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立地と商圏

第4章 小売業としての本屋(7)

 本屋は立地商売だとよく言われてきた。とくに一般的な新刊書店においては、どこでも同じものを同じ値段で買えるなら、できるだけ行きやすい、好立地な店のほうが便利に決まっている。また一般的な古本屋も、販売においてはともかく買取においては、古本屋同士は競合する。買取を主とするなら、本を読む人が一定数住んでいるエリアで、不要になった本は、なるべく一手に引き受けたい。

  その店を使う人たちがいるエリアを「商圏」という。大取次に口座開設の相談に行き、前向きに話が進む場合は、商圏分析をされる。地図上にある出店予定地を中心に、円が描かれる。その商圏内にどれだけの人口がいて、既に何軒の本屋がどのくらいの売場面積を持っているかといったデータから、その立地に新たに出店して書店が成り立つか否かの分析が行われる。人口に対して売場面積が足りていれば、分析上は「いまこの商圏に本屋は必要ない」という結論になる。 

 もちろんアクセスのよさも問われる。都心部であればできるだけ駅近が、郊外であれば主要な道路に面しているのがよい。もちろん一階がよい。「ヴィレッジ・ヴァンガード」の創業者である菊地敬一氏はかつて、一三段の階段をのぼる物件に店をオープンしようとしたとき、取次の担当者に「階段を一段登るごとに売上が一万円落ちるんですよ」と忠告されたという(*)。

 しかしこうした分析はあくまで、どこの本屋もだいたい同じであるという前提に立っている。店ごとの魅力や個性は数値化しにくい。しかしまさにその魅力や個性こそが重要だ。

 そのように考えると、立地はそれほど関係がないとも言える。どこでも買えるものであっても、そこに行かないと体験できない空間があり、そこに行かないと会えない人がいるならば、人はわざわざ出かけていく。

 けれど一方で、だからこそ立地が重要だともいえる。単に商圏に客がいるからという理由以外でその立地を選ぶなら、なぜそこなのか。立地もまた、大げさに言えば、その店の思想をあらわす。単に、その街が、その場所が好きだという理由であってもよいかもしれない。ある街である店が存続していくとき、街の個性と店の個性とは重なり合い、互いに影響を与えていくようになる。街が店を、店が街をつくっていく。

 個性のある店同士であれば、商圏が重なっても、あまり競合することはない。大型書店チェーン同士は近隣にあれば競合しやすいが、小さな本屋同士は量的な品揃えで勝負できないぶん、むしろ同じ街に集まったほうがよい。それは「本屋めぐり」ということばに表れている。近くにある複数の店を回るルートができることで、店同士の横のつながりができ、その街を目がけて来る人に来店してもらえるメリットのほうが大きい。

 また、立地とはいまの時代、必ずしも店舗のあるリアルの場所の話だけではない。どこに自店の客がいるかを広い視野で考えるのであれば、どのSNSを積極的に使うか、通販をやるならどのプラットフォームを使うかということも、広義の立地戦略といえるだろう。台湾・台北の「Mangasick」は、Facebookは自国向けに中国語繁体字で、Instagramは英語で、Twitterは日本語で、と戦略的に使い分けることで、小さな店ながら世界に向けて発信している。

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*菊池敬一『ヴィレッジ・ヴァンガードで休日を』(新風舎、二〇〇五)

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P176-P178より転載


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ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。
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