連続ブログ小説「南無さん」第一話

南無さん、南無さん。

白昼往来、己を呼ぶ声に南無さんが振り返ると、そこには一人のTENGAが立っていた。南無さんはこれに何用かと尋ねる。

南無さん、いまあなた、いやらしいことを考えていた。そうでしょう。そこでゼヒ、ぜひわたしを使ってもらいたい。いかがだろうか。

南無さんはこの手の押し売りには慣れていたので、社交辞令としてTENGAをひと撫でふた撫でぐらいしてから、やっぱりいいよ、今日は気分じゃあないんだ。などと言ってTENGAを退けた。そうですか、ではまた、いずれ。とぼとぼと去っていくTENGAの背中はいつにもまして丸まっている。

南無さんは、このTENGAが使い捨ての身で繰り返し不正就労をはたらいていることを知っていた。乾く暇のない彼の口からはいつも追加されたローションが滴っていたのである。

身を切り生活を立てている彼を使ってやるのも人情だが、ここはあえて見捨てることで、その歪んだ生活を見切る一助になることができればと思ったのだ。南無さんが使えば、彼はまた次の相手を探しに行くだろう。それはとてもつらいことだ。彼の口の中はもう擦り切れていることなど、目に見えていた。南無さんは、それだけはできなかった。


阿弥陀仏よ阿弥陀仏よ、わたしたちをお救いください。

家に帰ると、南無さんはそんなことを念じながら、一心不乱に腰を振った。

彼の手には東京名器物語が握られている。


二親は、早くに死んだ。

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