見出し画像

宙組『アナスタシア』のグレブの人生とか考える。

演劇や映画は、なるべくならまっさらなノー知識で観たい。物語の筋に、新鮮に心動かされたい。1回観た上で、気に入った作品はパンフを買って、「なるほど、ふむふむ」となって、そのふむふむを持っておかわりが出来るのがベスト。


なので、いま東京宝塚劇場でやっている宙組『アナスタシア』も、ノー知識で見始めることにした。歴史的な意味でのロシア革命と、アナスタシアにまつわる伝説があったことは知っている、程度。

そして観劇後。「くっそー、パンフ読んでから見ればよかった!もうちょっと流れ理解しときゃよかった!!」。

元々が映画、からのブロードウェイ版を潤色したものという流れもあるんだろうけれど、心情や背景を歌にのみ乗せられてしまうと、まだミュージカル脳になれていないので筋を拾いきれない。なんでグレブは父ちゃんの話ばっかりしてるんだ……?って根本的なところがどうしても理解できない。だからラストがどうしてもフワっとしてしまう。なんでこうなった??

で、パンフを買って読んだ。よかった、「ネヴァ河の流れ」がちゃんと歌詞のってる、父ちゃんの話がわかる。ついでにアニメも観た。肝心のグレブがいなくて泣いたけど。

そんな状態でおかわりスタシア(※2回目)を決めたので、前よりはスッキリした。そして前よりもグレブを応援してしまう。お願いだからこれからの人生に幸多かれ。

ということで、なんかグレブについてグダグダ書く。


ディミトリとグレブ、実に対比的に描かれているなとしみじみしている。

アナーキストの父に育てられ、幼いころには一人きりとなり路地裏で必死に生き延びたディミトリ。大人になり、その名と存在が街で知られるほどになっている。生きるための苦労は想像もつかないほどにしただろう、けれど、彼は父に「何でも出来る、自分次第」と学んだ。心を生かされた。どんなに辛く苦しくとも、前に向かって走り続けることができたのだろう。同じような立場の仲間もいただろう。詐欺やすりといったことにい手をかけながらも、

一方で、グレブ。宮殿で貴人の警護をしていたのだとしたら、相当に身分があり、豊かな家だったのだろうな、と予想される。その後、父も革命に与したことにより、世界は一変する。

正しいことを成し遂げ、世界を変えたはずの革命。だが父は命令に従って動いた自分の過去を、自分の命をもってして否定した。そんな父の選択を、父は革命に参加したことを後悔し続けていたと息子に話して聞かせる母。

父の手は世界を正したはず。なのにその世界を、正義を母に否定され続ける。そんな大いなる矛盾の中で少年時代を過ごしてきたグレブ。つーか、グレブのかーちゃん、毒親よな。自分が苦しいからって子どもにも同じ苦しみを共有しようとか、完全に虐待じゃん。

それでも、亡き父の立場もあってか、革命側の新政府役人として身分ある立場となった大人のグレブ。その職務において「感情はいらない」とされる。自分のものと心から信じられないだろう演説は、群衆の心を動かさない。部下たちも感情など見せず、ただ上官の命令に従うのみ。彼の登場場面はいつだって孤独感が付きまとっている。


そんなグレブが、大きな音に怯える掃除婦の少女に一目惚れ。この時点で、アーニャは守らなくてはならない存在、そう刻まれたのだろうなと思う。心を殺して、心を揺らすことなく生きていただろうグレブが、心揺らした相手。アーニャの意義の大きさは、本人ですら気づかないほどのものだったのでは、と推察される。自分の孤独を知り、そして孤独を埋めることについて知る、といいう方向で。

アナスタシアとして名乗り出ようとする詐欺グループの一員としてアーニャを呼び出した際、見せる「冗談」。もし革命が起こらず、あるいは革命が起きたとして父がその選択を悔いず、母が呪いのように父の行為を息子に語って聞かせなかったならば。いくつかの選択肢でひとつでも違う道を選んでいたら、もっと快活で、うまく冗談で彼女を簡単に笑わせられるような人になっていたのかもしれない。それこそ、ディミトリのような。

でもその未来は訪れなかった。


上官から「アナスタシア」を殺せと命じられたグレブ。「ネヴァ河の流れ」で ♪閉められた門の向こうに 誇らしげな少女 と描写されていることから、少年グレブはアナスタシアの姿を見たことがあったのかな……?とも推察される。追っている時には、すでにアーニャ=アナスタシアと確信していたのではないかな、と。

彼がアナスタシアに銃を向け、そこで自分の心が訴える「撃てない」という選択をしたグレブ。革命の最後の幕を引かないことを、父の遺した最後の仕事をできない・しないと選べたことで、父の後悔、母の苦しみ、そして自分自身の抑圧されたこれまでの心が解放されてくれるといいな、としみじみと思う。

アーニャが、アナスタシアとして表に出ないまま行方不明になったことで、グレブは任務に失敗はしたものの、自らの選択でそうしたことは上層部に知られずに済むよな。馬鹿正直に言わなくていいんだよ、グレブ。上官も、ちょっと降格くらいで許してあげてください。あと部下の人たちも、たまには冗談で上司を笑わせてみたりしてあげてください。

か、もうグレブもパリで逃げちゃえばええやん。仕事失敗したし、よっしゃ俺も新しい靴履いてネヴァクラブで「♪ローシア!過去の国へ~」って一緒に歌っちゃうぞー、くらいの感じの第二の人生とかどうすか(想像力が仕事を拒否したけど)。あとは冗談を日頃から言ったりするような、そんな人生をさ、過ごしてみたりとかさ。


とか、しみじみとグレブの幸せを願っている今夜です。アーニャとディミトリはわたしが願わなくても勝手に幸せだと思うから、いいや。


1回目と2回目は「グレブなんなん、幸せになってね……」に脳みそを持っていかれて終わってしまったので、あとバレエシーンは見事にロットバルトに持っていかれてしまったので、次回、追いスタシア(3回目を追加で取っちゃった)はリリーとヴラドメインで観てきます。あの二人(特に二人でいるとき)も大好きで、グレブがいなければ見ちゃう。あと少女アナスタシアと、アレクセイ。なにあのかわいいの塊……。