閉鎖病棟に入る(12)

中庭を囲むようにコの字になった病棟。その4階に閉鎖病棟はあった。7階が開放病棟だったわけだから、閉鎖「病棟」というよりは閉鎖「フロアー」のほうが正しいかもしれない。とにかく、移動できる範囲は狭い。なにもすることがないときは、コの字のなかを行ったり来たりするくらいしか、することはない。上階にも下階にも移動は許されていない。

だが、することがあっても、けっきょくできないことも多かった。わたしは静かに本を読みたかった。だがつねに少年たちが話しかけてくる。彼らは厳しい生い立ちもあってか年齢の割に幼く、わたしに教師像を、リーダー像を、父親像を求めてきた。気持ちは分かるが、トイレであろうと食堂であろうと部屋であろうと、どこにでも彼らはついてくるのだからたまらない。苛立ちを募らせながら、わたしはボンヘッファーの逸話を想いだしていた。ヒトラー暗殺計画に加わった容疑で逮捕された彼は、刑務所に収容される。彼が牧師であることを知っていた囚人が「わたしはどうなるのでしょう」と、いつも彼につきまとってくる。精神的にべったり依存されることがたまらなく不愉快になったボンヘッファーは、ついにこの囚人を𠮟りつけてしまう。

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