B型のインフルエンザって軽いんですか?

インフルエンザウイルスは大きく分けてA型, B型, C型, D型の4つの種類があります.
このうちでヒトで毎年のように流行がみられるインフルエンザを引き起こすのはA型とB型です.

インフルエンザでは発熱や咳, 頭痛などのよく知られた症状がみられますが, これはA型とB型のどちらのインフルエンザウイルスが原因でもみられます.

A型とB型は一般的に用いられる迅速検査を用いると区別することができますが, 患者さんの経過や症状だけでは区別できません.

ただ時々「A型インフルエンザウイルスと比べるとB型の方が症状は軽い」と説明されることがあります.
しかし本当にA型と比べてB型の方が「軽い」のでしょうか?


インフルエンザウイルスのA型とB型における症状の違い

まずA型とB型のインフルエンザで症状に違いはあるのでしょうか?
2004年から2008年にかけての成人での外来患者さんを対象とした研究では, A型とB型で臨床症状などは同程度であったという結果が示されています(*1)

また, 2009年のいわゆる新型インフルエンザウイルス出現以降の期間も含めた期間での成人の入院患者さんを対象とした研究でも, A型とB型では明らかな違いはなさそう, という結果が示されています(*2).

その他の多くの研究でもA型とB型では明らかな違いはなさそう, という報告されているものは少なくありません.
よって成人においてはA型とB型では明らかな違いがある, ということはないかもしれません.

では次に小児ではどうでしょうか.
小児のインフルエンザの入院患者さんを対象とした研究でも, インフルエンザのA型とB型では明らかな違いはなかったとする報告があります(*3).
その一方で, 小児の入院患者さんを対象とした別の研究ではインフルエンザA型と比べてB型では頭痛や腹痛, 筋肉痛がみられやすかったと報告しています(*4).

インフルエンザにかかった患者さんのうちで入院するのは比較的重症な患者さんだと思われます.
従って比較的重症な患者さんに限って言えば臨床症状のみられやすさで多少違いはあるかもしれません.

また発熱時の最高体温や発熱の期間を分析した, 外来と入院患者さんを対象とした小規模な研究では, A型とB型で明らかな違いはみられなかったと報告しています(*5)

以上から若干の違いはあるかもしれませんがが, 基本的には小児においてもA型とB型では症状では大きな違いはなさそうに思われます.


インフルエンザ脳症や死亡における違いは?

インフルエンザ脳症はA型とB型のどちらでも起こりえます.
インフルエンザ脳症全体のうちではB型よりもA型の方が原因となっている患者さんは多いです(*6, *7). ただしAとBでは患者さんの数が異なるため, 単純に患者さんが多い方が発症しやすいというわけではありませんので, A型の方がB型よりも脳症になりやすい, とは言えません.

どちらもインフルエンザ脳症を合併する可能性があるわけですから, どちらも同じように注意する, と考えるべきではないでしょうか.

また死亡に関してはどうでしょうか?
先に紹介した小児の入院症例を分析した研究では, A型よりもB型の方が死亡率が高い可能性が示されています(*4).
ただしこちらもデータは乏しいため, これだけでA型よりもB型の方が亡くなるリスクが明らかに高いとは言えません.
ただ少なくとも, 死亡においてB型の方が危険性は低いとは言えなさそうです.

以上からインフルエンザ脳症や死亡といった重篤なものの引き起こしやすさにおいても, B型の方が「軽い」とは言えないと思われます.


まとめ

インフルエンザのA型とB型ではウイルスの特徴や小児における発症年齢などいくつか性質は異なるのは確かです.
ただしインフルエンザの症状やインフルエンザ脳症・死亡のいずれの点でも, A型よりもB型の方がかかっても「軽くなる」わけではなさそうです
従ってB型が流行しているような時期でも, B型だからと軽視せずにA型のときと同じように感染への対策は続けていくべきではないでしょうか.


<参考文献>
*1 Irving SA, et al. Comparison of Clinical Features and Outcomes of Medically Attended Influenza A and Influenza B in a Defined Population Over Four Seasons: 2004-2005 Through 2007-2008. Influenza Other Respir Viruses 2012; 6(1): 37-43.
*2 Su S, et al. Comparing Clinical Characteristics Between Hospitalized Adults With Laboratory-Confirmed Influenza A and B Virus Infection. Clin Infect Dis 2014; 59(2): 252-255.
*3 Daley AJ, et al. Comparison of Influenza A and Influenza B Virus Infection in Hospitalized Children. J Paediatr Child Health 2000; 36(4): 332-335.
*4 Tran D, et al. Hospitalization for Influenza A Versus B.Pediatrics 2016; 138(3); 138 (3): e20154643.
*5 Oh YN, et al. Clinical Similarities Between Influenza A and B in Children: A Single-Center Study, 2017/18 Season, Korea. BMC Pediatr 2019; 19(1): 472.
*6 Okuno H, et al. Characteristics and Outcomes of Influenza-Associated Encephalopathy Cases Among Children and Adults in Japan, 2010-2015. Clin Infect Dis 2018; 66(12): 1831-1837.
*7 国立感染症研究所, 厚生労働省結核感染症課. インフルエンザについて (2018/19 シーズン). 


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