということが物語の中でのすずの行動要因になるのですが、何故そんなに「竜」に執着するのか全くわからないんですよね……。本当に一目交わしただけなんです。すずと「竜」。それなのにどうしてそこまで行動できるのかということが視聴者にはわからない。すずが必死になればなるほど感情移入しづらい構造になってしまっていたと思います。弩ベタですが、初対面で「竜」がすずを救う、みたいなシチュエーションがあればもっとわかりやすくなっていたのではないかと思います。

その後、すずと「竜」は仮想空間「U」上で2、3回会うことになるのですが、どうやらそこで彼らの心の壁は解き放たれ信頼関係が築かれていったようです。これが演出上よくわからない。本当にわからない。ただ何となくミュージカルして分かち合ったような気になってしまっているようにしか見えないんですよね。ここで視聴者との意識の乖離が決定的になってしまった気がします。

ミュージカル映画では作劇上、セリフを歌に載せることでより人物の感情を効果的に演出したりしますが、今回はちょっと歌に頼りすぎてしまったのではないかと。歌上手い……絵が綺麗……しか印象に残りませんでした。そういえば「グレイテストショーマン」はミュージカルの力技で相手を納得させたり難題を突破したりしていましたよね笑。あれもやり過ぎ感はありましたがミュージカル演出が素晴らしいので視聴者も無理やり納得させられるパワーがあったと思います。

ちなみにこの主人公すずの曖昧な行動原理については、物語の終盤で明かされていたように思います。すずの母は過去に見ず知らずの女の子を救うために命を落としてしまいます。すずにとっては、何故自分と過ごす将来よりも見ず知らずの女の子の命を選んだのかずっと疑問でした。終盤、すずは「竜」のアカウント主である少年を救うために行動を起こします。そこで見ず知らずの存在である「竜」を救うための行動と母の行動が同じであることに気づくことができたのです。そして、その母の無償の優しさがしっかりと自分に受け継がれていること、母が自分の中に生きていることに救われるのでした。

もしかするとすずの「竜」への執着が曖昧であることは意図された演出で、母を自分の中に見つけることのカタルシスを視聴者に与えたかったのかも?それにしてもやはり「竜」に気持ちを寄せる描写はもう少し丁寧にして欲しかったです……。ここが良くなるだけで映画も大分面白くなると思います。


2.竜が悪者に見えない

「竜」って作品上では仮想空間「U」上で滅茶苦茶嫌悪される対象で、最後の最後まで竜を倒せ!竜を倒せ!と言われる存在だったんですが、何をそんなに悪いことしているのかよくわからないんですよね……。あくまでも1個人の1アカウントにしか過ぎないですし、リアル世界で何か問題が発生するような事件を起こしているわけでもないのです。それなのに「U」内の警察隊キャラは竜を倒せ竜を倒せとそれしか言わない。ここでまた視聴者と意識が乖離してしまったように感じました。

これある種、細田監督作品の中の呪いだと思うんですよね。ネット上での悪キャラって「ぼくらのウォーゲーム」と「サマーウォーズ」で出し尽くしちゃっているんですよ。だから今回も同じような世界を破滅に陥れるような本物の悪キャラを使うことはできない。だからスケールの小さな設定になってしまう。けれども「竜」は作劇上、嫌悪される存在でなければならないから世界中から叩かれざるを得ないわけです。細田監督の作品でなかったら「竜」は世界を破滅に陥れる恐ろしいAIだが実際は精神の不安定さから制御がきかない少年のアカウントだった……みたいな設定にできたと思います。


3.仮想空間上での危機感が足りない

仮想空間を扱う作品のジレンマだと思うのですが、仮想空間上で戦闘して敗北することが大した危機とは思えないんですよね。だから仮想空間上での戦闘に危機感が生じず、「竜」やすずが追い詰められてもハラハラしないのは致命的だと思いました。戦闘がただの長ったらしいシーンになってしまい、早よ終われと念じながら観ていました。

「サマーウォーズ」では敗北するとアカウントが乗っ取られてしまう、スピルバーグ映画の「レディー・プレイヤー1」ではアバターの体がバラバラになり仮想空間内での資産を全て失ってしまう、などのペナルティがありましたが、今回の唯一のペナルティは警察隊キャラの1体が持つ武器の光を浴びると「U」アカウントのアバターが本人に切り替わってしまうといったモノでした。これは警察隊側からしたら「竜」を白日の下に晒し社会的な制裁を加えることになるそうなのですが、先述した通り「竜」の何がそんなに悪いのかいまいちわからないので仮に敗北して晒されても「そう……」としか思えないんですよね。結局は緊張感を生み出す効果はなかったと思います。


他にもリアルでのサムすぎる会話とか、妙にテンポの悪いリアルパートとか、「U」世界観設定のガバガバ度とか、1つの台詞を言わされるだけに招集されて基本棒立ちの幼なじみとか、解像度が低すぎるサイバー幼なじみとか、胆力だけで大の大人を制圧する女子高生主人公とかツッコミどころは挙げ出したらキリがないのですが、それはあくまで末端の要素。細田監督作品と私のウマが合わないだけかもしれないです。主人公を含めあまり好きになれるキャラクターもいなかったなぁ。

ともあれ物語をつまらなくしている根幹要素は挙げることができたのではないかなーと思います。

あ、クラスメイトがLINEで恋愛相談をしてくる際のチャット文面が異常なほどに生々しくて解像度高かったのは良かったです。

よし、これである程度文章化することができたので安心して酷評レビューを見に行くことができます。映像の美しさは間違いなく「サマーウォーズ」と比べても進化していたので、気になる方は劇場へ!




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