突発性発疹 Q&A


1. 突発性発疹(とっぱつせいほっしん)は何ですか

突発性発疹は小児でみられる, 発熱と解熱後の発疹出現を特徴とするウイルス性疾患です.
小児のうちでも6か月から2歳未満の児でみられることが多いです.
一般的には「とっぱつ」と呼ばれることも多いです.


2. 突発性発疹は何が原因ですか.

突発性発疹は主に
・ヒトヘルペスウイルス6B型 (Human Herpesvirus 6B : HHV-6B)
・ヒトヘルペスウイルス7型 (Human Herpesvirus 7 : HHV-7)

という名前のウイルスによって引き起こされます.

これらのウイルスは一度感染したあとは潜伏感染状態となるため, 何回も繰り返し感染することはありません.

なお, どちらもウイルスの名前に「ヘルペス」という言葉が入っています. たしかにこれは一般的にヘルペスを引き起こすウイルスの仲間ですが, これらのウイルスは一般的なヘルペス(単純ヘルペス)の原因とはなりません.


3. 突発性発疹は何歳くらいの子どもで特になりやすいですか.

前述の通り突発性発疹は主に生後6か月から2歳未満の児でみられます.
これはHHV-6Bのほとんどが2歳未満で感染するためです(*1).

なお2歳以降でもHHV-6Bに感染することはあり, 近年はその割合が高くなっている可能性が指摘されています(*2, *3)
ただし2歳以降でHHV-6Bに感染した場合には典型的な突発性発疹の経過となりにくい可能性も示唆されています.
またもう1つの原因として知られているHHV-7の感染による突発性発疹は, それよりももっと後に感染することがわかっています.
従って, 2歳以降でも突発性発疹を発症することはあります.


4. 突発性発疹ではどのような症状がみられますか

突発性発疹は
・発熱 (高熱となることも少なくない)
→ 解熱とともに全身に発疹

という経過をたどることが特徴的です.

発熱は個人差はありますが, ほとんどが3日以上続くとされており(*4), 通常は3〜5日程度続きます.
発疹は通常かゆみはなく, 1〜2日続いたあとに消失することが多いです.


5. 突発性発疹ではどのように診断されますか.

突発性発疹は通常典型的な臨床経過から診断されます.

また厚生労働省は届出のために必要な臨床症状として以下の2つを挙げています(いずれも満たすものを届出の対象としている):(*5)
ア 突然に発熱し、2~4日間持続
イ 解熱に前後して体幹部、四肢、顔面の発疹が出現

発疹が出現する前に診断することは困難で, 他の診断として診断されることも多いです(*6)
ただし経験的には発熱の程度の割には調子が悪くなさそう, といった雰囲気から「突発性発疹っぽい」と仮の診断をされつつ経過をみるということはよくあります.


6. 突発性発疹ではどのような検査が行われますか

突発性発疹では通常検査は不要です.
ただし後述のような合併症を併発した場合には血液検査などが行われることはあります.

またインフルエンザやRSウイルスで用いられているような簡易的検査は存在しません.


7. 突発性発疹ではどのような合併症がみられることがありますか

突発性発疹では他の感染症と比べて熱性けいれんがみられやすいことがよく知られています.

熱性けいれんは主に小児でみられるけいれん性疾患で, 通常数分の全身性左右対称性のけいれんがみられることが特徴的で, 日本人の数%で発症するとされています.
熱性けいれんからみても突発性発疹は主要な原因の1つであり, 熱性けいれんの症例全体のうちで, HHV-6が約20%を占めていたという報告はあります(*7).

その他の合併症は稀ですが, 脳炎/脳症や血小板減少, 肝炎など様々なものが起こる可能性はあります.


8. 突発性発疹ではどのような治療が行われますか

突発性発疹は自然治癒する病気であるため通常治療は不要で, 発熱に対して解熱薬を使用するといった対症療法が行われることはあります.
また突発性発疹に対する特別な治療(抗ウイルス薬)は存在しません.

合併症を併発した場合にはその合併症に対する治療が行われることはあります.


9. 出席停止基準はありますか

突発性発疹の登園のめやすに関しては厚生労働省が発表している保育所における感染症対策ガイドライン 2018年改訂版に記載されている内容が参考になります(*8).
そこでは「解熱し機嫌が良く全身状態が良いこと」とされています.

わかっていないことも多いですが, ウイルスは発熱などが出ている急性期よりも, かかったあと数か月の方が排出されている可能性も示唆されているいます(*9).
そのため発熱やその後の発疹が出現している時期の隔離の感染予防効果は明確ではないと思われます.


10. 突発性発疹は子どもは全員かかるものですか

突発性発疹は子どもが全員かかるわけではありません. それは突発性発疹の原因ウイルスであるHHV-6Bに感染しても必ずしも突発性発疹となるわけではないからです.
突発性発疹とならなかった場合でも発熱だけで終わることもあれば無症状のこともありますが, ある研究では突発性発疹とならなかった児では
・発熱(57%)
・不機嫌(69%)
・鼻汁(65%)
といった症状がややみられやすかったと報告されています(*10).

実際, どれくらいの児が突発性発疹となるかははっきりはしていません.



<参考文献>
*1 Okuno T, Takahashi K, Baba K, et al. Seroepidemiology of human herpesvirus 6 infection in normal children and adults. J Clin Microbiol 1989; 27(4): 651-653.
*2 Hattori F, Kawamura Y, Yoshikawa T, et al. Clinical Characteristics of Primary HHV-6B Infection in Children Visiting the Emergency Room. Pediatr Infect Dis J 2019; 38(10): e248-e253.
*3 鳥越貞義, 渡辺正博, 山田雅夫. 突発性発疹の減少と高年齢化. 小児感染免疫 2013; 25(1): 3-8.
*4 Asano Y, Nakashima T, Yazaki T, et al. Severity of human herpesvirus-6 viremia and clinical findings in infants with exanthem subitum. J Pediatr 1991; 118(6): 891-895.
*5 厚生労働省. 感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について. 32 突発性発しん.
*6 Pruksananonda P, Hall CB, Dambaugh TR, et al. Primary human herpesvirus 6 infection in young children. N Engl J Med 1992; 326(22): 1445-1450.
*7 Mohammadpour Touserkani F, Gaínza-Lein M, Loddenkemper T, et al. HHV-6 and seizure: A systematic review and meta-analysis. J Med Virol 2017; 89(1): 161-169.
*8 厚生労働省. 感染症対策ガイドライン(2018年改訂版).
*9 Miyazaki Y, Namba H, Yamada M, et al. Monitoring of human herpesviruses-6 and -7 DNA in saliva samples during the acute and convalescent phases of exanthem subitum. J Med Virol 2017; 89(4): 696-702.
*10 Zerr DM, Meier AS, Corey L, et al. A population-based study of primary human herpesvirus 6 infection. N Engl J Med 2005; 352(8): 768-776.


A. ヒトヘルペスウイルス6B型とはどんなウイルスでしょうか.

ヒトヘルペスウイルス6型(Human Herpesvirus 6)は1986年Salahuddinらによって発見され(*11), 1988年にYamanishiらによって突発性発疹の原因の1つであることが報告された(*12).
HHV-6にはHHV-6AとHHV-6Bの2タイプが存在します. この2タイプは制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism : RFLP)やモノクローナル抗体への反応性, 細胞親和性, 疫学などが異なることから異なるウイルスであることが認められました.
HHV-6Bは突発性発疹の原因である一方, HHV-6Aが突発性発疹の原因かどうかなど詳しいことはわかっていません.
HHV-6Bは主にT細胞に感染しますが, その他の細胞にも感染することが指摘されています. また骨髄前駆細胞に潜伏感染して, ここから分化した血液細胞に伝播していくとされています(*13).


B. 突発性発疹の疫学的特徴はありますか.

突発性発疹は定点報告対象(5類感染症)に指定されています.
定点報告によると, 基本的に季節性はなく毎週の定点当たり報告数に大きな差はなく, また年によっても大きな差はないことが知られています.
こういった特徴から, 感染症発生動向調査のデータ解析の際に基準疾患として利用されたりしています.


<参考文献>
*11 Salahuddin SZ, Ablashi DV, Kramarsky B, et al. Isolation of a new virus, HBLV, in patients with lymphoproliferative disorders. Science 1986; 234(4776): 596-601.
*12 Yamanishi K, Okuno T, Kurata T, et al. Identification of human herpesvirus-6 as a causal agent for exanthem subitum. Lancet 1988; 1(8594): 1065-1067.
*13 Luppi M, Barozzi P, Torelli R, et al. Human herpesvirus 6 latently infects early bone marrow progenitors in vivo. J Virol 1999; 73(1): 754-759.


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