korekarano_note画像

本屋×イベント

第6章 本屋と掛け算する(6)

 小さな本屋において、一番大切で、かつ難しいのは集客だ。近隣の人が定期的に覗きたくなる店や、遠くからわざわざ目がけて行きたくなる店にしたい。ただ本を買うだけなら、いつでも、どこでもできる。わざわざ来てもらうためには、そこにしかない、独自のコンテンツがあるのが一番よい。

 本屋につくりやすい独自のコンテンツとして、代表的なものは二つある。一つは前述のギャラリーであり、もう一つがイベントだ。前者が本屋の空間の一部をコンテンツ化することであるとしたら、後者は本屋の時間の一部をコンテンツ化することであるともいえる。

 ひとくちにイベントといっても様々だが、ここではまず、ゲストを招いた一日限りのイベントについて述べる。トークショー、ワークショップ、朗読や音楽などのライブといったものだ。

 イベントのよい点は、ギャラリーと似ている。まず、イベントに関連する書籍が売れる。そして、店とゲストの集客力が交わり、それぞれの常連客が新しい客として循環していく。

 さらにイベントの場合、ギャラリーよりも頻繁に開催できる。ギャラリーの展示を、毎日入れ替えることは難しいだろう。しかしイベントは、毎日やることも、一日に何回もやることもできる。そのぶん、SNSなどで発信する情報も、よりたくさん出せることになる。人には、同じ情報を複数回違ったところで目にすると、話題になっていると感じる性質がある。たとえばSNSでフォローしているA氏が、ある本屋のイベントに出演するという情報を発信しているのを目にする。その一週間後に、A氏とは別の関心でフォローしていたB氏も、その本屋でイベントを開催するという情報が流れてくる。すると、A氏もB氏もイベントをするというその本屋の名前は特別なものとして、その人の記憶に強く残る。もしそれら二つのイベントに行かないとしても、いつか行ってみたい店として、認識してもらうことができる。

 またイベントは、最初の来店のきっかけになりやすい。上階や地下、路地裏にあったり、駅から遠かったりするような店である場合、通りすがりの人には入りにくいと感じさせることも多い。イベントで一度でも来てもらうことができれば、次回からの入店のハードルはぐっと下がる。本の品揃えを気に入ってもらうことができれば、次はイベント以外の機会でも、近くに来たときにふらっと寄ってみよう、と思ってもらうことができる。

 イベントの開催を考えるにあたって、無料か有料かというのは、前提となる考え方が違ってくる、ひとつの大きなポイントだ。無料にする場合は、イベント自体は情報発信や集客を目的にした、プロモーションであると割り切って考えることになる。一方、有料にする場合は、どれだけ少額であっても、お金を取る以上、イベント自体も本屋としての、ひとつの商品であるということになる。あるいはその中間に、イベント自体ではお金は取らないが、本を買うことやドリンクを注文することなどを参加条件にするようなやり方もある。

 また、イベントの内容を二次的に使用することもできる。生放送や録画などを映像として配信したり、テキストを書き起こしてウェブサイトの記事にしたり、本として出版したりすることも可能だ。それぞれをまた、プロモーションと考え無料にすることも、商品として有料にすることもできる。イベントは本屋の商品として有料で開催するが、そのレポート記事は本のプロモーションとして後日、ウェブメディアで無料で読めるようにするという組み合わせもあれば、イベントはプロモーション及び収録の機会と捉えて無料で開催し、後日その内容を本として出版することで収益化するという組み合わせもある。様々なバリエーションが考えられるはずだ。著者や編集者と相談しながら、そのイベントをどのような目的で、どのようなものにしたいかを、きちんと考えてから進めたほうがよい。

「本屋B&B」の場合は、平日は毎日、土日は昼と夜の二回、イベントを開催している。無料のものもあるが、ほとんどは有料だ。基本は二時間で、前売のチケットは一五〇〇円+ワンドリンク。二次的なものはケースバイケースだが、取材が入って後日レポート記事として掲載されることは多い。生の体験を重視しているため、映像の有料配信などは行っていない。

 お金を払ってもらう価値のある内容にしなければならないので、本の刊行記念であっても、ただ本の中身を紹介するようなイベントではない。対談相手や聞き手を誰にするか、どんなテーマで話してもらうか、広がりが出るようにひとつずつ考える。担当するスタッフは、いわばイベントの編集者だ。この店でその日一度限りのイベントが、特別な時間になるように考え、当日まで導いていくのが仕事になる。告知とチケット販売を開始し、集客のために宣伝し、設営や受付など当日のオペレーションまでを考えるのは、けっして楽ではない。

 けれど、本屋であるからこそやりやすい点もある。それは、年間に八万点の新刊が出ていることだ。一日に二〇〇~三〇〇点のそれらが、すべて企画の素となる。この本でイベントをしたいという本を見つけて、出版社と著者とに打診する。そのとき、こちらが本屋であることは強みだ。本に囲まれた空間を持っていて、そこで読者と直接、本を通じた交流ができる。こちら側も経験を積めば積むほど、どうしたら自店のイベントで本が売れるか、著者や読者に喜んでもらえるかがわかるようになる。それは、他のイベントスペースにはできない、本屋ならではの積み重ねになる。品揃えや企画を気に入ってもらうことができれば、編集者も著者も、また次もこの本屋でイベントをやりたいと感じてくれるようになる。

 最後に触れておかねばならないのは、東京とそれ以外の地方との違いだ。著者の多くは東京に住んでおり、出版社も多くは東京に本社を構えている。遠方から著者を招くとなると当然、交通費と宿泊費がかかることになるため、この点においては、東京の本屋には大きなアドバンテージがある。地方で頻繁にイベントを開催しようという場合は、必ずしも著者を招くことにこだわらずに、さまざまなバリエーションを試してみるのがよい。実際に長野県上田市の「NABO」では、地方であるにもかかわらず毎日イベントを開催している。どんな地方にも、才能ある人たち、何かやりたい人たちはたくさんいる。近くの大学で教えている先生や地元のアーティスト、何かしら専門を持っている様々な人を巻き込みながら、レクチャーやワークショップ、ライブなどを開催していく。同時に、地方でのイベントに積極的な著者や出版社をうまく巻き込んで、たまたま近くに訪れる機会を狙うなどしてコストを下げつつ、楽しんで出演してもらえる方法を考えていくのがよいだろう。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P214-P217より転載


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

9
ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。