これからの

本を専門としている人

第3章 本屋になるとはどういうことか (1) 

 「書店」とは、「商品」としての本を陳列する本棚と平台のことであり、それらが構成する「本を陳列した場所」であると書いた。どちらかといえば「場所」を示すことばだ。また、江戸時代において書店が、扱う内容によって「物之本屋」と「草紙屋」とに分かれていたことも述べた。

 ところが現代日本の書店は、扱う内容ではなく、本の状態によって大きく分類されている。新品であれば「新刊書店」、古本であれば「古本屋」や「古書店」と呼ばれる。ほかに「本を陳列した場所」として思い当たるのは「図書館」だが、あまり「書店」とは呼ばれない。「商品」として陳列されているわけではないからだろう。

 一方「本屋」とは、「本をそろえて売買する人」あるいは「本を専門としている人」のことだと書いた。どちらかといえば「人」を示すことばだ。
 すると「本屋」に含まれるのは、必ずしも「新刊書店」や「古書店」などの「書店」で働いている人だけではない。「図書館」で働いている人も、みな「本を専門としている」から、広義では「本屋」であるといえるだろう。直接的に「そろえて売買」はしていなくとも、「本を専門としている」人は、実はたくさんいる。

 たとえば、多くの新刊書店においては、夜の閉店時には、玄関口近くなどの決められた場所に、返品したい本を段ボール箱にまとめて積んで、鍵を閉める。すると翌朝出勤したときには、新しく出たばかりの本や注文してあった本の荷物に、まるで魔法のように入れ替わって、同じ場所に置かれている。もちろん魔法ではない。深夜のうちに、運送会社のトラックがやってきて、返品分を引き上げ、納品分を置いていくのだ。大抵は一人のドライバーが、配送ルート上にある各書店の鍵を預かっている。

 まるでサンタクロースのようなこのトラックのドライバー抜きに、新刊書店は成り立たない。大半は「本を専門として」配達をしているから、このドライバーも広義の「本屋」であるといえるだろう。ほか、出版社や取次、印刷屋や製本屋はもちろん、前述の桂川氏のようなブックデザイナー、挿絵を入れるイラストレーターなど、「本を専門として」働いているあらゆる人はみな「本屋」であるといえるし、そういう気持ちが強い人であればあるほど、より「本屋らしい」人であると感じる。

 本屋といって多くの人がイメージするのは、「本をそろえて売買する」と同時に「本を専門としている」、新刊書店や古書店で働いている人のことだろう。本書でも、狭義ではそう考える。けれど一方で、必ずしも「本をそろえて売買する」わけではないけれど、「本を専門としている」人のことも積極的に、広義の「本屋」と呼んでいきたい。本は、そういう人たち抜きには成立していないからだ。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P88-90より転載


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