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本屋×教室

第6章 本屋と掛け算する(7)

 本屋に人が集まり、その時間を共有するコンテンツは、必ずしも一日限りのイベントだけではない。よく見られるのは、学校の教室のように、一定期間にわたって同じメンバーが集まり、連続で行うものだ。それらはイベントとは少し違った考え方でつくられる。

 まず、連続で長時間行うため、より学びとして体系化したものを提供しやすい。ひとりの講師が連続して教える形だけでなく、ひとりのモデレーターが毎回異なるゲストを招くような形もある。イベント同様、本屋で開催するメリットを生かすには、本の著者を講師に招くなど、本と関係がある形を取るほうがよい。一冊の本を中心に据えて徹底的に読み解くのもよいし、毎回異なる課題図書があるのもよいだろう。

 また、ギャラリーやイベントにはない、店にとっての大きな価値は、特定のメンバーが連続して参加することで、そこにコミュニティが生まれることだ。顔を合わせるうち、学校におけるクラスメイトのように、少しずつ会話が生まれてくる。また一方的な講義ではなく対話形式にしたり、課題を出して発表するような形式にしたりすれば、講義中にもコミュニケーションが生まれる。開講中の学びを深くするのはもちろんだが、教室が終了してもそのまま継続する濃いコミュニティに育てば、それは受講生にとっては学び続けるモチベーションになる。

 よい教室が行われていれば、受講生はその本屋で過ごした時間の記憶と、空間に対する帰属意識のような特別な感情を持ってくれるようになる。また、彼らが自発的に集うときの場所となったり、個々の受講生が顔の見える常連客として定期的に訪れてくれるようになったりもする。本屋として店主や店員自身もそのコミュニティの輪に加わることができれば、なおその可能性は上がるだろう。SNSでグループをつくることを促すのもよい。

 これから小さな本屋を運営していくにあたり、独自のコミュニティを持つことは強みになる。積極的に教室を開講していくのは、それを生み出すひとつの方法だろう。一方で、本屋はひとりになれる静かな空間であり、話しかけられずにじっくりと本を選べることに価値を見出す客も多い。常連客だらけの飲み屋に特有の入りにくさがあるように、本屋もあまりに濃いコミュニティや積極的なコミュニケーションが見えてしまうと、入りにくいと感じる客もいる。自分の店に合っていると思えるバランスをつくっていきたい。

 本屋という空間を生かして、体系的な学びと、心地よいコミュニティを生み出すことができれば、参加者にとっても店にとっても、その教室の価値は高いといえる。もちろん内容にもよるし、そのぶん手をかける必要があるが、全何回で何万円といったような、イベントよりも高い単価の受講料を取ることもでき、それ自体が本屋の経営にも大きな助けとなってくれる。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P217-P218より転載


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ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。
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