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クウォルとサウォル

君と初めて会ったこの場所は、
今日他の誰かと誰かが初めて会う場所になる。

今日の私は、出会いを求めてやってきた純粋な女じゃない。

出会いを求めてやってくる人間が
「なぜか隣にいる人と気が合って連絡先を交換した」と
ごく自然に感じるようにする運営側の1人だ。


正直な話、全く出会いを求めていない運営の人間などいない。

「俺はかわいい子見つけたら即仕事放棄するからぁ」と
リーダーは机を運びながら叫んでいた。

私もそうしたいのですが、リーダーさん。


この6か月の間に、君と出会い、恋に落ち、何かを悟って、
これからの数か月で、君を嫌おうと、忘れようと努力している。


13時。「交流会」開始。

参加者全員で1つの円を作り、自己紹介をしていく。

半年前は、自分がまっすぐ見た先に君がいて、
一目惚れをしたときのような心臓の動きを感じた。

今、目の前にいるのは、君じゃない。


自己紹介が終わって、ゲームをして、自由時間になった。

人間たちが少しずつ自分で動いていくのを確認しながら、
ロボットのように、すばやくお菓子を準備していく。

お菓子が大量に入っていた段ボールはあっという間に空になった。

この段ボールに「拾ってください」と書いて
1人静かに段ボールの中から誰かが手を差し伸べてくれたらいいのに。

タダの妄想をしながら段ボールの前に立っていたら、
私を呼ぶ声が聞こえた。

お菓子なくなったか。

別の段ボールを探しに歩き始めたとき、
もう一度私を呼ぶ声が聞こえた。

そんなにお菓子がないのか。

「お菓子すぐ持っていきますので~」と顔を上げたとき、
私の目の前には、半年前と同じ笑顔の金髪男がいた。


「この部屋さすが騒がしいね、何回か呼んだんだけど」

「今日来る予定だったっけ?」

「特に決めてなかったけど、今日予定なかったし、
仲間が行く気になったから連れてきた感じ?」

「あぁそうなんだ。お菓子あるから食べてって」

「なんか疲れてるね?1か月前と一緒だ」

「まぁ一応運営やってるんで・・・
もしちゃんと参加するなら名札つけてね、よろしく」

「わかった、あとで写真撮ろうね」

なぜ写真を撮るのか意味がわからなかった。

ますます段ボールの中に身体をつっこんで、
誰かに台車で運んでほしい気分になった。


9月の思い出が蘇ってくる。

忘れるなんて許さないと主張している。


16時。「交流会」終了。

参加者から名札を回収し、お菓子のゴミを回収し、
笑顔でお見送り。

8人ぐらいいたはずの運営は2、3人になっていた。

私以外の運営さんがゴミを捨てに行き、広い会場に1人になった。

自分のため息が、足音が響いてく。

突然足音が消えた。

何かが私を止めたのだ。

俯くと、大きなスニーカーが見える。

「おつかれ。写真撮ろっか」

自分の疲れた笑顔がカメラに食べられていく。

この写真はどんな意味を持つのだろうか。

「またね」といつものように抱きしめられたとき、
今日のことを忘れられないと確信した。




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